第9話 大捕物
「さぁーて、どうするオルザンとモルガン。ボルムはあんた達を『殺れ』と命令したぞ。俺は当事者だがボルムと里にいるグズネスの仲間達の事は、長老のあんた達が決める事だろう」
「しかし、グズネスの仲間達は全部で50人近く居るんだ。争えば多数の死傷者が出る事になる」
「里の者が被害を受けているのに、捕まえる気が無いって事かな」
「いきなり50人・・・40人近くを捕まえるのはむりだ」
「捕まえて処罰する気は有るのだな」
「勿論だ、アキュラも手伝ってくれ。お前の結界魔法は役に立つからな」
オルセンが真剣な顔で頼んでくる。
俺の結界魔法が変幻自在なのは、オルセンが一番良く知っているので手伝わせる気満々だ。
やる気が有るのなら手伝うさ、闘いは各個撃破が楽で簡単だから策を授ける。
と言っても、グズネスの仲間で腕の立つ奴を呼び出すだけだ。
・・・・・・
「アシュカ,ビルドラ居るか?」
「何だぁ、偉そうに」
「ボルム長老が呼んでるぞ。直ぐに来てくれとな」
「何の用だ!」
「知らんよ、鍛冶屋に行くと言ったら頼まれただけだ。知りたければオルザン長老の家に行けよ。伝えたぞ」
オルセンはそれだけ言うと、さっさと出て行ってしまった。
〈ケッ、長老の身内だからと偉そうにしやがってよぉ〉
〈ボルムが呼んでるってのなら、無視する訳にもいかんだろう〉
〈グズネスはどうしたんだ?〉
〈例の小娘が薬草採取の為に里を出たと言って、後を追って行ったぞ〉
〈あれか、ガキだが顔は良いし治癒魔法が使えるから高値で売れそうだな〉
〈声が大きいぞ、それより行くか〉
〈オイ、お前等行くぞ〉
アシュカとビルドラは、それぞれ5人の取り巻きを従えてオルザンの家へ出向いた。
「ボルム長老。何の用だ・・・ん、オルザン長老ボルムさんが呼んでいるって聞いて来たのだが」
「何だよぉ~、呼び付けておいて居なくなるとはなぁ」
「ボルムなら居るぞ」
「おんやぁ~、小娘は薬草採取に行ったんじゃねえのか」
「ゴキブリより質の悪いのがわんさか沸いて出たから、害虫退治に変更したのさ」
一塊になっている奴等の周囲を結界で囲み、ゆっくりと絞っていく。
〈おい、押すなよ!〉
〈馬鹿! 何か後ろが狭くなってるんだよ!〉
〈何やってるんだ! 前に行け!〉
〈おかしいぞ、何か狭くなってるぞ〉
〈糞ッ・・・出られねえぞ。どうなってやがる〉
アシュカとビルドラを中心に海苔巻き状にして、身動き出来なくしてから結界を絞るのを止めた。
〈小娘! 此れはお前がやったのか。出せ!〉
〈舐めた真似をしているとこの里では生きていけねえぞ〉
煩いので上部も塞ぎ遮音状態にして放置、次の獲物の到着を待つ。
マルゲブ率いる集団が肩で風を切ってオルザンの家に来たのは、アシュカとビルドラの一団を拘束してから20分程後の事だった。
アシュカとビルドラを呼び出したオルセンが、その後のんびり寄ったのはマルゲブの家だ。
「マルゲブは居るか?」
「何の用だ」
「長老のボルムが、皆を連れてオルザン長老の家に来てくれと言ってるぞ」
「アアーン、何の用でだ」
「知らんよ、俺は畑の様子を見に行く序でに伝言を頼まれただけだよ。嫌なら無視しろよ」
此処でもオルセンは言うだけ言うとさっさと出ていった。
〈ケッ・・・使えねえ奴だぜ〉
一応伝言は聞いたので無視する事も出来ず、不機嫌な顔で手下を引き連れてオルザンの家へ行く。
「邪魔するぜ、オルザンさんよ。ボルム長老が何の用だって?・・・ん」
「遅かったな」
「オイ! そこに居る奴等はどうした!」
「此奴等か、グズネスってゴキブリの仲間だから拘束したのさ。お前も直ぐに同じ目に合わせてやるよ」
〈舐めたメスガキだぜ・・・たっぷりお仕置きしてやるよ〉
涎を垂らさんばかりの顔で一歩踏み出したが、見えない壁に前進を遮られた。
〈ん、何だ此れは?〉
「知らないの、結界だよ。そこで青い顔をしているゴキブリ退治用のな」
〈おい、止めろよ〉
〈マルゲブさん、おかしいぜ〉
〈何だなんだ、段々狭くなっているぜ〉
〈糞ッ・・・出せ!〉
〈ウゲッー〉
身動き出来ない様に締め上げてから、残りのチンピラ共の捕獲をオルザンに頼む。
「何とも呆れた捕獲方法だな」
「此奴等13人を含めて25人、グズネス達9人にボルムと護衛で合計36人捕まえたんだから、後は楽でしょう」
「ああ、被害も混乱も無く捕獲できるとはなぁ。助かるよ」
〈メスガキ・・・お前の入れ知恵か? 里にいるだけが俺達の仲間だと思うなよ〉
「知ってるよ。ダグリンとか抜かす盗賊団の11人・・・3人ほど死んだから8人も捕まえているし、アジトの場所も聞いてるから安心して犯罪奴隷になれよ」
〈くっそうーぉぉぉ〉
真っ赤な顔で鮨詰状態から抜け出そうと藻掻いているが、無理だろうな。
先に海苔巻き状態にしたアシュカとビルドラの一団は、青息吐息と言った状態でゲロを吐いている奴までいる。
全員を拘束すると、モルガンが指揮する里の警備隊の一団が、網からこぼれたチンピラの捕獲に出掛けて行った。
入れ替わる様にオルセンが大量のロープを抱えて帰って来た。
「なんとまぁ~。一網打尽って感じだが、ロープが足りるかな」
「足りなきゃ、少しくらい殺しても良いでしょう」
弱っているアシュカとビルドラ達の結界を解除するが、皆ふらふら
で座り込み剣を抜く力もなさそうだ。
手分けして後ろ手に縛り、首と首をロープで繋いで数珠繋ぎにする。
アシュカとビルドラ達12人と、マルゲブ達13人の数珠繋ぎ集団の出来上がりだ。
そうこうしている所へ、モルガンが指揮する里の警備隊の一団がチンピラ7人を縛り上げて帰って来た。
「アキュラ、此奴等を入れておく牢が無いので、結界の中に閉じ込めてくれないか」
オルセンも人使いが荒いね。
25人+7人に長老ボルムと護衛の34人、誰一人横になれないように10/100の魔力を使い、ギリギリの大きさのバリアを作る。
オルセンには仕返しとして、翌日グズネス達の連行を手伝わせる事にした。
グズネス達を含めて43人、聞いていた話より少ないと思ったら、狩りや街に出掛けている者は帰ってきたら捕まえると言っている。
オルザンやオルセンは俺一人にやらせると、グズネス達を皆殺しにしかねないので俺の要求に素直に応じてくれた。
有罪確定の奴等に情けは無用なのに、人権なんてものは相手も人権を尊重してこそのもの。
・・・・・・
「ようグズネス生きてるか」
「てめえぇぇ・・・オルセン。たっ、助けてくれオルセン・・・その小娘が知らない奴等を連れて来て、いきなり縛った挙げ句拷問したんだ」
「あらあら、グズネスったらぁ~。知らない男達って、一緒に転がっている奴等の事かしらぁ~」
「止めろ、アキュラ。その言葉使いは寒気がする」
オルセンって人使いは荒いし、失礼な奴だな。
「グズネス、里には連れて行くが戒めは解かない。アシュカとビルドラ達にマルゲブを捕らえている。勿論後ろ盾の長老ボルムもな」
「お前の持っていたマジックポーチの中の物を全て見せたから、言い逃れは無理だぞ」
「あの品々の中には、里の行方不明の者達の物も有りそうだなグズネス。と言うか、情けない格好だな」
苦笑いしながら、グズネスと俺を見比べるオルセン。
「アキュラって火魔法も使えたのか?」
「いんや、それは生活魔法のフレイムだよ」
火膨れした鼻と焼け爛れた股間を、哀れみの目で見ているオルセン。
連れてきた警備の者達も、グズネスの姿に腰が引けている。
グズネス達と盗賊団の者達を別々に数珠繋ぎにして里に戻ると、何やら騒ぎが起きていた。
長老二人を怒鳴りつけ騒いでいるが、怒鳴り声の内容から行方不明者の親族らしい。
彼等はグズネスを見ると、殴りかかり引き摺り倒している。
どうも長老達が行方不明者の親族を集めて、マジックポーチの中の品々から見覚えの有る物を探させたらしい。
日頃から嫌われている奴等が、身内を殺したか奴隷にしたと判ればそうなるよな。
俺は盗賊達8人をバリアの中に避難させ、グズネス達に対するリンチを見学させる。
此奴等にはアジトまで案内させる必要があるので、殺させる訳にはいかない。
「アキュラ、何とかならんか」
「オルセン、俺に言ってもどうしようもないよ。先に捕らえたボルム達全員を連れ出し、公開での尋問と裁きを受けさせろよ。それと怒りの矛先を逸らす為に、グズネス達と繋がっている盗賊団のアジトを襲う参加者を募れば」
オルセンは頷くと、騒ぎの中に跳び込み〈止めろ! グズネス達と繋がっている盗賊団を始末するのが先だ! 奴等を皆殺しにして恨みを晴らせ!〉って殺す気満々の酷い奴。
警備の者達がグズネス達を助け引き摺り出してきたが、数珠繋ぎのボロ布の様になっている。
まだ死なれちゃ困るので、マジックバッグからお手製のポーションを取り出し、グズネス達に振る舞ってやる。
「よう、未だ未だ死なせないよ。俺を狙った償いはゆっくりして貰うからな」
「糞野郎、ゴブリンに犯されて死ね!」
「やっぱり、お前はゴブリンの餌にするのが良さそうだな。全てが片付いたら、生きたゴブリンの檻の中へ素っ裸で放り込んでやるよ。それとも毎日ポーションを飲みながら、玉を焼かれる日々を送る方が良いかな」
グズネスの顔色が変わったから、玉焼きは結構効いたみたいだ。
「ゴブリンを半殺しにして連れ帰り、アキュラのポーションを飲ませて飼っておくか」
「犯罪奴隷として領主に引き渡しても、此れだけの規模なら役人共と繋がっている恐れもあるしな。下手に領主や役人に渡すと、反対に犯罪者にされかねないからね」
「それは皆と相談して決めるよ」
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