第7話 グレイウルフ
奴等との距離は25から30mとちょっと遠いが、2/100も魔力を込めれば届きそうなので試してみる。
両足を踏ん張り、必死の形相で詠唱している足下に大きなリングを作り絞り上げる。
何が起きたのか判らずに、転倒して藻掻いている。
出来るじゃない! 俺ってやれば出来る子なのね。
自信を持って、残る二人の足もリングを作って締め上げると転倒して藻掻いている。
振り返ると、魔法使い達の異変にグズネスが怪訝な顔をして見ている。
次はバリアを攻撃している奴等の背後に、一回り大きなリング状の障壁を立てて可視可してやる。
同時に俺の籠もるバリアも、1.5m程度の高さを可視化する。
背後に高さ5m以上の灰色の壁が出現して、俺との間にも壁の存在を誇示する灰色の壁に驚いている。
「グズネス残念だが、転移魔法使いは役に立たなかった様だぞ」
「てめぇ~、何故ピンピンしていやがる! 後ろの魔法使い共に何をした!」
「残念だねぇ~、お前の知らない魔法も有るんだよ♪」
可愛くウインクをして、音符付きで答えてやる。
取り敢えずグズネス達を放置して、バリア内で倒れている奴らを縛り上げてから、リングをキャンセルして詠唱出来ない様に口を蹴りつける。
前歯が飛び散り、唇が裂けて血塗れになる男達・・・グロいねぇ。
魔法使いは生きてるのかな? どうでも良いので後回しにする事に。
グズネス達に向き直ると、背後に出来た結界を壊す為に必死で攻撃している。
「グズネス、お前等如きに破れる結界じゃないよ」
俺の結界は対戦車砲弾も受け付けないイメージの産物だ、ロングソードや斧如きで壊れるものか。
〈出せっ! この糞ガキが、犯すぞ!〉
「いっや~ん、恐いわぁ~♪」
女になって初めてのぶりっ子が、おっさんの団体相手とはねぇ。
しかも女言葉の練習なんてしてないので、棒読みになってしまった。
ヤラセンの里に到着してから感じていた、舐め回す様な視線と不遜な態度の集団。
身を守る為に結界魔法を色々と工夫して、攻撃にも使える様に工夫しておいて正解だった。
でも一番の正解は、身体の周囲を守るシールドだな。
騒ぐグズネス達の足を次々と拘束すると、足を締め付ける見えない何かを外そうと藻掻く奴等の腕もリングで締め付ける。
可視可した結界を透明に戻して、周囲に人影の無い事を確認してからドームの結界のみをキャンセルする。
アクティブ探査も遠くの野獣以外は、倒れている魔法使い三人しか感知出来ない。
〈アキュラ 此をやったのはお前か? 外しやがれ!〉
〈小娘が、己一人で俺達に勝てるつもりか!〉
〈糞ッ、誰だよ、結界を張るしか能の無い小娘だと言った奴は〉
「煩いよ、あんまり騒ぐと手足を縛って森に放置するよ」
足を拘束した魔法使いが二人、這いずって逃げようとしている。
赤ちゃんみたいにズリ這いをしているので、魔法使いの元に駆け寄り腕を踏みつける。
〈ボキッ〉って音がした様だが気にしない。
腕を拘束してから、足のリングをキャンセルして立たせるとグズネス達の所に連れて行く。
諦め顔の一人は青い顔をして震えているが容赦はしない。
総勢20人を一纏めにすると、改めてバリアを張り視界以外の音も遮断する。
魔法使い三人の内の一人、青い顔で震えている男から尋問だ。
「俺をどうする気だったんだ? 痛い思いをしたくなければ早めに喋れよ」
〈ゴラン、余計な事を喋ったら、どうなるのか判っているよな〉
外野が煩いので、脅しを掛けた男の口を蹴りつけて喋れなくする。
血塗れの口で呻く男を見ても、怯えや罪悪感嫌悪感も無し。
オルセン達と狩りに行き野獣との戦闘や解体を見てきたからか、それとも元々非情な性格なのか判らないが、怯えなくて済むってのは有り難い。
此からやる事に、躊躇しないで済むのは助かる。
後ろでブツブツ言っている奴が居るので振り返ると、ファイアーボールが浮かんでいる。
次の瞬間目の前が真っ赤になり吹き飛ばされたが、バリアに当たって止まる。
本日2度目のシールドによる防御、口さえ動けば魔法を撃てると学習した。
ファイアーボールで吹き飛ばされたが、何事も無くしれっとした顔で立ち上がる俺を見て、震える男と向き合う。
「見ろよ、結界内でファイアーボールなんて打つから、みんな火の粉で大火傷をしているじゃないの」
〈何故・・・何故お前は何とも無いんだ?〉
「さぁ~、どうしてでしょうねぇ~♪ 精霊の加護じゃ無いのかな♪」
〈悪かったよ。誘いに乗った俺が馬鹿だった。今からお前の、あんたの下につくから勘弁してくれ〉
「ん、俺の下につくっての? なら何故俺を襲ったのか喋れよ」
至近距離でファイアーボールが爆発した巻き添えで、大火傷をして呻く仲間達を見て言い淀む。
「喋らないのなら俺の下につくってのは嘘だな。見ろよ、間抜けなお前がファイアーボールを射ったせいで、大火傷をした連中が睨んでいるぞ」
言い淀む男をバリアから外に蹴り出し、手足の腱を切り服を切り裂き素っ裸にして放置する。
痛みで〈ギャアギャア〉と騒いでいた男が、何が起きるのか察して必死に頭を下げ謝罪を口にするが、知った事か!
バリア内に戻ると、魔法使い二人の口も詠唱できない様に蹴り潰す。
ゴランと呼ばれた男の所に行くが、俺の目の前にいた為に焼け爛れて死んでいた。
ゴランに口止めをした男の前にしゃがみこみ、マジックバッグから怪我の回復ポーションを取り出して振って見せる。
「アキュラちゃん特製、怪我の回復ポーションだよ。里の薬師、エブリネ婆さんの折り紙付きだよぉ~、いる♪」
長老から紹介された薬師のエブリネ婆さんは、精霊の見える人で俺に薬師の仕事を色々教えてくれた。
解熱薬の作り方から怪我や疲労回復ポーション、魔力回復ポーションまで何一つ隠さず教えてくれた。
そのお返しに、里の周辺に生える貴重な薬草を含む、大量の薬草を渡した。
序でに薬草保存用のマジックバッグの容量拡大と、時間遅延もしっかりしてあげた。
今では3/90と、そこそこの性能のマジックバッグになっている。
勿論、長老達にも内緒にする約束をしてからだけど。
因みに3/90、3m角27㎥の容量と90倍時間遅延のマジックバッグだ、時間遅延効果が高いので金貨数百枚の価値があると言っていた。
ボーションの蓋を取り、細い管を差し込み吹き口を咥えて火傷をしている顔に吹きかける。
管の上部の気圧が下がりポーションが上に上がって霧状になり男の顔に降りかかる。
いきなり霧吹きでポーションを吹きかけられて、顔を顰めているが火傷は綺麗に治っていく。
吹きかけたポーションの残りを口に流し込み暫く待つと傷が治り・・・飛び散った歯は無理か。
初級ポーションでこの性能は、中級ポーションとしても十分通用するとエブリネ婆さんに言われた。
「どうせ治すのなら、治癒魔法で治してくれよ。上位クラスの腕前だと聞いてるぜ」
「前歯が無くて、良く聞こえないぞ。質問に答えないのなら、表に放り出した奴の横に並ぶ事になるけど、どうする?」
そう言うと、ちらりとバリアの外で横たわる男を見て鼻で笑う。
「あんな雑魚と同じだと思うなよ。それにグズネス達を敵に回すって事は、ヤラセンの里で安心して暮らせなくなるぞ」
「そうなの、どうでも良いけどね」
薄ら笑いを浮かべる男の口の中に、小さなフレイムを出現させる。
〈グワッァァァー〉口の中が火事になり悲鳴を上げるが、フレイムって通常10秒くらい燃えているので相当熱いだろうなぁ。
薪に火をつけるフレイムも使い方次第、魔力を込めれば立派な武器になるんだよ。
ファイアーボールの様に飛ばないし、精々10mくらいの範囲内だけど身を守る為とか拷問にうってつけなのさ。
フレイムが消えてハアハア言っている男の耳の穴に、再びフレイムをお見舞いする。
〈ギャァァァ ァァ〉悲鳴を上げて転げ回っているが10秒間の拷問。
魔力を込めれば時間延長出来るが、殺したい訳では無いのでそこまでしない。
呻き声を上げて横たわる男を、青い顔をした仲間達が見つめている。
素っ裸で放り出した男が、ジタバタと変な動きをしている。
みるとウルフの群れが現れている。
透明なバリアだが煩いので音声を遮断していたが、見せしめの為に何が起きるのか聞こえる様にする。
〈たっ、助けてくれ・・・お願いだ、死にたくない〉
「見ろよ、お仲間の最期だ、しっかり見届けてやれよ。もっとも俺の質問に答えなければ、直ぐに後を追う事になるけどな」
そう奴等に告げてから、二人目の犠牲予定者の衣服を切り取る。
〈ギャアァァァ・・・助けてぇぇ・・・止めろ、喰わないでくれぇぇぇ・・・止めて・・・〉
断末魔の声が啜り泣きになり、直ぐに静かになると肉を喰い千切り餌を巡って争う、グレイウルフの唸り声だけになる。
透明なバリアの直ぐ外、凄惨な光景に冷や汗を流しながら黙って見ている男達。
素っ裸にした男をバリアの直ぐ傍へと蹴り飛ばすと、バリアを引っ掻いていたグレイウルフが集まって来る。
「お前達、結界を小さくしてその男を放り出すが、其処に居ると一緒に喰われるぞ」
そう警告してやると、リングに締め上げられた身体で必死に俺の周囲に集まって来る。
素っ裸の男も必死で俺の所に向かって来るが、残念、既に新たなバリアを展開済みだ。
皆に見える様に、新たなバリアを視覚化してから外部のバリアをキャンセルする。
〈糞ッ・・・覚えていやがれ!〉 〈ウゴォォォ〉 〈止めろっ・・・〉
おー、中々の根性と覚悟だが、俺って物覚えが悪いので直ぐに忘れてしまうからね。
バリボリ骨を噛み砕く音の間に何やら聞こえて来たが、直ぐに静かになりグレイウルフの唸り声だけが聞こえる。
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