第6話 里の暮らし

 ヤラセンの里で暮らす事になったが、此の世界の常識を知らない為に長老オルザンの所に住まわせて貰える事になった。

 早い話、此の世界の常識を知らない俺を放置するのは、危険すぎると判断された様だ。


 確かに、森の中に在る集落だが目付きの悪い者もちらほら見受けられる。

 何処の世界にも、一定数のはみ出し者が居るのは仕方のない事だろう。

 オルサンは長老オルザンの孫にあたる様で、道理で似た様な名前だと思った。


 俺の希望と探索能力と結界魔法を買われ、時々オルサン達の狩りに同行する事があった。

 俺の役目は、野獣の探索と討伐時の防御が担当である。

 代わりに森での生活と、薬草の効能を教えて貰い独り立ちに備える。

 勿論、此の世界の常識も色々と教えて貰った。


 狩りに出るのは一月の内一度か二度で、それ以外は薬草を使ったポーション作りや治癒魔法の練習だが、そうそう怪我人がいる訳でもない。

 それに治癒魔法と言っても。詠唱など覚える必要が無かった。


 イメージに魔力を乗せる、ラノベやアニメで鍛えられた日本人にとって、想像力や妄想力はバッチリ(元の様になーおれっ♪)で終わり。

 鑑定で悪い所を確かめ、其処を集中的に治れと祈るだけなので、教えてくれる治癒魔法師が呆れていた。


 一番面倒なのが薬草の名前を覚える事だったが、鑑定を使って効能で覚える事にした。

 (鑑定!)〔薬草・解熱・食用可〕とか〔薬草・鎮痛・食用不可・毒〕などと判り楽勝である。

 生活費を稼ぐにはポーション作りが一番手っ取り早そうなので、重点的に覚える事にした。


 但し、何でもかんでも覚える気は無い、怪我の回復ポーションと常備薬的な物を中心に覚える。

 結果、冒険者御用達の怪我の回復ポーション四種、初級,中級,上級ポーションと最上級ポーション。

 魔法使いの為に、魔力回復ポーション四種、魔力が10,20,30,40回復ポーション。

 それと解熱,頭痛,腹痛,咳止め,二日酔い回復の五種類の作り方を習った。


 習ったと言うより、蒸留水に薬草を浸してエキスを抽出して精製濃縮するだけだから大して難しくもない。

 魔力回復や怪我の回復ポーションは、魔力草から採れる魔力水を使うので魔力水を集める方が面倒だ。


魔力草の蔓を見付ける方が遥かに難しい仕事だが、俺の探索は良い仕事をしてくれるので苦労はない。

 特定の野獣や植物指定でアクティブ探査をすると、居場所や生えている場所が判るので楽々採取。


 魔力草は南瓜の蔓に似ているが鋭い棘が有り、茎を切って溢れる溶液を集めるのだが、1ℓ程度集めるのに12時間は掛かる。

 初めて教えて貰ったときには、ヘチマ水を採取するのに似ているなと笑ってしまった。


 然し、魔力草は群生せず、一度茎を切ると枯れてしまうので乱獲は出来ない。

 気楽に森に入り毎回魔力水を持ち帰る俺は、里の薬師からは結構重宝されて色々と教えて貰った。


 万が一薬草名が必要な時の為に、カンニングペーパーもバッチリ作ったので安心だ。

 解熱→エリオン草

 痛み止め→トリコ草

 酔い止め→ブルヘントロル草

 等々書き連ね、他人に採取を頼んだり店舗で買い入れるときの準備は怠らない。


 薬草採取の為に里を出るときは何時も一人だ、皆俺の探索スキルと結界魔法の事を知っているので何も言わない。

 そして野営の時には、結界魔法を使った攻撃方法の考案と実験をする。

 野営用のドームから防御用の楯や障壁とか、周囲を囲む円筒形の結界に始まり、ドーナツ状の結界を任意の場所に出現させる方法。


 薄いリング状のブーメランを飛ばして、立木や野獣を斬り付ける方法等を考案した。

 もっともブーメランは二度と作らない事にした。

 飛ばした結界のブーメランは見えないのだが、身体の周囲に張っていた結界にぶつかって跳ね飛ばされた。

 ブーメランって戻って来るのを忘れていた。

 身体の周囲に張り巡らせている結界がなければ自爆して、真っ二つになる所だったと冷や汗がたっぷり出たのは良い思い出。


 遠距離攻撃・・・精々20メートル程度だが、鋭い刃先の着いたフリスビー形に変更した。

 ちょっと見にはフリスビーが見えないので、風魔法の風刃みたいでかっこいいと思ったのは内緒。


 一番使えると思ったのはドーナツ状のリングだ、大きさ太さは自由自在なので野獣の拘束や討伐は此一つで十分。

 見えないリングを首に嵌めて絞れば、如何なる猛獣もイチコロ。

 対人戦にも活躍しそうで、良いものを思いついたと自画自賛したものだ。


 何れの結界魔法も精々20メートル程度が限界で、それ以上距離が離れると魔法が発動しなかったが、攻撃魔法の無い俺には十分だった。

 それにガイドの言葉通りなら、馴れれば魔法発現の距離はもっと伸ばせそうだ。


 最近俺が薬草採取で里を離れると、二日目以降に時々里の住人と接触する。

 俺が初めてヤラセンの里に来た時から、目付きの悪い連中からの視線は感じていた。

 何処の世界にも居る連中を相手にする気も無かったが、向こうはそう思っていないのがよく判る。


 始めの頃は長老オルザンの客人として紹介されたし、オルサンやフルーナ,メルサ等が常に傍に居て手が出せなかったのだろう。

 最近俺が一人で薬草採取に森に行っている事を知ったのか、時々森で出会う。

 俺の探索スキルの能力は里でも有名なので、後をつけてくる様なヘマな事はしないが、俺の行く先を予想して待ち伏せをしているのが丸わかりだ。


 フルーナ達からは「あんたは幼くて可愛く能力も有るので、充分気を付けなさい」と度々言われるが男に興味は無い!

 常にアクティブ探査で奴等の動向を監視しているので、居場所は解っているが奴等も里周辺の薬草採取の場所など十分承知なので避けきれない。


 今回は数が多く完璧な包囲網を敷いた様だった。

 水滴を落とすアクティブ探査で200メートル程度だが、魔力の水滴を落とすアクティブ探査の圏外、500メートル以上離れて待ち伏せをしていた様だ。

 途中からアクティブ探査で、後をつけてくる一人を確認していたが、聞き慣れぬ鳥の囀りとともに全周から俺に向かって来る多数の人を感知した。


 どうやら向こうは本気になった様だ、少し見通しの良い場所に出て、防御用バリアを張り服の外側にシールドと名付けた結界を張って待つ。


 「ようアキュラ、こんな所で何をしているんだ」


 「やっぱりお前か、グズネス。毎度まいど飽きずに良く付け回すな」


 「ヘッヘッヘッ、俺は可愛い女の行く先は判るんだよ」


 「それにしては、大勢で取り囲んだな」


 「お前は結界魔法が使えるから大丈夫と思っているのだろうが、そんなものは何の役にも立たないと教えてやるよ」


 バリアの直ぐ傍に来て、拳でバリアの存在を確かめながらニヤニヤと笑っている。

 包囲の輪が縮まり、バリアの周囲に男達が姿を現すが、半数はヤラセンの里の人間だ。

 里の者が9人と見知らぬ男達が11人、20人も集めて俺一人をどうする気なんだろう。


 「随分集めたが、此れだけの人数で俺一人をどうする気なんだ? 俺って男は嫌いなんだけど」


 「若くて可愛いけど、娼婦にするには勿体ないからな。お前の治癒魔法は中々の優れものだと伝えたら、連れて来いってお方が現れてなぁ。お前も里の世話になったんだ、恩返しのご奉公をしても悪くはないだろう」


 「抜かせ! 世話になった以上の物を返しているはずだぞ。お前の寝言なんざ聞きたくも無い、結界が役に立たないってほざいたが試してみなよ」


 「直ぐに判るぜ」


 グズネスがそう言った瞬間、背後に人の気配がして衝撃と共にバリアにぶつかった。

 同時にグズネスの左右の男達がバリアを集中攻撃し、反対側で〈ドドーン〉と轟音が響く。


 〈オイッ、効いてねえぞ〉

 〈叩き潰せ!〉

 〈馬鹿! 怪我をさせるな、押さえつけるんだ!〉


 両手を左右から押さえられたが、成人前とは言え龍人族の血を甘く見すぎだ!

 掴まれた腕を胸元に引き付けると同時に身体を捻り、左側の男の向こう脛を思いっきり蹴りつけ、怯んだ隙に腕を振り払う。

 右腕を掴んだ男が力任せに押さえつけようとしてくるが、その腕にリングを嵌めて一気に締め上げる。

 〈ボキッ〉っと変な音がして男が腕を抱えて蹲るが、気にしない。


 頭に衝撃が来たが、そのまま前転して立ち上がると棍棒で殴りかかってくる所だった。

 大上段に振りかぶり、殴ろうと踏み込んで来るのに合わせて胸元に跳び込み肘打ちを叩き込む。

 動きの止まった男の首にリングを嵌めて死なない程度に締めてやる。


 見回せば、向こう脛を蹴った男が足を引き摺りながら腰の剣を抜き、向かって来ている。

 バリア内には三人だけの様なので、最後の一人は胴体にリングを嵌めてゆっくりと締め上げてやる。

 むっきむきのオッサンだが、ウエストが極細のセクシー体型になり倒れ込んで呻いている。


 ラノベを教訓に、オルセン達から素手や武器を使った闘いの手ほどきを受けておいて良かった。

 此の世界は、力無き者には生き難い世界に間違いなさそう。


 バリアの外では相変わらず攻撃を繰り返しているが、そんな事で破れるものか!

 侵入者を見ながらどうしてと考えていて、転移魔法ってのが有ったと思いだした。

 三人とも転移魔法が使えるのか、それとも一人の転移魔法使いに連れてきて貰ったのか知らないが、後頭部を蹴りつけて意識を刈り取る。


 背後で〈ドンドン ドンドンドーン〉と煩いのは、ファイアーボールとアイスランスにストーンバレットがバリアに当たる音だった。

 詠唱しては攻撃してくる魔法使いを見て、薄ら笑いで掌を見せ肩を竦めてやる。

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