第68話 お披露目

 ウルバン教皇とシンドの間に位置する俺は前後を3メートル程開けているので見間違う事もない。

 “こがね”が肩に止まり、他の精霊達も勝手気儘に飛び回っているので、まやかしでは無いと一目で判る。


 〈精霊の巫女様・・・〉

 〈やはり、オンデウス大教主達三人が巫女様を害しようとしたのね〉

 〈巫女様を守護する精霊は、途轍もない魔法を使うそうだ〉

 〈あれ程神々しい御方を害しようなんて、何と言う罰当たりな!〉


 教団の宮殿内をほぼ見て回り、王城への通路に向かっているときに進路を塞ぐ一団が現れた。


 「精霊の巫女殿とお見受け致しますが、何故貴方を害しようとしたウルバン教皇やエルドア大教主に与するのですか?」


 「アリューシュ神様の僕として生きる彼等は、精霊の加護を受ける私の僕となる事を望んだからです」


 「つまり、貴方はアリューシュ神様が使わされた神の代理だと言われるのですか?」


 「いいえ、私は只人ですよ。喜怒哀楽の感情を持ち齢を重ね消えゆく者です」


 「賢しらげに言うが、お前の周辺に居るものがアリューシュ神様より遣わされたと証明出来るのか」

 〈そうだ! そもそもそんな小さな物が魔法を使うなどと法螺にも程が有る!〉

 〈そこに浮かぶ精霊とやらがアリューシュ神様より遣わされてたものならば、敬虔なるアリューシュ神様の僕達を殺めるはずは無い!〉


 おっ鋭いところを突いてくるけど、残念ながらちょっと的外れ。

 彼奴らが敬虔なるアリューシュ神様の僕と証明出来てないし、精霊がアリューシュ神様から遣わされたとは一言も言ってない。

 まっ、信じる気の無い者に証明する気は無い。

 俺はアリューシュ神様に会った事も無ければ、精霊が何処から来たのかも知らない。


 《アキュラ、殺しても良い?》


 《そうだね、1人ずつね。周囲に被害が出ないように出来るかな》


 《出来るよー》


 《おっ“すいちゃん”か、お任せするよ》


 お任せした瞬間、俺に問答を仕掛けてきた男の周囲に水の幕が出現し、目の前で水死体が出来あがるのを見せつけられる事になった。

 周囲に居た者達も、藻掻き、苦しみ死んで行く様子を見せられて真っ青になり、祈る者,ゲロを吐き蹲る者,涙を流す者と騒然となる。


 《次ぎ、私!》


 “ふうちゃん”が名乗りを上げると、水死した男に同調して騒いでいた男の周囲に風が巻き起こる。

 直径1メートル高さ4メートル程の風の筒は、中の男を独楽のようにくるくる回したかと思うと一瞬で血煙に包まれた。

 風が収まり崩れ落ちた男は、風の刃に切り刻まれたのかズタボロである。


 《エッ・・・まさか、止めてくれーぇぇぇ》足下から凍っていく男は、悲鳴を上げた形のまま凍って白い像になる。

 その隣は口から火が溢れ出て、悲鳴すら上げずに倒れる。


 〈にっ、逃げろー!〉

 〈嫌ーぁぁぁ〉

 〈たっ助けてぇぇぇ〉

 〈お許しをー〉


 頭の天辺に落雷を受け黒焦げになり、次の者は壁から土の槍が突き出て心臓を一突きされている。

 快楽殺人の現場みたいになってきたので中止させる。

 いやー、大規模魔法で吹き飛ばす方が人道的だと知った。


 精霊達がアリューシュ神様から遣わされたとの悪魔の証明は出来ないが、魔法が使える証明はバッチリ出来た。

 男に同調して付いてきていた者達が、ひれ伏し祈りの言葉を呟き震えている。


 邪魔者がいなくなったので、通路を通って王城内に入り巡回を続ける。

 王城に勤める高官達や、陳情の為に控えの間で待っている者達の所にも顔を出しておく。

 時に病を抱えている者には“こがね”に頼んで治療してもらうおまけ付き。

 この頃になると王城内に俺と精霊の事が伝わっていて、通路には多数の人々が犇めき祈りを捧げる者も多数いた。

 精霊達のお披露目になってしまったが、これで文句を言い出す奴等は見ていた者達が黙らせるだろう。


 ウルバン教皇猊下、俺の前を胸を張り得意げに歩いているが、俺の露払いにしかなっていないのを判って無い様だな。

 俺と精霊を見て祈りを捧げる人々からは、お前さんはただの案内係りだぞ。

 以後俺に反旗を翻したら、信徒から離反され教皇の座を引きずり下ろされる事になるのだが、判っちゃねぇなこのおっさん。


 「シンド、これで暫く教皇達に刃向かう者は出ないと思うよ。このおっさん達だけでは心細いだろうけど、魔法使い達の事を宜しくね」


 君の頑張りに俺の気楽な生活がかかっているので宜しく。

 アリューシュ神教国の人心安定はレムリバード宰相達の仕事で、その為に神教国管理という利益を与えているのだから頑張って貰わねば。


 さっさと帰って、アリシアとメリンダに魔法を教える方が俺には重要課題だ。


 ・・・・・・


 二人がフレイムを出した時に、極僅かな少量の魔力が抜けるのを感じられると言い出したので、女神教の魔法訓練場に向かう。


 「以前の事を覚えている、掌の上に極小さな雷を出してみてよ。フレイムを出すときの魔力の流れを意識してね。もう一つ、雷を出す場所を見ている事」


 念のために二人にシールドを張り、アリシアの横で掌を見ている。

 真剣な顔で腕を差し出し、掌を上に向けて詠唱を始める。


 〈我が魔力を糧に、出でよ! 雷光!〉掌の上50センチ程の場所に、ピンポン球程の光が現れ小さな閃光を放ち消えていく。


 「もう一度、今の感触を忘れない様にして続けて」


 アリシアの顔が喜びで溢れているが、俺に言われて真剣な顔に戻り詠唱を始める。

 五度程繰り返させて次の段階に進む事にした。


 「アリシアのフレイムは、焚きつけに火を点けるときにどれ位で消えてしまう」


 「10から15数えるくらいの間かしら」


 「では次ぎに雷を出すときに、フレイムと同じ大きさと時間くらいと思ってやってみて」


 〈我が魔力を糧に、出でよ! 雷光!〉掌の上に現れた球雷が消える事無く雷光を放っていて、ちょっと危険な線香花火のよう。


 「良いわねぇ~。ねぇアキュラ、私も教えてよ」


 「慌てないでよ、メリンダのは氷結と風魔法だろう。雷撃魔法とはやり方がちがうのだからちょっと待ってよ。メリンダの魔法も危険すぎるからね」


 アリシアが今の状態を忘れない様に連続してやらせ、魔力残量が20を斬った時点で中止させた。


 「どう、体調は?」


 「少し疲れたわ」


 「自分の魔力が、どれ位残っているのか判る?」


 「さっきの話しの事?」


 「そう、自分が何回魔法を使ったか数えて無いでしょう。討伐の最中に今の状態になったらどうなると思う。あと五回魔法を撃てるけど、身体は疲れ切っていて魔法はまともに当たらないよ。自分達の生死が掛かっていれば無理もする、六発目には魔力切れであの世行き確実だね」


 「あんたは常に数えているの」


 「俺は鑑定が使えるから、鑑定を使って魔力残量を確認しているよ」


 アリシアを休ませ、メリンダにも最初はフレイムを出して貰う。

 メリンダのフレイムも、現れてから14~15数えると消えた。

 三度ほど同じ事をしてから、フレイム大の氷を掌にのせてみろと指示する。


 「それって、アリシアのフレイムと同じ要領で良いのよね」


 「そうだよ、基本的な部分は変わらないと思うね。詠唱としては〈我が魔力を糧に、凍てつく礫を現せ!〉かな。取り敢えず氷の塊をイメージしてやってみてよ」


 「なんか適当に言ってない」


 「んじゃ、メリンダが何時も唱えている詠唱でどうぞ」


 「んー・・・長いのより短い方が楽だから、アキュラの方でやってみる」

 〈我が魔力を糧に、凍てつく礫を現せ!〉


 差し出した掌の上にピンポン球大の氷が一つ現れる。


 「ふふん・・・どうよ」


 「そこ、威張るところじゃないよ。出来て当たり前、散々アリシアのを見ていたのだからね。後学の為に、メリンダが何時も使っている詠唱を聴かせて貰えるかな」


 ウッ、と言った顔で黙り込み睨んでくる。


 「アキュラちゃん、意地が悪いと今夜一緒に寝てあげるよ♪」


 「メリンダお姉様、魔法の練習を続けましょうね」


 魔力切れ寸前まで遣らせて、怠くて身動き出来ない様にしてやろうかしら。

 氷作りが難なく出来るのでホテルに戻り、明日は王都の外で練習と告げる。


 ・・・・・・


 数日分の食料を確保して王都の外に出るのだが、馬車は貴族専用通路に入れろと言っているのにボルヘンが嫌がる。

 レムリバード宰相直属の身分証を持つ者が、六人も居るのだから心配するなと叱咤して貴族専用通路に進ませる。

 俺なんて貴族も恐れる、王国査察官と同等の物だぞ街の出入りで気安く出せる物じゃない。


 目立つだろうとは思っていたが、貴族の紋章入りや豪商達の豪華な馬車列の中に混じると目立つ目立つ。

 好奇心溢れる多数の眼差しが突き刺さり、御者席のボルヘンとバンズが小声で文句を言ってくる。

 まっ、通行証を見せたら黙って通してくれるから其れ迄の辛抱だ。


 流石に王都の出入り門、貴族の馬車だからと言って素通りはさせない。

 何でこんなに貴族の馬車が多いのか、領都間は転移魔法陣を遣う筈だろう。

 それに貴族の馬車の護衛に冒険者が多数混じっている。

 少しずつ前進していると、いきなり御者席の横で怒声が響き渡る。


 〈何処の田舎者が貴族専用通路に居座っている! 道を開けろ!〉

 〈ドカーン〉と馬車の扉にも何かが叩き付けられた。


 勘弁してくれよー、王都の出入り口で多数の目がある中で騒ぎを起こすなよ。

 ボルヘンやバンズ達では相手が出来ないだろうからと思い、馬車の扉を開けると鞭が飛んできた。

 〈バシーン〉って良い音がして被っていたフードの先が破れた。

 シールドを張っているから怪我はしないが、やってくれるじゃないの。


 《誰も出ちゃ駄目だよ! 静かにしていてね》


 《アキュラを攻撃したよ!》

 《許すまじ、殺す!》

 《ギュウギュウにしてやる!》


 《駄目! 絶対に駄目だからね!》


 〈お前は何処の小倅だ! 貴族専用通路にのうのうと居座りやがって、馬車をどけろ!〉

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