第44話 当て外れ
王家との繋がりの説明ってもなぁ。
何れ聞かれるだろうと思っていたので、考えていた想定問答集から引き出した答えを話す。
「俺の作るポーションの効き目が良いので、ネイセン伯爵様も王家もそれが欲しい為に色々優遇してくれているんだ。優れた治癒魔法師を教会や貴族達が挙って抱え込むのと同じだけど、俺には結界魔法があって無理矢理抱え込む訳にはいかないのさ」
俺の結界魔法の力を良く知るメンバーだから、疑いもせず頷いている。
それと冒険者になってからゴブリン一匹討伐しようとせず、ポーション制作だけで大金を稼いで生活している。
以前エリクサーを作ったときの伯爵様の反応も思い出し、何となく納得してくれた。
やれやれ、さあ寝ようと思ったら二人が離してくれない。
「ちょっとぉ~、もう寝たいんだけど」
「だから、一緒に寝ましょう♪」
「最近あんたが居なかったからね、たまには良いでしょう」
「子供の代わりにしないで、又作りなよ。安全で安定した仕事をしてるんだし」
「あんたも子供を持つと判るわよ。子育ては大変なの! 手が離れて何十年経ってると思ってるの、今更子供なんて」
「そうそう、子供はもう良いから孫だけで十分よ」
「その孫も滅多に会えないし、直ぐに大きくなって可愛くないのよ」
「俺は此れでも18なんだけど」
「なに言ってんの、エルフと龍人族のハーフでちっちゃいじゃない、龍人族の血が濃いのなら当分子供だわ」
「エルフの血が濃くても当分子供よ、もう少しは成長するだろうけどね」
「でもなぁ~、二人と寝ると時々窒息しそうになるんだよ。抱きしめるのだけは止めてよね」
・・・・・・
風邪薬の薬草は大量に有るが、一人でポーションを作るので必要数がなかなか作れない。
面倒な時は人任せに限ると思い、伯爵様の所に行く。
「如何なされましたアキュラ殿」
「はやり病用のポーションですが、薬草はたっぷり有るのですが作り手が私一人では数が作れません。薬草を提供しますので、伯爵様の所か王家で作って貰えませんか」
「私どもの薬師は、ポーション作りより症状に会わせた処方が主なものですので、王家にお願いしますから暫くお待ち下さい」
ポーション作りを他人に任せる手筈がつきそうなので、馬車を引き取りにホテルへ送って貰う。
馬鹿な衛兵達のお陰で、ランカン達だけで貴族街の出入りに安全を保証出来ないので面倒だ。
馬車を受け取り買い物を済ませて王都の森に引き返したが、案の定貴族街の入り口で止められた。
レムリバード宰相や王家が警備の衛兵達にどう伝えているのか知らないが、暫く付き添っての出入りが出来なくなる。
こういう時は先手必勝脅しておくに限る、ランカンとボルヘンに何か言っているのを横から遮る。
「何か用か?」
「ん・・・お前は?」
「此れが何か判るよな」
衛兵が身分証を見る前に横から声が掛かった。
〈失礼しました! お通り下さって結構です!〉
詰め所の中から飛び出して来た者が、直立不動で通過を許可してくれた。
「警備隊の上層部から、何か言ってきたか?」
〈はっ! 貴方様達の邪魔をするなと命令されております〉
「警備の責任者は居るかな。居るのなら呼んでよ」
詰め所の奥にすっ飛んで行ったが、直ぐに責任者と思しき男が飛び出して来て敬礼する。
「申し訳在りませんアキュラ様! 彼は新たに配備された者で事情を良く知りません。お許し下さい!」
「貴方、彼が新たに配属されて事情を知らないのなら、当面ベテランと二人で勤務させるのが普通じゃないの。以前の奴も相当馬鹿だったが、この調子だと近々全員死ぬことになるよ」
はっとか何とかモゴモビ言っていた責任者の顔が、一瞬で白くなる。
「貴方達のお陰で、一々此処の出入りに付き添わなければならなくなったんだ。暫く付き添えなくなるが、又問題が起きたら今度は容赦なく皆殺しですよ」
にっこり笑って警告して馬車に乗り込む、ほんと、組織って面倒だよね。
上が命令すれば全て上手くいくと思っている。
今度レムリバード宰相に会ったら、安全に通れる通行証を要求しておかなくっちゃ。
夕暮れ時に伯爵様から、王城から薬師が薬草を引き取りに来ていると連絡が来たので、ガルムとバンズと共に伯爵邸を訪れた。
・・・・・・
ポーションの取引だけの付き合いの筈が、何だかんだと伯爵様も大変だなと思っていたら「君との折衝は私と宰相が担当する事になったよ」って苦笑いで言われた。
なら丁度良いと、貴族街の出入りに支障をきたしているので何とかして欲しいとお願いしておく。
伯爵様に引き合わされたのは、王家直属の薬師との触れ込みの四人。
尊大な態度の二人と、同じ服装ながらも少し簡素で従者の様な態度の二人。 用意のワゴンに風邪の回復に必要な薬草、解熱用のエリオン草を10本単位で50束、鎮痛用のトリコ草を10個単位で100袋に魔力水5本を差し出す。
「ん・・・此れだけですか?」
「此れで十分な筈ですが。此れだけ在れば2,000本以上のポーションが作れますよ」
「何を馬鹿な! 此れじゃ400本が精々です。それに蒸留水なら在庫はたっぷり有ります」
「これ、魔力水ですよ。ご存じないのですか?」
「魔力水・・・たかだか風邪のポーションを作る為だけに、こんな貴重なものは使えません!」
駄目だこいつら、はやり病が程度の良い風邪薬で治ると思って気楽に考えている。
此れだけの薬草で400本しかポーションが作れないって、どれ程腕が悪いんだよ。
「失礼ですが、王家お抱えの薬師様ですよね」
「無礼な! 我はクリフォード伯爵家に繋がる血筋にて、王家の薬草管理を一手に引き受ける役職にある・・・」
「あー、もう宜しいです。それ以上聞いても役に立ちそうも有りませんから」
「ネイセン伯爵殿、この無礼な者は何者です! この緊急時に薬草の提供だと来てみれば」
「御託は結構です。それより貴方方は薬師としての資格をお持ちですか。緊急時だからこそ薬草を提供しようと思ったのですが、薬草の無駄遣いになりそうなので中止します。伯爵様申し訳在りませんが、ポーション作りに専念しようと思いますので、治療の依頼はお断りさせて頂きます」
「小娘の分際で・・・」
罵倒しようとする其奴の鼻面に、王国の身分証を突きつけてやる。
「クリフォード伯爵家に繋がる血筋なんて、どうでも良いんだよ。必要なポーションが2,000本以上作れる薬草で、400本しか作れない奴に分け与える薬草なんて無いよ」
横で聞いていた伯爵様も、苦笑いで頷いている。
目の前に突きつけられた身分証を見て、何も言えなくなった男の顔が引き攣っているが知った事か。
この程度の男が、薬師で御座いますとしゃしゃり出て来る様じゃ、王国が治療用ポーションを揃えられないのも無理は無い。
「2,3日ないに500本程度のポーションを提供できると思います。その後も2,3日毎にガルムかバンズに届けさせます」
もう薬師達には見向きもせずに伯爵様に挨拶をして帰り、仕込みを終わらせてから皆を夜のお散歩に連れだした。
「ようアキュラ、酒も飲ませず夜のお散歩って何だよぅ」
「あんた達、毎日飲んでいるんだから、1日くらい飲めないからって文句を言うんじゃないわよ」
「どうせ飲んで酔っ払っても、直ぐに酔いが吹っ飛ぶんだからね」
「まーたアキュラが、意味深な事を言い出したよ」
「今度は何で私達を驚かせるつもりなの?」
「おりゃーもう、アキュラのやる事では驚かないよ」
「だな、散々驚かされたから今更だぜ」
「ねえアキュラ、夜も薬草採取をするの?」
「流石に暗くて見えないから無理だぜ」
池にバリアの橋を架けて渡ると、皆が静かになった。
「1人ずつ樹に手を当ててみてよ」
「夜の薬草畑のど真ん中で、精霊樹に手を当てろって意味深だな」
「あんた、恐いの?」
メリンダが亭主に言って樹に手をそっと当てた。
一瞬、ん、と言った表情になるが、次の瞬間お目々まん丸になり声も出ない。
隣のアリシアが、メリンダの表情に気がつかず樹に手を当てる。
メリンダとまったく同じ反応に、後ろで見ていた男達が静かになってしまった。
「おい、アキュラ・・・女房が変だぞ」
「家の奴もだが、大丈夫かよ」
「情けない男共だなぁ~、母ちゃんに腰抜けって笑われるよ」
ちょっと煽ってみたら、むっとした顔で樹に手を添えたが腰が引けている。
〈何だこりゃー!〉
〈目がおかしくなっちまったぜ!〉
男共が次々と樹に手を添えたが、暫くしてランカンが素っ頓狂な声を上げた。
流石はリーダーだ、立ち直るのが早かった。
「まさか・・・精霊様じゃないよな?」
「ね、ねっ、アキュラ・・・此れってなに?」
「精霊樹の傍らに居るのは、精霊以外に何が居るの」
「おいおい、精霊とか精霊樹ってお伽噺じゃなかったのかよぉ~」
「まさか本当に精霊樹が有るなんて知らなかったよ」
「お前、此れを知ってて此処に薬草を植えたのか?」
「そうだよ。もう一本精霊樹を知ってるけど、其処も周囲には薬草が沢山生えていたからね」
「なんてこったい! もう驚くことは無いって思っていたけど・・・」
「今回のは特大級だぜ」
「お前、此れを他の奴等は知らないんだよな」
「誰にも言って無いよ。話しても信じないだろうし、信じたら信じたで厄介だからね」
「確かに、此れは誰にも言えないわよねぇ」
「でも綺麗ねぇ、お話しは出来ないの?」
「まぁ一生に一度、話しかけて来るか来ないかって所らしいよ」
「でも、何の為に見える様になったの」
「精霊が見えない者が精霊樹の周辺に近づくと危険なんだよ」
「危険って、こんなにちっこいのにか?」
とーっても危険なちっこい奴だけど、教えなきゃ判らないよね。
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