第4話 ヤラセンの里へ
斥候役のヨエルを先頭に歩くのだが、常にフルーナかメルサが俺の傍に居て手助けをしてくれる。
俺が森を歩くのが初めてなのは見れば直ぐに判る事だ。
何せ森は歩き難いことこの上なし、地面はデコボコしているし木の根や枝が邪魔で、よたよたと歩く俺は足手まといの見本の様なものだから。
ただ、エルフと龍人族のハーフ為か、体力だけは有り彼等に遅れずに歩けた。
初日から俺は注目の的になってしまった。
何故ならガサゴソ音を立てて歩くし躓くしと、森での行動はド素人丸出しなのに、アクティブ探査で彼等より早く獣の位置が判るのだから。
最初の3回程はある程度近づくまで放置しているのかと思ったが、どうも違う様であった。
四度目に彼等が野獣と言っているのを発見したときに、彼等が気付く前に教えてみた。
「フルーナ・・・このまま進めば右手から来る獣と出会うと思うよ」
声を出さずに歩いているが、俺は彼等の合図を知らないのでフルーナの袖を引き小声で話しかけた。
フルーナが手を上げて立ち止まり〈チチッ〉と鳥の鳴き声の様な音を立てる。
「何が居るって?」
「もう少し先に行くと、右から来る獣・・・野獣ってのと出会うよ。今度のは前の奴より大きいね」
そう言うと、全員動きを止めているなか、斥候のヨエルの所に行き小声で話しオルサンとも相談している。
三人の懐疑的な視線を受けるが、本当に彼等は気付いていない様だ。
俺のアクティブ探査の方が、彼等の感知範囲より広いと気付いたが素知らぬ顔で見返す。
三人で何かを話したあと、直ぐにヨエルが前方に戻って行く。
オルサンとフルーナはそのまま立ち止まり、他の者も動かない。
パッシブ探査からヨエルの反応が消えたので、アクティブに切り替えると慎重に行動しているのか動きが遅い。
そのヨエルの前方を野獣の気配が横切っていく。
そのまま観察を続けると、少したってからヨエルが引き返してきた。
また三人で何事か話し合ったあと、俺の所にやってきた。
「アキュラ、君が授かっている魔法とスキルを教えて貰えないか」
「結界魔法と探索と鑑定だね」
「なる程、結界魔法も優れものだと思ったが、探索スキルも相当なものだな。鑑定も弾いたとなると魔力は86以上か」
「魔力まで判るの?」
「君は昨日鑑定魔法を弾いただろう、彼は魔力が86なんだ。普通抵抗されたら鑑定は難しいけれど、魔力差があれば強制的に鑑定出来るんだ。だが、鑑定対象が上位者であれば、逆に鑑定を弾き返されて昨日の事の様になる」
ほーへーと思ったが、鑑定されずに済んで良かったと思う。
それに今の話だと同格者でも、鑑定に魔力を乗せれば弾き返す事も出来そう。
ラノベの知識に従い、治癒魔法の事は当分誰にも話さない方が良さそう。
「ところで、さっき横切った野獣って何かな?」
「ブラウンベアよ」
「倒せないの?」
「これだけの人数が居れば倒せるが、安全に里に帰るのが優先ね」
さっきの反応はブラウンベアか、覚えておこう・・・てかアクティブには未だ反応が有るので危険な野獣は全て赤点表記だな。
そう考えているとブラウンベアを示す印が赤い点になって頭に浮かぶ。
えっと思ったが、最初の頃より精度も探索範囲も広がっているのでアップデートしたのかな。
悪戯っ気で、進行方向は矢印表記だなと考えていたら、本当に赤色の矢印になっちゃった。
これも他人には話せないなと思う。
初日の野営でも呆れられた。
彼等はマジックバッグから無数に茨の付いた木の棒を取り出して周囲を囲い、その周りに野獣除けの草団子を投げている。
俺は少し離れた所に、透明な結界を張り内側に外から見えない様にもう一つの結界を張る。
一日一緒に行動すると疲れる。
別に俺に対して敵意がある訳ではないが、俺は彼等から頭二つは確実に低い。 背の低い女性陣でも、向かい合えば目の前に巨乳爆乳が存在する。
別に胸について張り合おうって気は欠片もないが、巨人に囲まれている様で圧迫感が半端ない。
トイレ一つについても、気を使わなければならない女は不便だ。
立ちションが懐かしくなる日がくるとは、夢にも思わなかった。
もっともトイレについては女性陣からは好評で、人目も音も遮断する臨時トイレとして重宝されている。
二日目の野営からは俺が結界のドームを提供する事になり、見返りとして食事の提供を申し出られて即座に了承する。
なにせ、不味くて食い切れなかった干し肉や干し芋と、鑑定で食用可と判った葉っぱを煮た物ばかりで食糧事情が最低だったから。
強度を心配されたので自由に攻撃して貰い、彼等の攻撃力では破壊出来ないとのお墨付きを貰った。
戦車砲弾を弾く強度をイメージしているので、そんな柔な攻撃で破壊は無理・・・とは言わずに黙っていた。
出入り口は、一番身体が大きい者がギリギリ通れる穴を開けておく。
そこへ逆茂木を差し込めば、見張りを一人置いておくだけで野獣からの奇襲を防げるので喜ばれた。
歩きながらフルーナ・メルサ・ヨエルの三人が、見付けた薬草を渡してくれる。
それを受け取ると、礼を言って直ぐにマジックバッグにポイする。
彼等と出会った時点でマジックバッグは2/31と鑑定で判っていて、現在は朝夕時間遅延の為に魔力を込めているので2/35になっている。
時間遅延は込めた魔力分がそのまま反映されるが、容量拡大はランクが上がる毎に大変な事になりそうだ。
一気に魔力を80/100放り込んでも、感覚的に6~7分で魔力が1/100回復しているのが判る。
6分で1/100の魔力が回復するのなら、8時間で使用した魔力80が回復する事になる。
どうせ結界魔法には1/100しか魔力を使わないし、残魔力が20/100でも結界の能力が落ちる事もないので安心だ。
8㎥で35倍の時間遅延だが、60倍の遅延になったらもう少し容量アップするつもり。
何れ時間遅延を360倍以上にして、一日しか持たない食品が一年保存できれば御の字だ。
〔アリューシュランド〕と呼ばれる此の世界、現在統一歴835年6月、順調にいけば12月頃には時間遅延が360倍に出来そう。
無限の容量と時間停止は望むべくもないので、マジックバッグの性能向上が第一目標である。
ガイドの話では中級品のマジックバッグで、ランク8、512㎥前後の容量に拡大出来ると言ったが、時間遅延については何も言わなかった。
聞き忘れたのだが、限界に挑戦してみるのも悪くはない。
一度ブラックウルフ20頭以上の群れが、俺達の匂いをたどって追いかけてきた。
数が多いし俺を守っての闘いは不利なので、結界の中に籠もってやり過ごす事にしたが相手が諦めてくれない。
相談の結果、小窓を開けて魔法攻撃と弓を使って追い払う事にした。
外部から不可視の結界ドームなので、直ぐ近くでのんびりしているブラックウルフは攻撃を受けてパニックになった。
だがパニックになると、何をしでかすか判らないのは人も獣も同じだ。
小窓から手を差し出してアイスランスを射っていた男の腕に、ブラックウルフの1頭が噛みついた。
幸い慌てて腕を引いたので籠手に傷がついただけで済んだが、済まなかったのはブラックウルフだ。
直径40cm程度の穴から中に人が居るのを見て、大興奮して鼻面を穴に突っ込んで唸り散らす。
大迫力の唸り声に硬直する俺を尻目に、一人が剣を鼻面に叩き付ける。
一度は引っ込んだが、今度は前足を小窓に差し込んで中の人間を掻き出す仕草を始めた。
「待って! オルサン待って。考えかがある」
オルサンが槍を突き入れようとしたので慌てて止める。
「どうする気だ?」
さっき脅かされた仕返しだ、開けた小窓を閉める事にした。
開けたら閉めろって、小さい頃に散々言われた事だ。
バリアの出入りの要領で小窓をきゅっと小さくするが、何時もの調子でやると前足をチョッキンしてしまう。
斬り落とさない程度にだが、逃げられない様に絞り込む。
今度こそ大パニックを起こしたね、必死で前足を抜こうと〈ギャンギャン〉吠えて仲間に助けを求める。
パニックと言うより恐怖の為に泣き喚く仲間に、他のブラックウルフが距離を取る。
離れたブラックウルフの群れに、別の小窓から矢やアイスランスが襲い掛かるとブラックウルフ達は逃げ出した。
残ったのは前足を固定した1頭のみ、回りからの呆れた様な視線が痛い。
「アキュラ、俺が外に出て止めを刺すから出入り口を開けてくれ」
一人が槍を持って声を掛けて来たので、これ幸いとお任せする事にした。
前足を固定されたブラックウルフなので、急所を一突きされて直ぐに静かになる。
前足の拘束を外すと、ズルズルと滑り落ちて横たわるブラックウルフ。
大きいねぇー、体高は俺の身長くらいは有りそうでこんなのとは闘いたくない。
選んで良かった結界魔法ってね。
お前のお陰で、新たな結界魔法の使用法が見えたと感謝の祈りを捧げておく。
ガイドが言っていたイメージに魔力を乗せるって事は、結界も武器に出来る事になる。
その後俺は朝夕マジックバッグに時間遅延の魔力を込め続けて、鑑定結果が2/60になった時点で容量拡大を始めた。
マジックバッグには薬草見本がたっぷり入っているので、早めに容量拡大の為に朝夕魔力を使う事にした。
ヤラセンの里に到着したのは、俺のキャンプ地を離れて15日目の事だった。
マジックバッグはクラス3、3/71に成長していた。
27㎥の容量と71倍71日の時間遅延が有れば、当面は困らないだろう。
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