第30話 侵入者

 足を拘束したので勝負は簡単についたが、血の海に沈みピクリとも動かない者が3人と呻いている重傷者が5人。


 血の海に沈んでいる3人の鑑定結果は、一人〔死亡〕二人が〔瀕死〕と判ったので取り敢えず血止めの為に治癒魔法で止血をする。

 直ぐに怪我の回復ポーションを飲ませたいが、虫の息なので手間取りバンズやボルヘンに代わって貰い、俺は重傷者の治療に向かう。


 重傷者五人の内三人は、のんびりポーションを飲ませている暇は無さそうなので、治癒魔法で応急処置をしてから怪我の回復ポーションを飲ませる。

 傷は治るだろうが血を流しすぎているのでぐったりしている。

 軽傷者多数だがそれを無視して、助けを求めた奴から事情を聞く。


 パーティー仲間の女性と若い男を狙って、後をつけられた様だと話した。

 拘束している者の中から、パーティー仲間だと教えられた者の拘束を外し、賊は一ヶ所に集め武装解除をしてからドーム内に閉じ込めておく。


 手遅れで死んだ者はパーティーのリーダーだった様だ。

 瀕死の者一人と重傷者二人が賊だと聞き、思わず絞め殺しそうになったが思いとどまる。

 グズネスや盗賊団を思い出し、街につれて帰り死ぬまで犯罪奴隷の人生を送らせてやる。


 助けたのが6人組のパーティー〔ドリバン通りの仲間達〕ハランドの同じ通りに住む者達の集まりだそうだ。

 賊の方は13人、武装解除はしているが持ち物は全て没収する。

 騒いだり抵抗する者には、容赦なく棍棒の一撃をおみまいして静かにさせる。

 マジックバッグ1個とマジックポーチ3個は、全て使用者登録を外させて中の物を確認する。


 「此奴等人数が少ない割に荒稼ぎをしていた様だね」


 タープの上にぶちまけられた中身は、女性用の衣類から装身具大小様々な剣と被害者が多い事を窺わせる。


 ・・・・・・


 結局ドリバン通りの仲間達を助けてから、何とか動ける様になり街に帰り着いたのが8日後の事だった。

 瀕死だった者と重傷者7人を座椅子を作って座らせ、賊に背負わせ街に向かった。


 当然そんな重労働を拒否したり、乱暴に扱い振り落としたりする者が続出したが、その度に棍棒で散々殴られ蹴られてズタボロにされる。

 悲鳴を上げて謝罪し真面目に運ぶと反省した者には、特別ボーナスとして俺が中級ポーションを与える。


 頑として俺達に従わなかった二人は、野営の時に素っ裸でバリアの外に放り出しておいた。

 それも念を入れてアキレス腱をチョンとして、逃げられない様にしてからだ。

 盗賊を入れておくバリアは透明な為に、俺達の指示に逆らったらどうなるのかその目に焼き付ける事になる。

 以後とっても素直な盗賊団の方々と、楽しい帰還の旅になった。


 但しハランドの街の入り口で一騒動が起きたが、伯爵様との関係を知る警備隊責任者に事情を話して賊を引き渡し、〔ドリバン通りの仲間達〕一行とは此処でお別れした。

 彼等は賊に襲われた経緯や被害状況などの報告と調べが有るからだ。


 俺達は一旦家に帰り、王都に旅立つ前に伯爵邸に寄りポーションを渡しておく。


 「アキュラ殿、順調にいきそうですか」


 「風の翼のメンバーの中に薬草栽培の経験者がいますので、移植は彼等に任せるつもりです。秋になり種が収穫出来るものは種から栽培してみるつもりです」


 「すると当分の間は彼等をお使われますか」


 「その事で彼等を私が直接雇用しようと思い、お願いに来ました。ゆくゆくは王都の森の管理を任せたいとも思っていますので」


 風の翼は俺が直接雇う事で合意、剣と牙のバルバス達は引き続き俺の家の警備に付く事になった。

 序でに薬師ギルドのギルド長ライドの事を訊ねると、チンピラ達の自白から罪は明白だと責め立て、後任にヘレサ婆さんを据える事で罪には問わなかったと話してくれた。


 但し商業ギルドのギルド長の不正を喋らせて、ギルド長ウォーレンも辞任させたと教えてくれた。

 二人とも自白のみなので罪には問わなかったが、高額の罰金を科した後領地から追放したと笑っていた。

 ネイセン伯爵様は俺を利用して、街で領民を食い物にしている連中の大掃除をしている様だ。


 ・・・・・・


 転移魔法陣を使って王都に跳ぶが、興奮する四人への説明はガルムとバンズの二人に任せる。

 経験者の二人が余裕を見せて、色々と説明をしているのが可笑しかったが黙っておく。


 元ワラント公爵邸と呼ぶのは面倒なので、密かに王都の森と呼んでいるが門前に到着したが様子がおかしい。

 警備の兵士が多数居て、周辺を監視している。

 俺達の馬車も止められたが、身分証を示して理由を尋ねると、俺の森へ侵入しようとする者が後を絶たないらしい。


 警備の者達は俺の森に踏み入る事を禁じられているので、周囲を警戒していると教えてくれた。

 その際、既に中に入っている者もいる様だがと歯切れが悪い。

 我々には何も出来ませんのでと、恐縮されたが気にするなと言っておく。

 帰って早々に不法侵入者退治とは面倒だね。


 更地になった屋敷跡に外部から見えないバリアを張り、鼠退治をするので今夜は此処で野営だと言っておく。

 貴族街なので、不審者が敷地内に侵入してくる事は無いと気楽に考えていたが、どうやら甘かった様だ。


 アクティブ探査に引っ掛かったのは、一ヶ所に17,8人で堂々と居座っている奴等。

 興味が湧いたので一人で見物に行くと、モスグリーンの天幕を張り、テーブルと椅子を出して昼間っから飲んでいる一団。

 見るからに貴族とその従者と思われるし、瀟洒な馬車と白い馬車に荷馬車まで止まっている。


 〈こらこら、此処はお前の様な小娘が来て良い場所では無いぞ〉

 〈どう為されたバルガス殿〉

 〈不審な小娘が現れましたので〉

 〈小娘とは・・・黒髪に緑の瞳ではないのか?〉

 〈むう・・・そうだが〉


 〈殿下、アキュラとか申す娘が現れましたぞ〉


 〈おう、連れて参れ!〉


 何よ、殿下って。

 王家の人間が此の地に踏み入る事はないはずだが、状況がまったく理解出来ない。

 いきなり俺の腕を掴み〈来い!〉と言って引き摺る様に歩き出す。


 むかっときたが、状況確認の為に大人しく従う事にした。

 殿下とやらの前に来たが、呆れてしまった。

 絨毯を敷き、その上に置かれたソファーにふんぞり返る豚がグラスを口に運んでいる。

 服を着たオーク、そんな言葉が頭に浮かぶ。


 〈黒髪に緑の瞳、此奴がアキュラに違いありません〉


 腕を掴んだまま叫ぶ男と、俺の全身を舐め回す様に見るオーク。


 「何でオークがこんな所に居るの?」


 〈オッ・・・オッ、オークだと。無礼者! ランゴット・エメンタイル殿下で在らせられる〉

 〈痴れ者が! 跪け!〉


 鞘走る音と共に、よく磨かれた剣が突きつけられた。

 けど、オークと言って通じるとは護衛達もそう思っているって事だよね。


 「ランゴット殿下? 殿下って王家の一員だよな」


 〈当たり前だ! エメンタイル王家の第9王子様で在らせられる、ランゴット・エメンタイル殿下だ。跪き、ご挨拶申し上げろ!〉


 剣を突きつけ、後ろから押さえつけられて跪かされた。

 この糞共、どうしてくれようかと思っていたら別の声がした。


 〈アキュラと申す娘が現れたとな。何処に居る!〉

 〈只今ランゴット様の御前にて控えさせております〉


 〈殿下漸く手に入れる時が来ましたな。どれ娘、顔を見せよ〉

 押さえつけられた俺の前にしゃがみ込み、人の顎を掴んで顔を上げさせた。

 白い聖布を身に纏った高位の聖職者、神父の上が教主だがキンキラ刺繍がド派手な、もっと上位者の様だ。


 〈なる程、確かに多数の精霊を従えている。治癒魔法も良く熟すと聞いているぞ〉


 あーん、聞き捨てなら無い事をさらりと抜かしやがったな。


 「娘、私の目をよく見ろ! お前は女神アリューシュ様を称え、大教主たる私アッシドに仕えて治癒魔法の腕を振るうが良い」


 目を合わせた時から、奴の言葉が頭の中に木霊する様に聞こえて来る。

 何かがおかしい、鑑定とは違った感覚だが言葉に従わなければならないと思わせる響き。


 鑑定以外なら何だろう?(鑑定!)〔アリューシュ神教大教主・♂・173才・エルフ族・魔力98・治癒魔法・法話スキル・説得スキル・暗示話術スキル・・・〕

 暗示話術スキル・・・これか!


 黙らせなければ催眠状態のまま支配下に置かれそうなので、目線を首に落としリングで首を絞める。


 〈グェッ〉首を締められたグリンバードの様な声を出して俺から手を放した。

 グリンバードは美味いけど、煮ても焼いても食えそうにないおっさんが首を掻き毟っている。


 〈アッシド様!〉

 〈如何為されました?〉

 〈ぐるじぃぃ・・・喉がぁぁ〉


 〈何を騒いでいる! アッシド、さっさと支配下に置いて差し出せ!〉


 な~に~いぃ~、聞き捨てならない事を言ったな。

 殿下か何かか知らないが、許さんぞ!

 何をする気だったのか、何時もの様に締め上げて聞いた方が早そうだ。


 護衛の騎士や従者に服を着たオークと大教主、全ての者の手足を拘束して周囲を確認する。


 〈何だ? 動かないぞ〉

 〈殿下! どう為されました〉

 〈おわっ・・・てっ手が〉

 〈足も手も動きません〉


 少し離れた所の馬車に4人いるので、彼等も拘束しておく。

 それ以外に3人、精霊樹の池の側に居る奴等が気に掛かる。


 〈なに・・・何なの〉

 〈動けないよー〉

 〈ヒェー、お助けをぉぉ〉

 〈えっ・・・えっ、えええぇぇ〉


 全員の首を軽く絞め、大声を出せない様にしてから精霊樹の元に向かう。

 遠目にも教会関係者と判る白い服の三人が、池の向こうの樹に向かって祈りを捧げている。

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