第52話 神教国の目論見
「オンデウス、色々と知っている様だが精霊の加護って知ってるか」
「数匹の精霊を従えて精霊の加護か」
と、鼻で笑いやがる。
「じゃー精霊樹の事も知らないんだ。それでアリューシュ神教教団の大教主様か、笑わせるね」
「お前が何を知っている。万物の創造神たるアリューシュ神様を日々称え、下々に神の教えを・・・」
「黙れ! 能書きはいいの、良い事を教えてあげるよ。お前達が精霊の巫女とか聖女などと呼ぶが、当たらずとも遠からずってところかな。本来の意味で精霊の加護を受けし者を、精霊樹は『アリューシュ様の愛し子』と呼んだぞ。俺がその気になれば教団に君臨す・・」
「嘘だ! お前がアリューシュ神様の愛し子? と言うか、何故お前がその言葉を知っている? それは教団内でも極一部の者しか知らない筈だぞ」
「お前も知っているじゃないか、それに極一部の者どころか回りを見回してみろよ」
自分達以外に、多数の護衛が居ることに初めて思い至った様だ。
此奴等が俺を利用することしか考えて無いのが良く判ったので、俺に手を出せばどうなるのかきっちり教えておくことにした。
《“しろがね”この部屋の出入り口を全て塞いで、外から入ろうとする者は全て攻撃しても良いからね》
《判った任せて》
《真っ黒にしちゃうから》
《私が吹き飛ばすわ》
殺る気満々の精霊達、に余り無茶はしないでとお願いしておく。
先ず始めに、大教主と教皇の後ろに控える騎士達を丸め、次いで壁際の騎士も全員丸めて転がす。
音声を遮断しているので聞こえないが、驚愕の表情で口をパクパクさせているから相当慌てているのだろう。
護衛達が行動不能になっているのを見て慌て出す教皇や大教主達、口を開く前に全員結界で包み込み動けなくしておく。
アリューシュ神教国教団の大教主オンデウス、エメンタイル王国女神教の教皇と大教主が二人に教主が六人。
十個の球体の中で呆然とする者、逃げようとジタバタする者や祈りを捧げる者。
音声を遮断しているので、つまらないパントマイムを見せられている気分。
何が起きるのか理解させる為に、十個の球体を一列に並べ護衛達の方に向けて転がらない様にする。
手近な護衛の球体を彼等の前に転がすと、2メートル程に拡大し“ほむら”にお願いして火炙りにする。
拘束が緩みほっとしていた護衛が、炎に包まれて藻掻きあっという間に死んで行く。
音声を遮断しているが、音のない狂宴にオンデウス以下の者が蒼白な顔になり震えている。
次の犠牲者を彼等の前に蹴り出すと、同じ様に球体を拡大し“すいちゃん”に水浸しにして貰う。
次は“らいちゃん”の一撃で、閃光に包まれて黒焦げの出来上がり。
“だいち,あいす”と続けると、腰が抜けたのか座り込んでいる者や聖布に染みを付けて呆ける者。
頭を抱えて泣き出したり、一心に祈りのポーズで何事かを呟く者。
お前達が相手にした者は、極悪非道な人間だと骨の髄まで教えてやる。
二度同じ事を繰り返した後、残りの護衛は全て圧縮して殺し彼等の前に転がす。
オンデウス以外の九人の音声遮断を解除し、大声を出したら火炙りにすると警告をしておく。
オンデウスは自分が閉じ込められている球体が大きくなったのを感じ、何が起きるのか察して必死に懇願のポーズを取っている。
懇願する鼻面にフレイムを出現させると、必死に逃げているが次々とフレイムが出現して豪華な聖布が燃え上がる。
魔力を抜きフレイムを消失させてオンデウスにご挨拶だ。
「オンデウス、お前達が俺を支配下に置こうとすればどうなるのか、その身に刻みつけてやる」
それだけ言って呻いているオンデウスに、再びフレイムをプレゼントする。
身体の半分以上が火傷し呻いているオンデウスを暫く放置して、教皇から尋問を始める。
「はやり病の治療中に何度か邪魔をしてくれたよな、教皇猊下。お前の所に来いとか連れて行くとか、散々治療の邪魔をしてくれた。俺って教会に奉仕しなけりゃならないの? お前に跪かなけりゃならないの?」
「いえ・・・それは」
「じゃあ何故治療の邪魔をし、大神殿に来いとか教皇に拝謁しろとか色々と言ってきたの?」
「それは・・・そのーぅ、配下の者が」
「配下? じゃあ何故、アリューシュ神教国教団のオンデウスなんて屑と二人で俺を待ってたの? オンデウスはアリューシュ神教国の住人だろう」
モゴモゴ言ってまともに話そうとしないので、教皇猊下にもたっぷりフレイムをプレゼントしてあげた。
嬉しい悲鳴を上げる教皇猊下の隣で瀕死のオンデウス、(鑑定! 状態)〔火傷・瀕死〕
「綺麗になーおれ♪」
服は焼け焦げてボロボロだがげっそりした顔のオンデウス、優しい俺は疲労体力回復のポーションを飲ませてやる。
「どう、味も効き目も保証付きのポーションだよ。元気になったでしょう」
「何で・・・我がこんな目に合わなけりゃならんのだ、護衛は・・・役立たず共め!」
ぶつくさ言ってるが状況が判ってないね、護衛なら魔法使いも含むべきだったな。
どっちにしても俺には無効だけどな。
「オンデウス、お前の一存で此処に来ている訳ではあるまい、神教国の教団内部で俺の事はどうなっている」
言い淀むオンデウスの鼻先にフレイムを浮かべてやると、直ぐにペラペラと喋り出した。
曰く、アリューシュ神教国の教皇猊下と大教主の会合にて、如何なる手段を使っても、俺をアリューシュ神教国に引き入れることに決定しているとさ。
一つ疑問に思い、アリューシュ神教国とアリューシュ神教教団の違いを尋ねてみた。
教団は神教国の上部組織であり、教皇猊下と八名の大教主の下に各大臣を配置して国政を任せている。
教皇は八名の大教主と各教区に赴任している教主によって選出され、教皇が国王の座に就く事になっている。
つまり国政上は一代限りの国王であり、宗教上は教皇ね。
一神教の世界らしいっちゃらいしが、面倒くさそうな政治体制だね。
王政の一族支配よりマシかも知れないが、宗教国家ってのもぞっとしない。
かと言って民主主義なんてものは此の世界では無理だろうし、良識在る為政者を願うだけか。
オンデウスの言葉を借りれば、俺をアリューシュ神教国に招き入れて精霊の巫女、至高の聖女として大々的に宣伝し祭り上げる予定だと。
精霊を従えた巫女として各国へ送り込み、より一層アリューシュ神教の熱心な信者増やし、各国の中枢に教団の力を浸透させ、と話が壮大になっていく。
アリューシュ神様の威光を大陸の隅々まで知らしめ、アリューシュ神教国が各国を導き・・・と言ったところで、妄想に付き合うのが嫌でオンデウスの頭を叩いてしまった。
その為に各国に気付かれる事無く俺を神教国に連れ込む予定だったと。
それが予想外に俺が手強く、手間取る間に大々的に治癒魔法を使い精霊の存在も広く知られてしまった。
このままでは俺を手に入れる事が出来なくなると、神教国から手段を選ばず連れて来いとの指示が来たって。
アリューシュ神様が泣くような立派な信者・・・狂信者国家だね。
ガイドの奴が言っていた『世界に刺激と変化を与える為です。静かな水面に小石を落とすと思って貰えれば良いです』どころか、静かな水面に大岩を投げ込んだ様な状態じゃないか。
幸い此処はエメンタイル王国の女神教大神殿、奴等の目の前で女神像を蹴り倒してやろうかしら。
アリューシュ神教国に対して一番効果的な反撃は何か、俺が聖女や精霊の巫女として使い物にならない、又は神輿にするには危険が大きすぎると神教国と教団が認識すれば手を引くはず。
その為の生け贄は居る、再びオンデウスにフレイムをプレゼントして火傷を負わせてから治療をしてやる。
但し死なない程度にし、火傷の傷痕と痛みを残す難しい治療になってしまった。
(鑑定! 症状)〔火傷回復途中〕
この状態て身を屈めたまま死なない程度に球体を小さくし、魔力を20/100使って長期保存可能にする。
自分が痛めつけられないと安心しているオンデウスの配下二人に、微笑みかけて伝える。
「お前達を無傷で国に帰してやるが、オンデウスをこの状態のままで連れ帰ってもらうぞ。そして教皇猊下と大教主共に伝えろ、俺に手を出せばオンデウスの後を追うことになる。とな」
無傷で国に帰れると言われて顔色も良くなり、必死で俺の言葉に頷いている。
「もう一つ、エメンタイル王国の女神教は俺の支配下に置く事にする。二度と此の国と女神教に手を出すな、守られないときはアリューシュ神教国の教団が消滅するときだと言っておけ」
二人の教主は必ず伝えますと答えるが、隣で教皇猊下が不服だと言わんばかりに声を上げる。
〈なんと不遜な、アリューシュ神様の神罰を恐れぬ言葉を・・・〉
「ん、焼き加減が甘かったかな、もう少し炙ってみる? 教皇の生焼けなんて、食あたり確実だからねぇ」
「お許し下さい・・・二度と貴方様にご迷惑はお掛けしません」
「だーめっ! 貴方の様な者の約束なんて、ゴブリンの糞程の価値も無い。此処に居るお前と、大教主に教主全員を俺の配下にする。拒否すれば転がっている護衛達の仲間入りだな」
そう言ってから教皇の首に結界の首輪を嵌め、魔力を30/100込める。
《“しろがね”此奴等に同じ様な首輪を付けてやってよ。少し魔力を込めて当分消滅しない奴をね》
《首を絞めちゃ駄目なの》
《駄目! 当分生きていてもらうつもりだから》
首に違和感を感じて触っているが、目に見えず重さもないが強固な結界魔法製の首輪だよ。
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