第19話 お仕置き

 俺を猫の仔扱いした男に俺を見張らせて、待合室まで戻した男が姿を消した。

 5分もせずにドタバタと足音荒く複数の男達がやって来た。


 「その方がアキュラか、ポーションは持って来たか!」


 「はあ~、馬鹿な事を言うな! お前達の好き勝手にされるのが嫌で断りに来ただけだ。人を呼び付けておいて長時間放置した挙げ句が、ポーションは持って来たかだぁ。ワラント公爵に伝えろ、お前に俺のポーションを渡す気は無い! とな。余計な事をすると死ぬ事になるぞと言っておけ!」


 「無礼極まりないガキが、その口を閉じて黙ってポーションを出せ! さもなくば力ずくでも出させるぞ!」


 「此れだから貴族と、その使いっぱしりは嫌なんだ。力ずくが通用するのは、何も貴族だけでは無いと教えてやろうか」


 〈このー・・・言わせておけば!〉


 俺を猫の仔扱いした男が、胸ぐらを掴みに来たが10センチ程手前でシールドに当たり驚いている。


 〈何だ? 此れは。お前何をした!〉


 「あれっ、結界魔法って知らないの。さっきも似たようなことを喚いていたけど、学習能力が無いの?」


 かわいく言ったのに〈外せ!〉の声と共に蹴られた。

 シールドを張っていても地面に固定されている訳では無いので、後ろに吹き飛んだ。

 155センチ程の可愛い女の子を、むくつけき男が蹴り飛ばすとは何事か(怒)


 〈おい、止めておけ。仮にも公爵様の御用で訪ねて来た子供だ〉

 〈然し、余りにも無礼な物言いではないですか〉


 其方がその気なら遠慮する必要もないな、誰一人まともに話す気も無さそうだし。

 バリアを張り、それをゆっくりと拡大していく。


 〈おっ・・・何だ?〉

 〈押すな!〉

 〈何だ? 何が起きている!〉

 〈止まれ!〉


 「さっさとこの部屋から逃げ出さないと、潰れて死ぬよ」


 〈待て、待て、待て! アキュラとやら公爵邸で無礼を働いたら打ち首では済まぬぞ!〉


 「無礼はどっちだよ、呼び付けておいて放置した挙げ句帰る事も許さない。果ては暴言と暴力だ、警告はしたぞ。俺は帰らせて貰うが、邪魔をすれば死ぬぞ」


 バリアを広げるが誰一人逃げ出さない。

 小娘相手に逃げ出したとなれば、明日には無職になるので逃げられ無いのだろうが、状況判断も出来ないのかな。


 半球状のバリアを広げているので、左右の壁が変形し崩れ始める。


 〈ガリガリ〉から〈ガラガラ〉と崩れ落ちる音に変わり〈ドーン〉と壁の倒壊音、皆が必死に逃げ始めた。

 魔力1/100の半分を使い、イメージのみでバリアを広げているが余裕で拡大できる。

 周囲の壁は倒壊し天井が落ち、濛々たる土埃にバリアの外は何も見えない。


 風に土煙が流されると夜空が見える。

 周囲は瓦礫の山で人の姿も無いが、半径14~15メートルくらい部分の建物が無くなっている。

 1度バリアをキャンセルし、瓦礫の山に登り周囲を確認。

 崩れた場所を遠巻きにして騎士や使用人達が騒いでいる。


 俺を怒らせたらどうなるか、見せしめの為にもこの屋敷を潰してやる!

 瓦礫の山を下り、少し離れた場所から建物に侵入しようとして声をかけらられた。


 〈待て、待てアキュラ・・・何をするつもりだ?〉


 「あんたか、人を馬鹿にする貴族の館を潰すんだよ! 今度は一気にやるからもっと離れていろ」


 窓を叩き壊して室内に侵入すると通路に出る。

 遠くから抜き身の剣を下げた騎士達が駆けつけてくるが、2/100の魔力を使い半球状のバリアを一気に作る。

 多分・・・半径30~40メートルくらいのバリアが出来ている筈だ。


 〈ドーン〉とか〈ガラガラバッキーン〉とか派手な音が響き渡る。


 外に出て建物を確認すると、1/3も壊れていない。

 結界魔法の限界なのか、イメージ力が貧困なせいなのか検証が必要だな。

 再び瓦礫の山に登ると、大勢の騎士や警備兵が殺到して来る所だったが、飛び散った瓦礫に阻まれもたもたしている。


 その足取りに思わず笑いが出るが、直ぐに笑いを吹き飛ばされた。


 〈ドーン、バガーン〉〈バーン〉


 三つ目の音と同時に目の前が真っ赤になり、魔法攻撃を受けたのだと気付いた。

 吹き飛ばされてビックリしたが、シールドに阻まれておいらは無傷。

 へらへら笑いながら瓦礫の山に登り、魔法使い達に向かって手を振ってやる。

 結界のフリスビーを飛ばし、首を切り飛ばそうかと思ったが攻撃手段は余り見せたく無い。


 俺の姿を見て再び詠唱しているので、瓦礫の前に垂直の障壁を作りのんびり瓦礫を降りて行く。

 再び魔法攻撃が飛んで来たが、障壁に当たって跳ね返されている。

 土魔法に氷結魔法と火魔法〈バリバリバリドーン〉・・・雷撃魔法も追加しているが無駄無駄。


 殺到してくる騎士や警備兵も障壁にぶつかり、障壁を破ろうと必死に攻撃している。

 頑張れよーっと、心の中で応援しながら再度建物に近づき、一瞬で小型のバリアを張る。

 バリアの先端に触れた壁が吹き飛び出入り口が出来た。

 窓から入るより、お淑やかに建物内に侵入できるってもんだ。


 〈何をしている! 其奴を取り押さえろ!〉


 おーぉ、偉そうに命令している奴がいるなぁ~と振り向いた先に、フリフリのリボンをつけたシャツ姿の男が真っ赤な顔で喚いている。

 獲物発見、一気に駆け寄り男と俺を包む様にバリアを張り巡らせる。

 余計な奴も多数混じっているが問題なし。


 斬りかかって来る奴等に邪魔されないよう、自分の周囲に円筒状のバリアを作る。

 後は1人ずつ円筒に入れて絞り身動き出来ない様にしていく。

 結界の簀巻き13本の出来上がり、喚いていた男も見えない結界の簀巻きから逃げようと必死に藻掻いている。


 〈放せ! 我を誰だと思っている! 無礼は許さんぞ!!! そこの娘、お前か?〉


 煩く吠える男に蹴りを一発お見舞いする。


 〈ブヘッ・・・〉歯を撒き散らし口から血を流して泣きだした。


 〈公爵様ぁぁ~、貴様ぁぁぁ、公爵様に何をする!〉


 目標に間違いなし、ご挨拶をせねばなるまい。


 「痛かったぁ~? これっ要る?」


 可愛く言い、目の前でポーションのビンを振って見せる。


 「あんたの欲しがった、アキュラちゃん特製ポーション。良く効くよぉ~♪」


 〈公爵様ぁーご無事ですか?〉

 〈貴様ぁぁぁ、公爵様に何をした!〉

 〈公爵様を足蹴にしたな! 許さんぞ!〉

 〈この結界を破れ! 一カ所を集中して攻撃しろ!〉


 バリアの外が煩いので音声を遮断する。


 〈娘! 此れを外せ!〉

 〈今謝罪すれば寛大な処置で許してやる〉

 〈公爵様は無事なんだろうな!〉


 バリアの中の奴等も煩いので、簀巻きをゆっくり絞っていく。


 〈ウオーッ、止めてくれっ・・・死ぬーーー〉

 〈ぎゃぁぁぁ・・・〉

 〈糞ッ、何で外せないんだ、このー〉


 「煩くすると何処までも締め上げるぞ」


 〈此れを外して公爵様を解放しろ!〉


 煩いって言っているのに、騒ぐそいつの簀巻きを締め上げていく。


 〈ギャァァァ、止めろ、ぁぁ・・・ゲボッ〉口から血を噴きだし白目を剥いて静かになった。


 「次は誰だ、優しくしてやれば付け上がりやがって」


 〈ここ、こ殺したのか!〉


 「煩いって言っているだろう。お前も死ね!」


 〈ぎゃあぁぁぁ、止め・・・〉骨の折れる音と共に静かになる。


 「死にたいなら幾らでも騒げ」


 口から血を流し、蒼白な顔色の男の所に行き「キャンデル・ワラント公爵だよな」と確認する。

 プルプル震えて返事もしない。


 「さっきは偉そうに怒鳴っていたのに、返事も出来ないのか。黙っていると死ぬぞ」


 唇が裂け歯が無くなった口で〈ふぁい、そうれす〉って声を振り絞る。

 薄める前の初級ポーションを取り出し、霧吹きで口に吹きかけてやる。

 綺麗に治っていくが、やっぱり無くなった歯は復活しない。


 「ネイセン伯爵の所へ、国王に献上したポーションと同じ物を寄越せと乗り込み、無理難題を言ったそうだが」


 「いえ、その様な・・・」


 「言い訳を聞きに来たんじゃない。お前の様な屑連中に押し掛けられると迷惑だから、態々出向いて来たんだ。それなのに何だ、来てみれば散々待たせた挙げ句誰も来ない。帰ろうとすれば、お前の使用人に怒鳴られ蹴られてと好き勝手に扱われる。公爵ってそんなに偉いのか? 俺は冒険者で流民だ、公爵家の領民じゃないので好き勝手にされる謂れは無い。お前達の解釈は違うのか」


 「いえ・・・その様な事は・・・申し訳御座いません」


 「じゃあ何故、ネイセン伯爵に無理難題を言ったんだ。ネイセン伯爵は俺が冒険者で伯爵とは取引をしているだけだ、と言った筈だぞ」


 「その様に聞いております・・・使用人が色々とご迷惑を・・・」


 「そんな寝言は聞きたくも無い、どうせ安全になったら追っ手を寄越すんだろうが次は無いからな」


 簀巻きにした公爵を転がしたままにしてバリアの側に行き、音声遮断を解除する。


 「あー、お前達の公爵様が詫びを入れたので帰るね。道を開けてくれないかな」


 〈公爵様を解放しろ!〉

 〈このまま無事に帰れると思っているのか!〉


 「公爵様ぁ~、あんな事言ってますが帰っちゃ駄目なのぉ~」


 小首を傾げ、可愛く公爵様に尋ねる。


 「い、いえ、どうぞお帰り下さい・・・お前達、道を開けろ! 何もするな!」


 抜き身の剣を手に意気がっていたら、ご主人様に怒鳴られてビックリしている騎士や警備兵達。

 犬の仔を追い払う様に、掌でシッシッとしてバリアの側から離れさせる。

 不承不承の態でバリアから離れるが、手に持った剣はそのままだ。


 「じゃー帰るけど、死にたくなかったらさっきの言葉を忘れないでね」


 「あっ、あ、あのー、此れを緩めて下さい」


 「あーーー、駄目! 2,3日しなきゃ外れないよ。大小便垂れ流しになるけど、部下しか見ていないから良いでしょう。じゃぁねぇ~♪」


 簀巻きが解けるまで生き延びられる事を祈ってるよ、言葉にしないけどさ。

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