第62話 人任せ
レムリバード宰相が満面の笑みを浮かべて頷いている。
その横でネイセン伯爵様が苦笑いで首を横に振っている。
俺は余計なちょっかいを掛けてくる馬鹿を排除出来る。
エメンタイル王国は神教国の力を排除し、信仰絡みの内通者が判り処分出来る上に相応の賠償も取れる。
教皇猊下と大教主達は、身の安全と地位が保証される。
三方全て丸く収まるってものだ・・・ちょっと違うかもだが気にしない。
・・・・・・
「レムリバード、神教国の状態はどうなっておる?」
「陛下、神教国教団の教皇猊下と大教主に面談してきました。アキュラ殿の意向に全面的に従うとの事です」
「なんとまぁ、たった一人でアリューシュ神教国を押さえたのか。あの娘は、一国の軍に相当する力を有しているのか」
「陛下、お間違えなき様に。彼女自身も言っていますが、一国を支配下に置いた訳では御座いません。最高権力者達を支配下に置いたに過ぎません。故に彼女は、教皇や大教主を権力の座に据えたままにしています。下々に現在の状況が漏れれば、教皇や大教主共の支配力は消滅します。私や陛下があの娘に支配されても、各地の貴族がそれを知れば従わないどころか反旗を翻すのと同じで御座います」
「アキュラは、何をするつもりなのだ?」
「彼女の申すには、神教国が抱える魔法使いと鑑定使いを全て我が国に送るそうです。それらの者達の受け入れと安全を保証し、彼女の望む方法に従う事。その間は我が国の指導者を神教国に派遣し、教皇以下国の指導者を管理する事を許すそうです。勿論神教国が我が国に対して行ってきた裏工作を暴き、その賠償を受け取る事も勝手だそうです」
「それは大きいな、女神教に悩まされる事が無くなるだけでも利益は大きいし、魔法使いが増えるのは大歓迎だ」
「陛下・・・そこは微妙で御座いまして、先程も申し上げましたが魔法使い達の扱いは一度我が国の女神教が引き取るとの事で御座います。彼女ははやり病の後で、女神教の抱える治癒魔法使いと王家や貴族の抱える治癒魔法使いを纏める話をしていましたから」
「アキュラは教会や我々に代わって、治癒魔法使い達を支配するつもりなのか。それはそれで困った状態になるぞ」
「そうでは御座いません。どうも治癒魔法使い達の能力向上を画策している節が在ります」
・・・・・・
結局アキュラの要請を受け入れれる事は、エメンタイル王国の利益になると判断され支援する事が決定した。
取り敢えずウルバン教皇と、五人の大教主の監督をする者六名を第一陣として送り込む事にした。
集められたのは公,侯爵家の次男以下で30才以上の聡明な者達、国王陛下の御前にて注意事項がレムリバード宰相より伝えられる。
「アキュラと申す女性の補佐に就いてもらうが、ゆめゆめ侮る事の無い様にせよ! 彼女は我が王国の最重要人物にして、絶対に敵対してはならない者だ。お前達も知っているであろう先年の貴族街での事件、あれは彼女を侮り侮蔑した結果だ。アリューシュ神教国では彼女の指示は国王陛下の命令だと肝に銘じよ! 尚不明な点は、現地で彼女の補佐を司っているネイセン伯爵殿に聞け」
レムリバード宰相の視線を受け、ネイセン伯爵が後を続ける。
「以後彼女の名を口にする事を禁じる。呼び名は聖女様だ、アリューシュ神教国にもエメンタイル王国にも聖女の呼び名は彼女一人と知れ! 嘗て存在した聖父,聖女や聖教父,聖教女の呼び名は廃止された。現在は治癒師や見習い治癒師等と呼ばれているので、忘れるな」
第一陣がアリューシュ神教国に送られると同時に、王都の女神教大神殿にも王家から監視の為の人員が送り込まれた。
・・・・・・
「アキュラ殿、教皇と大教主の補佐をする者達を連れて参りました」
ネイセン伯爵様に連れられてやって来た六名の男達、値踏みする様に俺を見ているが敵意は無い。
これなら最低限の仕事はしてくれそうだと思ったので仕事内容を説明する。
「教皇と大教主の付き人として教主二名が付いているが、三人目として付き従ってもらいます。お願いする仕事は一人では無理なので、必要な助手はネイセン伯爵様かレムリバード宰相に申し出る事にして下さい」
そう言って仕事の内容を簡単に説明した。
アリューシュ神教国が抱える全魔法使いの名簿の確認。
名前と年齢・授かった魔法名・魔力・出身国・現在の能力と所属
上記とは別に魔法名別の名簿を制作する
治癒魔法を授かっている者の名簿の確認、出身国別の名簿と各国に派遣している者の記録と名前・年齢・魔力・現在の能力一覧、中級以上の鑑定使いと薬師の名簿作成も同時に行う。
一番大事な事は、教会又はアリューシュ神教国に来てから知り合った者の名前を全て聞き取り、制作した名簿と照らし合わせる事。
それを元に現在所属している部署の人員全ての名前を確認し、優秀な者を神教国が隠していないか監視する事。
「魔法使いの事だけですか、占領政策は」
「占領はしません。その件に関してはレムリバード宰相達がやりますから気にしなくて宜しい。貴方達は此の国に居る、又は教団に所属している魔法使いの全てを把握する事です。同時に治癒魔法使いと中級以上の鑑定スキルを有する者を、順次エメンタイル王国の女神教に送って貰います。又帰って来たり出身国や他国に赴く者達の管理もして貰う事になります。不正やサボりなどを見付けたら、咎めたり注意をせずにネイセン伯爵様かレムリバード宰相に連絡して下さい。その後は私が直接処理しますので」
神教国での仕事を押しつけたら、エメンタイル王国の女神教大神殿で受け入れ準備だ。
ネイセン伯爵様にご挨拶をして、とっとと神教国から逃げ出す事にした。
・・・・・・
女神教大神殿に行くと、教主の格好をしているが明らかに別種の人間に出迎えられた。
「お待ちしておりました聖女様。レムリバード宰相閣下より貴方様の補佐を命じられました、グロリス・ザイホフで御座います」
「新たに大教主の座に就きましたフェルナドで御座います」
「同じくウェルバで御座います。聖女様」
「表向き教皇猊下がご病気、大教主全て不在は不味かろうとレムリバード宰相閣下が二人を指名しました」
俺は治癒魔法使いや魔法使い達で手一杯だからお任せだが、レムリバード宰相も気合いが入っている様で何よりだ。
「近々アリューシュ神教国から、治癒魔法使いと鑑定使い達が送られて来ます。女神教の敷地内で受け入れ準備をお願いします。彼等に対し身分や能力での強要は許さないので、部下の方々にもよく言い聞かせておきなさい」
「承知致しました。送られてくる人数は如何ほどでしょうか?」
「良い質問だが判らないってのか正直なところですね。神教国と他の五カ国から集まって来ますので・・・」
教団がどれだけの人員を抱えているのか何て、知る訳ないだろう!
ほんと、面倒事に巻き込みやがって。
「見習い治癒師達の訓練はどうなっていますか?」
教育担当の治癒師の元へ連れて行って貰ったが、成果は芳しくないようだ。
魔法の訓練は基本的に徒弟制度的な練習方法で、一対一か数名を魔法巧者が教えてきた。
故に魔法の基礎から発現方法や、練習方法の体系的な書物など存在しないらしい。
魔法を授かったら此れと見込んだ相手に師事する事から始めると聞いて、頭が痛くなってきた。
中には自力で魔法を発現させて、一人前の魔法使いとして活躍する者もいるがごく少数だそうだ。
此の世界の魔法が大した事がないのはそういう訳かと納得した。
その為に治癒師達が各自の治癒魔法の方法を話し合い、一番優れていると思われる方法を確認して教えていると報告された。
前途多難、頭に浮かんだ四文字に泣きそうになる。
結局俺の知る方法を多少アレンジして教育の基礎にするしか無さそうだった。
・・・・・・
「アキュラ何処に行ってたのよ」
「あー・・・ちょっとね。色々と面倒な事が多くて参っているのよ。それより明日から女神教本部、大神殿に行くからアリシアとメリンダは俺の付き添いね。魔法の練習が出来るよ」
「大神殿で魔法の練習?」
「練習と言うより魔法の基礎かな、二人とも魔法を本格的に習った事が無いだろう。魔法の基礎、極々基本的な事だけど知っておいて損は無いよ」
「行くわ! 薬草も採り尽くしたしやる事無くて暇なのよ」
「お買い物も食べ歩きも飽きちゃったし、魔法が使える様になれるのなら行くわよ」
「そうそう、はやり病以来アキュラが忙しくて魔法の事も聞けなかったしね」
・・・・・・
翌朝、ランカンにいつもと違い女神教大神殿の中へ馬車を進めさせた。
その際新たな大教主になったウェルバに作らせた身分証を持たせているので、ほぼフリーパスで大神殿の奥まで馬車で入る。
ウェルバ大教主補佐の身分証はランカン,ボルヘン,ガルム,バンズの四人が持っている。
フェルナド大教主補佐の身分証はアリシアとメリンダが持っている。
教皇猊下は永眠、大教主二人は俺の支配下となれば、大教主補佐の身分ならほぼ無敵でエメンタイル王国内なら行動の制限はない。
「此れとレムリバード宰相様直属官吏の身分証を持っているのなんて、私達六人だけよね」
「冒険者としてこんな身分証を持っているのは俺達だけだなのは間違いないだろうな」
「レムリバード宰相直属の身分証は、転移魔法陣も無料で使えるしね」
〈お前なぁ~〉〈あんたねぇ~〉夫婦二人が声を揃えて抗議の声を上げるけど、本当の事なんだよ。
六人の大教主補佐の服を作っておく様に命じてから、治癒魔法師の訓練を見学に行く。
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