第13話 鑑定使い
「おう、アキュラだったな。ちょっと話が有るので待ってくれ」
腹を空かせた野良犬か狼かって集団が近づいてきていたが、横からハゲタカに掻っ攫われて地団駄を踏んでいる。
俺を掻っ攫ったハゲタカはザラカンと名乗り、ギルドのサブマスターで所謂サブマスだった。
「冒険者登録を済ませたのなら、持っているポーションを見せてくれないか」
「あの鑑定使いって使えるの?」
筋骨隆々狼人で渋い顔立ちのサブマスが吹き出している。
「お前もポーションを作れるのなら、多少は鑑定が出来る筈だ。奴の鑑定結果を聞いてから判断してくれ」
渋い返答だねぇサブマス。
背中に突き刺さる冒険者の視線が痛いので、彼等に見られない様に別室を要求する。
サブマスのザラカンさんに受付責任者のムルバさんと鑑定使い、3人と共に2階の会議室へ行く。
備え付けのテーブルを挟んで向かい合い、ポーションを出してくれと言われる。
「先に確認しておきますけど、冒険者がポーションや各種の薬を冒険者ギルドに売るのは違法じゃないですよね」
「冒険者が持ち込む物を買い上げるのが冒険者ギルドだ、何の問題もない。ギルドはそれを冒険者に売るか、オークションに掛ける。こう言えば判ると思うが、冒険者で薬やポーション類を作れる者は貴重だ。普段は薬師ギルドから買い上げるか、冒険者が直接街の薬師から買っている。高い金を払ってな」
「俺が直接冒険者に売ったらどうなるのかな」
「個人売買と看做されるが、それを商売にしない限り商業ギルドからは見逃してくれるだろう。薬師ギルドは何とも言えないが、極々個人的な遣り取りなら文句は言えないな。つまり俺が手持ちのポーションを、知り合いに買値で譲っても商売とは言わないだろう」
「知り合い同士、こそっとやれって事ね」
吹き出すザラカンさんの前に、各種薬用ポーションと怪我の回復ポーション魔力回復ポーションを並べる。
「熱冷まし・頭痛薬・下痢止め・咳止め・酔い止めは二日酔いにも効くよ・痛み止・怪我の回復ポーショ・・・」
何かが身体をまさぐる感じは・・・鑑定されているのか? 然し俺より大分能力が劣る様だ。
その感触を、思いっきり引き千切る。
〈ギャァ・・・〉あらら、悲鳴を上げると同時に頭を抱えて前のめりに倒れ、気絶したのはプロレスラーまがいの小母さん。
〈おいっ、どうしたんだ・・・〉
〈何が起きた!〉
「ザラカンさん、俺を鑑定する様に命じたんですか」
「お前を鑑定? まさか・・・断りもなく鑑定していたのか、俺はそんな事を命じていない。ポーションの鑑定の為に連れてきただけだ」
「信じても良いけど、誰が此れ等を鑑定するのですか」
倒れている鑑定使いを俺が(鑑定!)してみる。
〔狐人族・♀・79才・魔力63・鑑定スキル・農業スキル〕流石に名前は判らないが、魔力63で鑑定と農業のスキル持ちね。
「アキュラ・・・すまないが此奴が目覚めたら鑑定させるので、それらをギルドで預からせてくれないか」
「ザラカンさん、前回と今回の対応を見てこの人は信頼に値しません。それは冒険者ギルドも同じです。冒険者ギルドには薬草のみを売る事にします」
並べた薬やポーションをさっさと仕舞い、一礼して部屋を出た。
薬草を売るだけでも十分食っていける、無理に冒険者ギルドで薬やポーションを売る必要はない。
この街の冒険者ギルドが信用ならないのなら、他の街に移動すれば良いだけ。
暫く食うに困らないだけの金は有るし、薬草もたっぷり在庫が有るのでのんびり次の移動先を検討すれば良い。
下に降りると勧誘合戦は終わった様だが、未だ半数近くが残っていて注目の的になる。
「アキュラ、冒険者登録が終わったのなら話が在る。一杯奢るから食堂に行きましょう」
「アリシアさん、どうしたんですか」
「冒険者登録が終わったら、ポーションを売って貰えると思って待っていたんだ。まさか全部ギルドに売ったんじゃないよね」
「それは大丈夫だけど、相場を知らないんだよねぇ」
話しながら食堂に行き、エールのジョッキを抱えてテーブルに行くと、隣のテーブルには熊さんとその仲間達も待っていた。
「アキュラ、薬師ギルドの売る怪我の回復ポーション初級が銀貨2枚だ。お前のなら銀貨3枚は出すぞ」
「剣と牙のバルバスともあろう者が買い叩くねぇ。あたしは銀貨4枚出すから2本売って頂戴」
銀貨8枚を貰い、怪我の回復ポーション2本を渡す。
「多少の怪我なら、霧吹きで吹き付けるだけで治るからね」
「この間見たから判ってる。此れ1本で薬師ギルドの初級ポーション何本分になるのかしらねぇ」
「俺も2本くれ! 中級ポーションでも、あれだけ早く綺麗に治るなんて事はないからな。それに味も悪くなかったな。此処で買うやつとか薬師ギルドで買ったポーションは、ゲロマズだからなぁ」
この間の礼だと言って銀貨10枚を貰った。
「バルバス、顔色が悪いのは二日酔いなの」
「判るのか?」
「今にも吐きそうな青い顔と、酒臭い息をしているからね。此れはサービスだよ、二日酔いに効くから飲んでみて」
売ったポーションの半分程度しか入っていない、酔い止めのポーションを渡す。
「お前のポーションなら効くんだろうな。薬師ギルドの糞不味いポーションは、味の酷さで酔いが覚めるって代物だからな」
怪我の回復ポーションでも、量は乳酸菌飲料程度しかないのにその半分ほどの量なので、飲んだ気がしないのかビンの底を見ている。
「サブマスの話は何だったの、ムルバやあの豚女まで一緒だったけど」
「持っているポーションの鑑定をしたいってさ、でもギルドに売るのは止めたよ。薬草だけでも十分食っていけるしね」
「なら、ポーションは買えなくなるのかい」
「個人的になら売っても大丈夫だから、言ってくれれば売るよ。不特定多数に売れば、商売になるから問題だけどね」
〈オイ! 吐き気が無くなったぞ!〉
「やっぱりあんたのポーションは効き目が抜群だね」
・・・・・・
アリシア達とのんびり話し合っている頃、ギルドの会議室ではサブマスの怒声が響いていた。
蹴り飛ばされて目覚めた鑑定使いが、サブマスの前で土下座まがいの姿勢で震えている。
「己は一度ならず二度までも・・・覚悟は出来ているんだろうな」
「お許しを! まさか鑑定が弾かれるとは・・・」
「お前は馬鹿か! 薬師なら多少の鑑定ぐらいは出来て当たり前だ! 断りも無く鑑定して、気付かれない方がどうかしている。あのポーションを試したとき、彼奴は初級ポーションだと言った。初級ポーションであの効き目だ、それがお前のせいで買えなくなってしまったんだぞ。中級ポーションがどの程度なのかは知らないが、そんじょそこらの物より優れているのは間違いないんだ! 糞ッたれめ!」
鑑定使いを蹴り飛ばし、憤懣やるかたない顔でギルマスの所へ報告にいく。
ギルマスに一連の出来事を報告するが、思い出しても腹が立つ。
「あの馬鹿のせいで、良質なポーションが買えなくなりました」
「登録したばかりの小娘だろう、何とか執り成してギルドにポーションを卸して貰う様に出来ないか」
「それですが、受付のヤニンとの話を聞いていたムルバの話では、アキュラは一人で薬草採取しているらしいのです。その時の会話でも、一月以上森の奥に行っていたと話したそうです。16の子供にしては芯が強く、フランセが無断で鑑定していたのを知って、即座にギルドに売るのは止めたと決断しましたからね」
「何とかご機嫌を取る方法はないか」
「風の翼のアリシアがポーションを買いたいと交渉していましたから、冒険者登録を済ませたアキュラに取引を持ちかけているかもしれません。彼女がポーションを買えたのなら、あるいは」
「風の翼のアリシアか、彼女なら話が判るから取りなしを頼めるかもな。見掛けたら連れてきてくれ」
・・・・・・
「ヘレサ婆さん来たよ」
「冒険者登録は出来たのかい」
「ああ、それで薬師ギルドの規約を聞きに来たんだけど、大丈夫かな」
「複数のギルドに所属する者もいるから大丈夫だけれど、冒険者ギルドに所属するって事は流民扱いだからねぇ。薬師ギルドや食肉ギルド等は商業ギルドの下部組織だから、商業ギルドが認めるかどうかだね」
「治癒師ギルドは?」
「治癒師ギルドはピンキリさ、腕の良いのは貴族と教会に粗方持っていかれているからね。教会のやり方が気に入らない連中が、治癒師ギルドを結成して稼いでいるのさ」
やっぱり治癒師を表に出さなくて正解か、でもボルムやグズネスのせいで俺の事が漏れているからなぁ。
「じゃー、暫くは冒険者でやっていくよ。持っているポーションの査定をお願い出来るかな」
カウンターの上にポーションケースから各種取り出して並べる。
熱冷まし、頭痛薬、下痢止め、咳止め、痛み止め、酔い止め、怪我の回復ポーション、魔力回復ポーション、体力回復ポーション、魔力水約300㎖1本。
「此れを全部、アキュラが作ったのかい」
「魔力水以外はね」
魔力水のビンを手に取り、明かりに透かして見ている。
「上物の魔力水だけど、どうして魔力が5も有るんだい?」
「採取した魔力水を濃縮したんだ、魔力の高い方がポーション作りでは良い物が出来るからね」
薬用ポーションを見ながら〈アキュラは良い腕だねぇ。ギルドで売っている薬用ポーションより遥かに品質が良いね。ふむふむ・・・此れもそうだわ〉と言ってくれる。
「怪我の回復ポーションは中級品で無く、初級を見せておくれ」
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