第4話 冷蔵庫
空中回転はどうやら食べられるように出来上がった合図のようです。誰が考えたのやら、メーカーの開発担当者の顔を見てみたいものだわさ。徳子はそんなことを思いながら恐る恐る近づいて容器の蓋を開けました。なんとソース焼そばが出来ていました。
「ほぇ~、お湯を入れて麺を茹でてからお湯を抜かないとこれは出来ないんじゃ?やっぱり魔石?」
『違います』
「お前うるさい!じゃあ何なのよ?」
『…………………』
「答えられないのかーーーーい!」
徳子はとにかく食べてみる事にしました。なぜか蓋の裏に割り箸が付いています。これだと割り箸が付いたまま調理された事になるのですが、もうそんな事気にしてられません。割り箸を割って麺をグルグル混ぜます。そして、
「いただきまーーすだわさ」
ソース焼そばは今まで食べたレトルトとは比較にならない美味しさでした。まるで屋台とかで鉄板で焼いて売っている焼そばの、しかも出来立てようです。
「これは美味しい。もう悩んでも仕方ない。美味しいんだからなんでもいいじゃん!」
一気に食べてしまい、ふうとため息をついた後改めて冷蔵庫を調べます。そうは言っても調査はしないとです。
冷蔵庫は三段式になっていました。一番上が冷凍、二番目が冷蔵、三番目が野菜室です。なぜか野菜は新鮮に見えます。しかも知っている野菜と似て非なるものでした。多分トマト、多分人参、これも放射能で変異したのでしょうか?言葉に出すとまた勝手に返事してくるやつがいるので敢えて無言で調べます。
ですが独り言が多いのは徳子です。無意識に言葉が出てしまいます。
「誰かが毎日野菜を補充しているのか?それとも保存方法が特殊なのか?そもそもこの冷蔵庫は誰のために置いてあるのか?」
徳子は得意の独り言を言いながら大変な事に気が付きます。
「あイッたー、もしかしたらこのままあたいが逃げたら食い逃げ?」
それはいけません。徳子は大した人間ではないと自覚していますが、法に触れたり人様に迷惑をかけるのだけはしてはいけないと思っています。この冷蔵庫が誰かの物だとしたら、勝手に中の物を食べてしまった事になります。
「そこはあたいの可愛さに免じて許してちょ!って誰もいないけど」
徳子は自分の事を可愛いとは思っていません。スタイルには自信がありますが顔は…………、でも八千年後の未来なら男性の好みも変わっているかもしれません。この時代ならモテるかも、なんてアホな事を考えています。
「あたし、前向き〜!」
徳子はここでしばらく待ってみる事にしました。食料ならありますし、もしかして誰かが補充にくるかもしれません。本来の持ち主が現れるかもですし。それに下へ降りる階段は怖そうだし少しの間の拠点にするにはいいところです。
周囲を探検してここに戻る生活が始まりました。3日経ちましたが、誰も現れません。冷蔵庫の中身も徐々に減ってきました。この部屋にはなぜかキッチンがあり包丁が置いてありました。お皿もあったので野菜はサラダにして食べています。徳子は料理の経験は少なく野菜炒めか目玉焼きくらいしか作ったことがないのですが、火の元がないので料理ができません。腕が振るえないわねと言いつつそのまま切って食べる事しかできませんでした。
水道からはなぜか水が出ました。水道管がどこから繋がっているのかを調べようとしましたが、扉の外に出てもどこがどうなっているのかがわかりません。ここは町の真ん中のようです。少し歩いてみましたがどこかでも崩れたビルが見えています。かなり先まで歩けば色々とわかるかもしれません。
5日目、冷蔵庫の中身が半分になりました。そうしたら冷蔵庫の上のランプが赤い点滅を始めました。
「おっと、なんの合図だろう。冷蔵庫の中身が減ったよー、補充してね!って合図だったら面白いんだけど。自動販売機みたいに定期的に見回りが来て中身補充するとかないのかな?あ、そうだ。お金」
徳子は食料を食べてしまった分のお金を払わないとと律儀な事を考えています。財布の中には今月のお小遣い五千円が入っていました。
「これで足りるのかな?足らなかったらこの身体で払いましょう。乙女だから高く買ってもらわないと、なんてね」
『売れない』
「はあ、突然何言うの!今まで静かだったと思ったらそこで突っ込むってあんた何者?」
TOKUTOKUは答えません。その間にも赤い点滅は続いています。
翌朝、何か音がして目が覚めました。ゴンゴンという今まで聞いた事が無い音がだんだんと大きくなっていきます。
「ねえ、なんの音?」
『………………、下から登って来ています』
てことは、地下に住む人間!
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