第50話 大泉総理
新宿のシェルターの中で、舘山寺は治療を受けています。一応除染はしたもののかなりのダメージを受けており、発熱もしていました。祥太郎は幹部の太田さんと話をしています。
「首相官邸にシェルターがあった。もしかしたら中に総理が生きているかもしれない。入り口が地盤が曲がってしまって開閉できなくなっているんだ。なんとかならないか?」
「もう生きてはいないだろう。でもやる価値はあるな、手配する」
そうか、太田さんの言う通り確かに生きてはいないのかもしれない。でも、ここはもがかないと。祥太郎は舘山寺の熱い想いを聞いてなんとかしたいと思っています。日本をここから復興させるという課題のためには総理のようなリーダーが必要です。
舘山寺はベッドから起き上がれなくなってしまいました。祥太郎は毎日、舘山寺と色々な話をしているうちに日本の未来を真剣に考えるようになっていきました。組織に入ったのは命惜しさの成り行きでした。なぜか核ミサイルを止める大役に関わるようになり、一部成功はしたものの結局今のようになってしまいました。もし、徳子ちゃんがいなくならなかったら今頃どこかで死んでいたでしょう。これは運なのかわかりませんが、殆どの人が死んでしまった東京で祥太郎には生きています。しかも妻と子供も無事です。この幸運?を何に活かすのがいいのか。祥太郎は決めました。日本復興を!
10日後、首相官邸の地下を掘り起こす重機がありました。祥太郎も来ています。10日もかかったのは動く重機を運んでくるのに時間が必要だったのです。組織の生き残りは15名、防護服を着てあちこちの調査をし、AIに情報をインプットしています。動く重機も見つけてはいたのですが、通れる道が無くてやっとの事たどり着いたのです。
重機によってシェルターの入り口が開放されました。祥太郎は満を持して中に入っていきます。階段があり、それを抜けるとまたテレビドラマで見たような銀行の金庫みたいな入り口があって閉まっています。ハンドルのような取手がありそれを回して開けるようです。
「これは重いけどなんとか回るな」
祥太郎はゆっくりですがハンドルを回していきます。重い分厚いドアを開ける感じで扉を開くと中から声が聞こえました。呻き声です。祥太郎は慌てて中に入り様子を伺うと、昔テレビで見た日本の現首相の大泉さんが椅子に座ってこちらを見ています。ぱっと見衰弱しています。
祥太郎はもしもを考えて水と食料を持ってきていました。とりあえず生きている人に水を飲ませてからお粥を作り始めます。何日か飲まず食わずだったように見えます。生きている人は3名しかいませんでした。
なんとかお粥を食べてもらいました。大泉さんはさすがで意識はしっかりしていました。
「き、きみは。日本はどうなったんだ?」
「まだ立て直せます。それには総理の力が必要なんです。今は焦っても仕方ありません。まずは回復を。あとで食料を追加で持ってきますから休んでいてください」
「私はここでゆっくりしてる訳にはいかないんだ。状況がわかるところへ連れて行ってくれないか?」
「総理。状況がわかるところというのは存在しません。通信は途絶えていますし、僕が知っている事しかお伝えできません」
「そうか。外はどうなっている?」
ずっとシェルターに閉じ込められてたら外は気になるよな。僕もそうだったし。
「防護服無しでは厳しいです。ここには用意されていないんですか?」
「わからない。部下はもう死んでしまった。私に食料を優先してくれたんだ」
そういうと、総理は涙ぐんだ。総理を生き残らせようとした部下がいたのか、自らを犠牲にして。その人がいたから救出が間に合った。総理の様子だとあと一日遅かったら間に合わなかった気がする。
「総理、回復を優先してください。防護服は用意します。それと回復したらあるところへ移動をお願いします。そこで今後の采配をお願いしたいのです」
祥太郎は一度新宿へ戻った。舘山寺はさらに衰弱が進んでいるが、総理が生きていた事を伝えると目を輝かせた。
「神宮寺君、総理はここには来れないのか?」
「だいぶ衰弱しておられましたが、2日もすれば歩けるようになると思います。食事を摂れていなかったのです。それと長い間シェルターにいたので筋力も衰えていました。直ぐに連れてきますよ」
「総理が生きておられれば日本は大丈夫だ。あとはなんとか通信が回復すれば、総理が無事な事を国民に知らせて一致団結すれば日本は………」
「そんなに興奮しないで。総理を連れてきますからそれまでゆっくりと休んでください」
「神宮寺君、俺の身体はどうなんだ?やっぱり放射線の影響なのか?」
「はっきりはしません。医者はいませんし核ミサイルが落ちた経験も誰も持ってませんから。ただ、舘山寺さんは放射線を浴びすぎたのは事実です。それ以上の事はわかりません」
「そうか、無茶をしてしまったツケなんだな。でも、神宮寺君。俺は静岡でゆっくりとしてはいられなかったんだ。わかるかい?」
そう言うと、舘山寺は疲れたのか眠ってしまった。わかります、わかるけど。祥太郎は再び首相官邸のシェルターへ向かった。
どんとこい 東村山 ! 転生したと思ったら未来だった件 ええっ、世界を滅ぼしたのって私? Kくぼ @kkubo2020
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