第30話 徳ちゃんアロー!

 翌日、田端さんのところで武器を受け取った徳子は田無へ向かって出発しました。新宿まで一気に歩けるじゃん、と言ったのですが、田無市長にも会えと言うのです。徳子はさっさと新宿まで行って祥太郎とやらに会って見たいのですがそうもいかないようです。


 ビルの残骸が途切れ、再び新青海街道を進みます。昔、電車賃を浮かそうと自転車で新宿まで行った事があって、通った事のある道のはずなのですが、景色が違いすぎてどこがどこやらわかりません。


「確か、この先で青海街道と一緒になった気がする。それで真っ直ぐ行くと都庁の側を通る」


 徳子の独り言に大塚さんが反応します。


「はい。この先で2つの街道が合流して新宿まで通じていると言われています。さすがは北条様。よくご存知でいらっしゃる」


「言われているって、あ、そうか。皆さんは田無までしか行った事がないのでしたね。新宿まで通じているというのは聞いた話ってことね」


「はい。以前、田無市長が話していたのです。いつか新青海街道を通って新宿まで行く日が来ると」


 やっぱりあたいが未来に来る事を誰かが知ってて新人類を作ったとしか思えない。でもなんで?ただのスタイルのいいおしゃべり女子高生だよ、あたい。ん?なんか感じてた違和感の正体判明!


「ねえ、田無市っていつからあるの?」


「わかりません。最初から田無市なのではないですか?」


「昔は西東京市って言ったのよ。おかしいでしょ?」


「昔、ですか?どの位昔でしょうか?」


「そうね。ざっと八千年かな?」


 歩いてた全員が立ち止まりました。八千年と聞いてざわざわしはじめます。徳子は皆の様子がおかしいので、


「あ、気にしないで。記憶喪失のはずなのに変な事だけ覚えてるのよねえ。ちなみにあたいは17歳!八千年は生きてません」


 徳子は明るく話しかけましたが皆はまだざわついています。どうしたのこれ?鈴木さんが意を決したように話しはじめます。


「北条様。八千年というのはどこから来たお話でしょうか?」


「どうしたの。目がじゃない雰囲気が怖いよ。どこからって」


 徳子はもう話してもいいかな、辻褄あわないしと思い、


「ねえ、聞いて。あたしね、八千年前から来たの。気がついたらこの世界に居たのよ」




 今いるところは町を出て街道の危険区域、魔獣が出るエリアです。そんな危険な場所で皆が固まっています。


「八千年」


「八千年ってあれですよね?」


「我らの起源」


「北条様は創造主様なのか?」


「創造主様は祥太郎様のはず。それを迂闊に口にするでない」


 雑談が続いています。徳子は話を聞いていて自分が過去から来た事がショックなのかと思ったら違ってるみたいで拍子抜けです。


「八千年に反応したのね。八千年前に何があったか知ってるの?」


 鈴木さんが答えます。


「私達はこの世界が誕生したのが八千年前と教えられました。前の世代は七千年前と教わったそうです。寿命が千年なので」


「ここって地球よね。地球誕生って45億年前じゃなかったっけ?」


 徳子は地球物理学が好きでそこら辺の知識は普通のJKよりは詳しいのです。


「私達は教育で八千年前が起源と教わってきました。創造主様とお名前持ちの方達がこの世界をお作りになったと。北条様はお名前をお持ちですので我々が敬意を示さねばならないお方」


「ふうん、で、私みたいな小さい人間の話は?」


『そこまでです!』


 TOKUTOKU2号が会話を遮ります。徳子は、てめえいいところでとばかりに


「電源切ってやる!あれ、これ電源どこ?あれ?誰だ、勝手に機種変更したの?よく見たら似てるけど違うぞこれ?」


『やっと気付きましたね』


「ムカつく〜!2号、あんたはあたいの味方なの?なんかわかんなくなってきたぞ!」


『もちろん味方です』


「じゃあ、なんであたいが新宿まで行かなきゃいけないのさ。ここであんたが全部説明してくれればいいじゃない」


『………』


 2号はまた無言モードになったようです。あ、そういえば肝心の西東京市はどうなった?再度聞こうとした時、上空から風が襲います。


「来ただわさ、徳ちゃんアロー!」


 徳子はボーガンを素早く発射します。ボーガンの矢は空中に放たれると電気を帯び、襲ってきた鳩ポポを追尾しながら貫きます。


「!!!」


 えっ、何これ。田端さんこんなの作ったの!




<鈴木さん達の視点>


「来ただわさ、徳ちゃんアロー!」


 鈴木さん達は鳩ポポに気付いていませんでした。徳子は素早く反応して見たことのない武器を使うのを驚いて見ています。そしてその武器が小さい何かを発射し、それが鳩ポポを追いかけながら貫いたのを見て固まっています。


 大塚さんが地面に落下した鳩ポポを拾ってきました。矢は刺さったままです。


「北条様、これは一体?」


「あたいにもわかんないだわさ。電撃効果プラスに追尾措置付きだと!どうすりゃこんなの作れんのさ?」


『………』


「ちょっと2号、何か言いたそうじゃない。言っちゃいなさいよ」


『あなたがこの世界に干渉できる唯一の存在だからです。あとは新宿で』


 なんやそれ?解決する疑問より増えていく疑問の方が多いじゃんか。

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