第29話 武器作成
そういえば、槍を持っているとなんちゃらかんたらって2号が言ってたっけ。
『それを言うなら槍は強い魔獣が寄ってこない波長を出しているのです、です』
「2号、やっぱり出てきやがったな。アップデートしても性格は変わらんのかい」
『性格は優しく明るく慎ましくを基準に作られております』
「うっそぴょん。まあいいや、あれ?」
上野さんと田端さんが跪いて徳子を見下げています。跪いても視線が上からになるのは跪く意味があるのでしょうか?
「どうしたのですか?急に跪いたりして」
「今北条様がお話されたお相手は祥太郎様のお声でした。創造主様と対等に話される北条様は神にも等しい」
徳子、神になる。なんてタイトルにしようかしら。誰も買わんわそんな本。頭の中で一人ツッコミをしたあと、疑問に気がつきます。
「今は、このスマホに入っているAIと話してたんだけど、声が似てるって事?ただの機械音声じゃん」
「教育期間中に聞いた創造主様のお声に間違いありません」
機械音声だから同じなんじゃ?これ以上否定しても無理そうなので話に乗っかる事にしました。この際、利用しちゃいましょう。
「ウォッホン!北条徳子である。こういった武器を作りたいのだが力を貸して欲しい」
徳子は以前暇な時に書いていた図面を取り出しながら天下人のように話しました。ところが、
「あれ?反応がない。どうしちゃいました?」
よく見ると、徳子の書いたボーガンの図面を食い入るように見ている。ドワーフ、じゃない田端さんが唸りだした。あーでもないこーでもないとしばらく独り言が続きます。案内役の上野さんは震えています。徳子の依頼をこなせなかったら自分はどうなるのか、と不安なのです。上野は今まで生きてきて不安という感情は知りませんでした。創造主様は我々の命を自由にできる存在です。徳子が現れてから東村山では脱走者が増えたそうですし、この社会に多大な影響を及ぼす存在、そんな人の願いを叶えられなかったら恐らく自分は生きてはいないでしょう。
「北条様。これは北条様がお使いになられるのですか?」
田端さんが図面を見ながら問いかけます。
「もっちーもちもちよ。ただ威力が心配、ここがね。ビュンって速く動かないと矢が飛ばないのよ、わかります?」
「わかりました。明日、またお越しください。それまでに仕上げます」
「よろしくお願いしますね、田端さん。上野さん、案内してくれてありがとうございました。明日もここまで連れて来てください」
上野は震えが止まり急に明るい気持ちになった。今日は初めての感覚ばかりだ。なんなのだろう、これは。
「北条様、それでは本日の宿泊先へご案内します」
上野は市長から言われていた宿泊施設へ徳子を案内しました。そこには鈴木さん達が先に行って待っていました。
「ヤッホー、鈴木さん。明日までにできるってさ、あたいの武器」
「北条様。北条様が戦うのは無理です。そのために護衛が付いているのです」
鈴木さんは徳子が武器を持つのに反対だった。しかも槍以外の武器だという。槍以外の武器は使ってはいけないと教育されてきているのだ。
「でも、今日鳩ポポに襲われたでしょう。あたいとみんなは身体の構造が違うの。だからこれからも何が起きるかわかんないでしょう。あっ、そうだ。この世界に火薬ってある?」
「火薬というのはどのような物でしょうか?」
「やっぱりないか。鉄砲とか爆弾とかは無理だね。弓矢がいいところなのか」
「北条様は知らない言葉を沢山知っておられる。それが何かはわかりませんが、祥太郎様の教えに無いと言うことは、我らには必要がないと言う事です。お役に立てずに申し訳ありません」
「いいのよ謝らないで。でね、武器ができるまで地上へ行ってみたいんだけど付き合ってくれる?」
「どちらへ?」
「内緒!」
徳子と鈴木さんは階段を登って地上へ出ました。なぜか大石さんも付いて来ています。
「さて、ここはどこだ?」
「市役所の上ですが」
「大石さん、そう言う意味じゃないだわさ。あっそうか。市役所ね」
ここが市役所だとすると、目的地は南に1km、徳子はスマホのマップとコンパスを頼りに歩き始めました。
「うん、全く身に覚えがない場所だ。景色が違いすぎる」
徳子は自分の家があったところに行きたかったのですが、見つけられずにいます。マップではここいらのはずなのですが見えるのは崩れたビルだけです。
「しかし東村山もだけど、なんでこんな田舎にビル建てたのかね?核戦争の後建てたのかな?」
『………』
「おい、2号。なんか言いかけたでしょ今。なんだよ、無言かよ。これも制約ってやつね。まあどっちにしてもよ、あたいの家は残ってない………、あれ?」
徳子は墓石のような物が残っているのを見つけました。ビル街の隙間にあるお地蔵さんのように、狭い場所にそれはありました。
「こんなのあったっけかなあ。なんだろう」
徳子が行ってみると、それは劣化した墓石でした。もう誰のお墓かもわかりません。ですが、徳子にはわかりました。
「ここがあたしんちだ。あたしが居なくなってからどうなったかはわからないけど多分あたしの墓なんだね、これは」
なぜそう思ったのかはわかりません。ですがそう感じたのでした。
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