第31話 転機

 ここは2022年。どんとこい東村山の地下から出た神宮寺祥太郎は、アパートの部屋に戻りました。なぜか綺麗なお姉さん、真弓さんも一緒です。祥太郎の部屋はサモジの刑事、佐々木が見張っていました。実はさっき祥太郎を訪ねたのですが留守だったので帰るまで待っていたのです。


「あの女は誰だ?あいつそんなにモテそうに見えないけど、実は結構やり手なのか?」


 部屋を訪ねようかとも思いましたが、野暮かなと遠慮していたら全然出てきません。急ぎの用事でもないし明日にするかとアパートを離れて再び穴の工事を見に行きました。

 穴の中には何かを運び出した跡が残っていたそうです。結構大型の機械ではないかとの推測で簡単には運べなさそうと、工事業者が言っていました。トラックが運んでいった情報も入っています。でも、そんな物どうやって地面の下に入れたのかね?世の中は不思議でいっぱいです。


 翌朝、もういいだろうと祥太郎の部屋のチャイムを鳴らします。ピンポーンとよくありがちな音がして待っていると、返事はありません。


「また居ないのか?そんな事でいいのかよ、浪人生!」


 佐々木は余計な心配をしながらまた出直す事にしました。結局3日後に大家さんに行って部屋を開けてもらうまで、異常に気がつきませんでした。部屋は空っぽ、引っ越した後だったのです。




 その祥太郎ですが、新宿のマンションに引っ越しました。引っ越させられたというのが正しい表現です。真弓さんと一夜を共にして色々な初めてを奪われた後、組織が借りているマンションに引っ越す事になりました。東村山にいては刑事が邪魔です。祥太郎は刑事と話をした内容を真弓を通じて組織に報告しています。そして善良な市民として捜査に協力するのではなく、裏から徳子ちゃんを探す事になったのです。


 真弓さんとは利害が一致しています。愛情はありませんが組織加入のご褒美でいい思いができました。それ以降も真弓さんは定期的に情報交換とご褒美にやってきました。調査は祥太郎が自分で行うのではなく、工作員と呼ばれている人達が代行しています。




 祥太郎は必死に勉強をして大学に合格しました。そこでは兼ねてからの夢だった異世界転移ではなく、時間転移の研究に取り組んでいます。結局徳子は見つかりませんでした。では、徳子はどこへ行ったのか?それにはあの日、徳子に何があったか起きたのかを調べなければなりません。


 当日の行動から地震に巻き込まれたのは徳子と断定できました。その後徳子は行方不明になっています。その後の痕跡はなし、組織の力で東村山周辺の監視カメラも調べましたが、どこにも姿を晒していません。つまり、この世界から消えたのです。


 死亡説も考えました。ですが、現場には徳子の血痕その他痕跡は検出されませんでした。まさか、本当に異世界へ?


 組織が何をしようとしていたのかを組織に忠実な組織員として振る舞う事で知ろうとしました。最初はごく一部しかわからなかったのですが、徐々に秘密がわかってきました。


 祥太郎が大学3年生になった時、真弓が身籠りました。そしてそれだけ告げた後、真弓は姿を消しました。祥太郎は何がなんだかわかりませんでしたが、ちょうど調査に没頭していた時で追いかける事をしませんでした。



 あの日、何が起きたのか?組織が何をしようとしていたのか?組織の内部に入り込んで色々な事がわかってきました。国会議員とK国の関係は強く、お互いに政治的に利用しあっています。どうやら利権が絡んでいてある実験を組織がしていたようです。


 実際は国会議員も組織も利用されていただけでしたが、それがわかるのはもっと後の事です。祥太郎は意識的に地震を起こす装置を組織が開発していた事を突き止めました。ですが、その目的まではわかりません。わかったのは、組織が買い占めた東村山駅から北東に500mのところにある田んぼから地下を掘り進み、徳子が消えた場所までトンネルを掘り、地震発生装置を組み立てたという事だけです。その後、トンネルは埋められ買い占めた土地もすでに売り払われています。


 その土地は元々、どんとこい東村山の経営者、山元さんの持ち物でした。ここでどんとこい東村山と組織の関係がわかってきました。山元さんは借金があり、それを組織が高値で土地を買い取る事で借金を返す事ができたのです。ところが、その後もギャンブルで借金を作ってしまい、それも組織が補ってきていたのですが、山元さんが事故で亡くなってしまいます。

 残されたどんとこい東村山のおばちゃんこと、山元さんの奥さんは店の地下を提供する事になったのです。


 どんとこい東村山の地下室は東村山高校が夏休みの間に地下トンネル側から工事がされ、そこは組織の隠れ家となったのです。それは徳子が東村山高校に入学する前の年のことでした。


 祥太郎はどんとこい東村山を久し振りに訪問しました。今度は肉まんを買いにではなく、組織の一員としてです。行き先は、そう、例の地下室です。

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