第12話 祥太郎

 2022年、ここは東村山市。神宮寺祥太郎は徳子が帰った後受験勉強をしていました。外が暗くなったのとお腹の空き具合で夜ご飯の時間だと気付いて、近くのコンビニへ出かけます。いつもと変わらない雰囲気の町でした。ところがアパートの前では気がつきませんでしたが、駅に近づくにつれて人が多くなっていきます。


「なんだろう、お祭りでもあるのかいな。普段こんなに人いないじゃんね」


 祥太郎も徳子の独り言を聞いているうちに独り言が多くなってきていました。徳子のせいだと思いつつ、自分も悪いかと考えます。祥太郎は人のせいにはしないように心がけることにしていました。徳子と出会う前は、受験に落ちたのは○○のせい、うまくいかないのは○○のせいと何かに責任を押し付ける事で逃げていました。そう考えるとなんか楽だったのです。


 徳子と出会ってから、そう考えるのは馬鹿馬鹿しいと思うようになりました。徳子はあまり悩みません。人のせいにもしません。毎日が楽しそうなのです。徳子に対しては恋愛感情はありません。多分ありません、ないかもしれませんが気になる相手ですし、何よりも一緒にいて楽しいのです。ただの変な、じゃない変わった女の子なのになんか周囲を明るく楽しくする魅力があるのです。


 コンビニでお弁当を買って、なんとなく人の多いところへ回り道をしたくなりました。なんでこのときにそう思ったのか?それが祥太朗の人生を変える事になります。アパートから駅に向かう道、それは徳子がいつも通る道です。そこに人だかりができていました。


「なんじゃこりゃ、すごい人だな。す、すいませーん。ちょっと通してくださーい」


 祥太郎が人を掻き分け前の方へ行くとその前には不思議な光景が、見たこともない状況になっていました。アスファルトがねじれて地面に大きな穴が開いています。大きさは3mほどで、底は見えません。そんなのがあるのにその周辺には異常がありません。


「地面が陥没?でもなんか回転したみたいにねじれてるし、しかもアスファルトが上に向いて捻れてる。何かが空へ飛んでったみたいだ。ナンジャコリャ?」


「兄ちゃん、夕方地震あったの知ってるかい?」


 隣のおっさんが声をかけてきました。よく見るとたまにコンビニで会うおっさんと気付いて、祥太郎は情報が欲しかったので話に乗ります。


「そうなんですか?勉強していて気がつきませんでしたが。大きかったですか?」


「それがな。この穴の周りだけ揺れたみたいでな。おいらの家はそこなんだが全く揺れなかった。ただドーンって音がしたので外へ出たら女の子がクルクル回ってたんだ」


「はい?」


「ありゃ東村山高校の制服だった。女の子が揺れていて次にクルクル回り始めた。だんだんと速くなって気づいたら道路に穴が空いて女の子が居なくなったんだ。それで警察を呼んだんだが、結局穴の中にも女の子はいなかった。警察は夢でも見たんだろうって言うんだが、現実に道路は捻れるようになって穴が開いている。もう誰も信じてくれないから誰かに話したくてな。兄ちゃんは信じてくれるかい?」


「はあ、この現場は異常です。ならば何があってもおかしくはありません。もしかして異世界転移かもしれませんね」


「それは何のことだい?」


 流石にそれはないか。おじさんに異世界転移を説明しても無駄そうだったのでやめました。徳子ちゃんだったら異世界に行ったら勇者というより悪役令嬢、いや令嬢って柄じゃないね、なんて考えてたらなんか視線を感じて振り返るとアジア系の多分外国人がこっちを見ていました。よく見ると5人いて、散らばってこっちを見てる。一人は無茶苦茶美人さんだ。このオジさんをみてるのか、僕を見てるのか?


 祥太郎はアパートに戻り夜ご飯を食べ始める。帰り道に念のため尾行を気にしたが何もなかった。だって、あの外国人らしき人達、見るからに怪しいし。そしてその日はその後何もなく終わった。


 翌日、徳子は珍しく遊びに来なかった。道路の話をしたかったのに残念だ。


 翌々日、またもや徳子は来なかった。メールをしてみたが返事がない。中間試験とか今頃だったかな?徳子ちゃんでもテスト前くらいは勉強するよね。


 その次の日も徳子は来なかった。なんか嫌われる事でもしたかなあ、ちょっと不安になる。流石に心配になり学校の近くまで行ってみた。すると、学生達の声が聞こえました。


「やっぱりあれ、北条だったんだよ。だってあれから行方不明じゃん」


「ただ学校サボってるだけじゃねえの?」


「あの子、ああ見えても学校は休んだことないよ。やっぱり消えたんだよ、異世界転移だ。今頃勇者になって魔物とか魔王征伐かなんかに行ってるぜ」


「バッカじゃないの?あの子、虫も殺せなさそうじゃん。異世界転移してたらゴブリンどころかスライムにも負けそうだよ。でも本当にどうしたんだろう?」


 徳子と同学年らしき男女が徳子の事を話している。しかしものすごい言われようだ、まあ徳子ちゃんだしそんなものか。でも行方不明ってどういう事?それって事件じゃね?祥太郎はアパートに戻って座り込んでいます。まさかの展開です。想像できるのはあのおっさんの話と消えた徳子の結びつき。ま、まさかですよね。と、突然玄関のチャイムがなりました。


 来た、心配して損した。


「徳子ちゃん、しんぱ……… 」


 ドアを開けるとそこには2人のおじさんが立っていました。


「警察です。神宮寺祥太郎さんですね?」

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