第11話 市長は近藤さん

 鈴木さんの案内で市長室まで進みます。なぜか矢印の看板まであって目が見える人でも迷わないように作られています。今までの話だと目が見える人はいません。ならば何のために?という疑問が湧きます。


 市長室に入るとやはり小さい人用のソファーがありました。もう悩むのはやめます。こういう設定と思うことにしました。鈴木さんが出て行ってしばらくすると市長と一緒に戻ってきました。市長は身だしなみがきちんとしています。なんとなく市長という感じです。市長の方から自己紹介をしてきました。やはり目がありません。


「お名前持ちのお方だとか。私は東村山市長の近藤と言います。名前はありません」


「北条徳子です」


「本当に北条徳子様なのですね。これは大変な事です」


「どうしてでしょうか?北条徳子という名前に何かあるのですか?」


「ここは市役所ですが、宿泊所もあります。北条様用のお部屋もありますのでしばらく滞在をお願いします。説明するにも色々と準備がありまして、あなた様が北条徳子様であるならこの世界の事をお教えしなければなりません。そして翔太郎様のいる新宿まで行っていただかないと」


「私をご存知なのですか?どういう事なのでしょう?」


「ここは地球です。ここに残る記録だけでは北条様の疑問を解決する事は出来ないでしょう。その為にも翔太郎様のところへ行く事が必要なのです」


「ここは東村山市ですよね?新宿から北部線で乗り換えなしでいける、急行も止まる東村山市ですよね?」


「すいません。ここは東村山市ですがそのような情報は持っておりません。私は代々の市長の記憶を保持していますが、その急行とかは存じでおりません」


「わかりました。では、しばらく滞在しますので知っている事をす、べ、て、教えてください。よろしくお願いします」


 そう言って徳子はしばらく市役所横の宿泊施設に滞在することにした。





「なんじゃあこりゃーーーー!」


 宿泊施設は徳子のサイズで作られていた。しかも徳子の好きな猫のぬいぐるみまで置いてある。


「まるであたいが来ることがわかってたみたいだわさ。そういえば猫とか犬とか見てないな。人間とか薔薇がああなるんじゃ見ない方がいいかもだけど」


『犬や猫は存在します。大きさはそれなりです』


「おおっと、TOKUTOKU、てめえ生きてやがったか。忘れてたよ、君の存在。でも今質問したわけじゃないぞ、なんでいつも勝手に答えるんだ?」


『……… 』


 答えないし、本当にAIなのかお前は。そう思ってベッドに腰掛けてふっと気を抜いた。徳子は疲れ切っていた。精神的にも肉体的にも。なぜか徳子サイズのふかふかベッドに横になったらそのまま寝てしまった。







 徳子が寝てしまった後の事、近藤さんと鈴木さんは別室で打ち合わせをしています。


「鈴木さん、一大事です。新宿まで北条様をお連れしなければなりません」


「私には管理区域A3の業務があります」


「その通りです。ですが、鈴木さんは北条様と一番長く一緒にいた方。北条様も鈴木さんが一緒にいた方が安心されるでしょう。問題はそれ以外の者をどうするかです」


「私は小平までしか言った事はありません。そこまでしか道もわかりません」


「道案内は各市長に私から連絡して手配します。久米川、小平、田無、三鷹、荻窪、高円寺、そして新宿にも」


「北条様がお名前持ちと聞いてご案内したのですが、それほどの大事なのでしょうか?」


「大事です。新宿の翔太郎様のところまで、北条様を必ずお連れしなければなりません。そういう決まりになっているのです」


「わかりました。私は一度戻って区域長へ報告をしてきます」


「お願いします。準備は整わないと出発できませんから慌てなくて大丈夫です」


 鈴木さんは管理区域A3へ戻って行きました。市長はお名前持ちだけでも驚きなのにまさかの伝説の北条徳子が現れて焦っています。各地の歴代市長は北条徳子が現れるのを待っていたのです。そういうお役目でしたがまさか自分の代で現れるとは。前任の引き継ぎでは伝説であって、実際に現れる事はないだろう、自分もそう引き継がれた、と言っていました。とは言っても現れてしまった以上、務めを果たさなければなりません。市長の山崎はすぐさま職員を集めて緊急会議に入りました。




 徳子は爆睡しています。深い眠りの中で誰かが呼んでいる気がします。


『徳子ちゃん』


『徳子ちゃん』


『君は悪くはないんだ』

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