第37話 実験

 ここは未来の東京?


 徳子たちは新青海街道を進んでいます。途中で鳩ポポの襲撃を何度か受けましたが徳子が『徳ちゃんアロー』と勝手に名付けたボーガンで瞬殺しています。最初は驚いていた鈴木さん達新人類の面々も、お名前持ちでしかも北条徳子様という事でそれが当たり前のように考えるようになりました。


 徳子の放つ矢はなぜか、電撃効果が付与されていました。しかも追尾装置付きです。見た目はただのボーガンで矢も触ってもビリビリはしません。徳子は何度もボーガンをひっくり返したりして見ましたがどうやってその付帯効果をつけているのかが理解できません。


「田端さんたら一体どうやってこんな凄いものを。見た目全然すごくないから余計にわかんないだわさ」


 それを聞いた大塚さんが、


「田端さんは小平一の鍛冶屋ですので。ですが北条様の絵から作ったと言っていました。北条様の設計なのではないですか?」


 大塚さんは小平と東村山を行き来しているので、小平の事には詳しいのです。ですがこれから行く田無は行った事がないそうで、全員初めて歩く道です。


「あたいの設計?追尾装置付きの設計なんてできるわけないのに」


 と、目の前を角兎が通り過ぎます。徳子は試しに斜めに矢を放ってみました。すると、矢は空中で旋回して角兎を追いかけて角兎の身体に突き刺さります。それと同時に角兎の身体に電気が流れたのがわかりました。


「なによこれ、はあ」


 徳子は納得がいきません。ついため息が出ます。ですが鈴木さん達は、


「これは凄い、狩が楽になる」


「だが、祥太郎様の教えにはこのようなものは無い。教えに逆らう事になるのでは無いか?」


「北条様なら問題はないだろうが我らは槍しか教わってはいない。槍を使うべきだ」


 おや、変化を嫌う文化?科学の進歩が人類を滅ぼして新しい人類を作った。だから二度と科学が進歩しないように制約を設けた?祥太郎ってやつ、欲はないのかね?三大欲求もなんか変わってたし。


 それはともかく武器の仕組みはわかりません。これって私以外が使うとどうなるんだろう?試してみようと、


「鈴木さん、これ一回だけでいいから使ってみて?」


「いえ、私は。武器を持つ事を許されておりません。大石さんにお願いします」


 鈴木さんは上手く逃げました。それを言われた大石さんは、


「私は狩が仕事です。ですが、槍しか教わっておりませんし、その………、」


 なんとか逃げようとしています。徳子はじれったいのが嫌いです。


「大石さん、いいからはい、持って」


 と、無理やりボーガンを握らせます。サービスで掌で大石さんの手の甲をなでなでして。大石さんは驚いてボーガンを落としそうになり慌てて掴んでしまいます。


「はい、持ったんだから使ってね。ちょっとそうね。ほら、あそこの茂みに鬼犬がいるじゃない。あいつをここから打ってみて。その引き鉄見たいのを引くのよ」


「指が入らないのですが」


 ところが指が引き鉄部分に入りません。ボーガンは徳子の指サイズで作られていたのです。


「しょうがないな。じゃあ、そこに木の枝かなんか入れて引っ張ってみて。追尾装置付いてるから狙う真似だけすれば当たるわよ」


 大石さんは徳子に言われて仕方なくやってみました。引き鉄を引くと矢がビュンと飛び出します。ところが、


「あれ?」


 そのまま地面に落下します。


「追尾装置はどこへいった?ちょっと貸してくれる?」


 徳子は大石さんからボーガンを奪うように取り、改めて矢をセットします。


「うんこらしょっと。このセットがキツイ。さて、行くだわさ。徳ちゃんアロー!」


 適当に空に向けて矢を放つと高速で旋回して鬼犬へ向かって飛んでいきます。飛んでいる最中に矢が稲光を帯びているのが目視できます。そしてそのまま鬼犬へ突き刺さりビリビリしているのが見えました。


「もしかしてあたいだけ?どういう事?」


 徳子はTOKUTOKU2号が言っていた事を思い出します。この世界に干渉できるのは北条徳子、だったかな?その時に鈴木さんが不思議な事を言い出します。


「北条様。北条様がその矢というのを打つ時に北条様が背負っている物の何かが光りました」


 ???、光るって何だろう。徳子は空を見ます。相変わらず厚い雲に覆われていて太陽は見えません。陽の光の反射でないとすると何が光ったのか?徳子は背負っていたバックを下ろします。バックには祥太郎からもらったウサギのストラップと猫のストラップがぶら下がっています。


「それです。そのぶら下がっているのが光りました」


「ただのストラップじゃん。光の加減かなって空曇ってるし、ちょっと待って」


 徳子はもう一度やってみる事にしました。わからなかったらやってみる、悩むより進む、それが徳子のポリシーみたいなものです。


「いっくわさ、徳ちゃんアロー!」


 徳子は歩いている角兎めがけて矢を放ちます。その瞬間猫のストラップが光りました。すると矢は急激に加速して旋回し、角兎めがけて飛んでいきます。


 光ったのは猫のストラップでした。

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