第42話 核戦争

 えっ、何で?まさか核じゃないよね?


「真弓さん。佑太郎は?」


「AIのところ、急ごう」


 祥太郎と真弓は新宿のマンションを出て隣にある組織のビルに入り、秘密の入り口から地下へ入った。いつもはエレベーターだが今日はもしもを考えて階段を走る。祥太郎と真弓が通過したのを監視カメラが確認したのか、ほぼ同時にシャッターが降りる。狭い通路を通るとそこにも上から厚めの扉が降りてくる。鉛が入っていて放射線を遮断できるようになっている。


 地下は祥太郎の研究室以外にも様々な部屋があり、30人が半年は暮らせるよう準備されていた。このエリアの組織の人間はもしもを考えてこのシェルターの近隣に集まっていて、全員が避難できた。


 研究室に入ると佑太郎とAIが核ミサイルの弾道を追っている。


「パパ、やばいよ。日本へは5発飛んできてる。札幌、東京、名古屋、大阪、博多におちる。東京は渋谷か新宿あたりみたい」


「どこの国からだ?」


「Y国」


「どういう事だ、あそこは中立ぽかったぞ。AI、なにがどうなったんだ」


「情報収集中です。不確かな情報でよければ出せます」


「それでいい」


 集まってきた情報を整理すると、C国は停戦にあたり、占領した地域を自国とする事を条件とした。国連は戦争前の境界線を国境とするように話し、ここ数日平行線となっていた。C国の戦争は、当事者ではない、表向きは争っていない国に経済効果を及ぼしていた。支援という名の物資の押し売りだ。軍需産業が活性化する、工場が忙しくなる、電子機器の需要が増える、戦争で多くの人が死んでいるのに他国の主導者は国の利益を優先にしている。他国の戦争は大歓迎なのだ。


 Y国はC国側に大幅な軍事支援をしていた。ただし、それは表立ってではなく影での事で報道はされていない。ただ、当然それは各国の首脳は知っている。祥太郎にY国が中立に見えたのもそういう事から来ている。


 Y国とC国は、世界の指導者と言っているA国とは仲が悪く裏では共闘している。A国は攻められていたT国を支援していた。C国とT国の戦争は、裏ではY国とA国の勢力争いともなっていたのだ。そしてY国、C国、A国は核を大量に保有している。


「停戦交渉を始めたC国のポーミン大統領に対し、軍部の一部が反抗しました。あれだけ犠牲を出しておいて停戦などあり得ない、突き進むのみという過激な集団です。彼らは核ミサイル発射装置を押しました」


「それは止まったんだよな?あそこは止まるはずだ」


「はい、我々の装置が作動し核ミサイルは発射されませんでした。ところが、彼らはそこで諦めませんでした。彼らのメンバーには敵組織 ZAGPの息がかかった者がいたのです。ZAGPは核ミサイルを発射できる機会をずっと伺っていました。そして自国のミサイルが発射できない事を知ると、Y国のZAGPの仲間に連絡を取ったのです」


「Y国にも我々の装置があるだろう」


 真弓が納得いかない顔をしながら話す。その通りだ、核保有国の核ミサイル発射装置は不能のはずだ。


「祥太郎の開発した起動スイッチの効果は95%でした。普通ならそれで起動できるのですが。Y国は警戒が厳しく装置の設置位置と核ミサイル発射位置と距離があったのです。それによって我々の電磁波が届かずに核ミサイルが発射されました。100%ならその距離でも防げたというのが今回の結果から算出できました。それでも30ある発射基地のうち20は防ぐことが出来ました」


「えっ、それって不味い!」


 祥太郎はある事に気がつきました。そして叫びます。


「AI、今飛んでいる核ミサイルは幾つだ?」


「55です」


「全部Y国からか!」


 そう、組織の装置は世界中の核保有国で計画通り機能しました。その結果、本来なら報復ミサイルが世界中を飛び舞うはずが、一国のみからの核ミサイル発射になってしまったのです。核ミサイルはY国から敵国ならびにその同盟国に向かって飛んでいます。


「A国の対応は?」


「迎撃ミサイルと衛星からのビーム照射で対応しようとしましたが失敗した模様です。各国の首都、人口密集地域に核ミサイルが落ちます」


「時間は?」


「東京へはあと5分」


 何だそりゃ?何でそうなった。それじゃあ、


「どうしようもないのか?何のために僕は頑張ってきたんだ!」


 真弓が、


「祥太郎は役目を果たした。組織の情報不足だ。責任を感じる事はない」


「責任とかじゃないんだ。僕のやってきた事が世界を変えてしまう。この先、世界はどうなるんだ!」


 祥太郎が頭を抱える中、時間は待ってくれず、あちこちに核が落ちた。世界各国の主要都市は破壊され、国連本部も壊滅した。世界の人口の40%がこの核ミサイルの影響で命を落とす事になる。その中でC国とY国には核ミサイルが落ちていない。


 では勝者かというとそうではない。エネルギー、貿易、他国とのやり取りで国は成り立っている。それらが無くなる事により生活が破綻していく。C国、 Y国の国民の多くは一方的に核攻撃をした首脳部に対しデモを起こし、武力で制圧しようとする政府と内戦状態が始まる。


 そしてY国は核ミサイルが落ちたところを衛星から分析調査していた。放射能が減ってくれば上陸を考えている。他国民は全滅したわけではない。なぜこういう事態になったのかをY国の首脳は後から知ったのだが、すでに起きた事を元には戻せない。こうなったら前へ進むしかない。生き残ったY国民で世界を制するのだ。


 だが、各国の首脳はシェルターに入って生き延びていた。そして祥太郎も。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る