第43話 爆心地
ここは10022年の未来。新宿に向かって青海街道を歩いている徳子達が荻窪を通過中、徳子は何か得体の知れない違和感を感じスマホになぜかインストールされているAI TOKUTOKU 2号に聞くと、
「2030年に核ミサイルが落ちた場所です」
と可愛い女の子の声で答えます。こういう時は渋いおっさんの声でしょ!と徳子は心の中で思いましたが冗談を言える気分でもなく周辺を見渡します。徳子は改めて核戦争が実際にあったのだと実感しました。街道から見えるところにクレーターのような穴が残っています。
「ねえ、2号。核ミサイルって空中で爆発するって本で読んだ事があるんだけど。あの穴は何?」
「気付きましたか。あの場所に見覚えはありませんか?」
ん?ここって荻窪よね。荻窪といえばラーメンよね。中学の時、母親が荻窪で働いていたのでよく食べに来た。それ以外の記憶は………、無いね。
そういえばここが青海街道だとするとあそこって、
「いつも行ってたラーメン屋さんのあたりだわ。でもそれと核ミサイルに何の関係があるだわさ?」
「核ミサイルは新宿に落ちるはずでした。それがほんの僅かに軌道を変えた事により荻窪に落ちたのです。ですがそれにより新宿の祥太郎は直撃を避け生き残ったのです」
「えっ、今あんたが言った祥太郎ってAI?それともあたいの知ってる祥太郎?」
「祥太郎です」
「だからどっち?」
「祥太郎です」
「もう相変わらずあんたは!」
祥太郎が核ミサイルが落ちても生きていた?それが核ミサイルの軌道が変わったから?徳子は歩みを止めて考えています。同行している鈴木さん達はAIと徳子の会話を聞いて黙っています。新人類としては触れてはいけない部分の会話なのです。
徳子はこの世界に来てから何で自分が特別視されているかを考えた事があります。最初は異世界転生かとも思いました。ですが、ここが未来とわかり自分が特別視されて、各市長は徳子を待っていたと言います。そんなに特別な人間だと思った事は一度もありません。頭もそんなにいいわけでは無いし、未来に名前を残すような事もしていません。名前?そうだ、検索したら何かわかるかも!
「ねえ、2号。北条徳子で検索したら何が出るの?」
「検索できません」
「何で!」
「新宿まで行けば検索できるようになります。早く新宿まで進む事をお勧めします」
「わかっただわさ。でも1つ教えて?あそこに、地面かその近くで爆発したって事よね。本当は新宿上空で爆発するはずだった核ミサイルがあの位置にまでずれた。それはなぜ?」
「北条徳子」
「何、何でここであたいを呼ぶの?」
2号はまた黙ってしまいました。なんなの?そういえば前にもこんな事あったような、いつだっけ?
結局その後は何を聞いても無言になる2号を無視して高円寺へ向かった。青海街道は昔の高円寺駅の南側を通っている。道案内役の田中さんが、
「この先の高円寺市役所へ寄っていただきます。街に入りましょう」
と言ってきた。高円寺って市だっけ?区だよね。多摩地区の住民は区民と差別ではないが、それに近いような扱いを受ける事がある。徳子は中学校の修学旅行で大阪へ行った時に、他県の修学旅行生とかち合う事が何度かあった。
「どこから来たの?」
「東京だよ」
「すっげー、カッコいい。都内っていいよね。世田谷区とか芸能人いっぱいいるんでしょ?」
「わかんない。うちら多摩地区だし」
「なんだ、東京じゃあないじゃん」
「………、東京だよ、一応」
のような会話があった。実際、区と市で差別などはないし住んでて何も不自由はしていない。ただ、世間の目は多摩地区の方が田舎に見えるようだ。
「高円寺って何区だっけかなあ?こっちはあんまり来ないしなあ。ねえ、田中さん。高円寺っていつから市なの?」
「最初からですよ。8000年前からと聞いています」
やっぱし。そのパターンなのね。誰かが、その祥太郎だか創造主だかが、そういう風に作ったという事だ。区に恨みでもあったのかね。田無も市町村合併前の市だったし、もしかして明治時代の人とか?あれ、明治時代って市ってあったのかな?そんな事を考えていると高円寺市役所に着いた。距離的には高円寺の駅前のような感じだ。もちろん線路は残ってないし何となくだけど。
グルグルローザニウムがそこだけ避けているドアを開けて建物に入るといつも通り地下に降りる穴が見えました。そして久し振りに見た冷蔵庫も。徳子はバックに食料を補充してから地下へ降りていった。
スマホの中ではTOKUTOKU 2号が新宿の祥太郎と通信をしていた。
「高円寺まで来ました。ここでの用事が終われば一日で新宿に到着します」
「何か徴候はあったか?」
「弓矢のような武器を作りました。その矢には北条徳子だけ特殊効果が付与されました。そして例のストラップがその時のみ光りました」
「分析はできたのか?」
「データを送りましたが、未知のエネルギーのようで時間がかかっています」
「わかった。こちらも準備しておく」
そんな会話がされている事を知らない徳子は市長に会いに市役所へ向かった。
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