第44話 核が落ちた

 東京に核が落ちた瞬間、


 ものすごい衝撃がシェルターを襲った。地下にあるとはいえ地上では爆風が吹き荒れている。通常、大きな地震は下から突き上げるように揺れるが、この揺れは上で何かが暴れているような揺れだ。一度揺れが収まったと思ったが、再度振動がくる。高層ビルか何かが後から崩れたのだろうか。研究室には祥太郎と真弓、佑太郎、それと組織の幹部5名が状況を確認しようとAI の横に設置された大型モニターに目をやるが画像が死んでしまっている。


「非常電源に切り替えてるよね」


「皆さんをシェルターに収容後、切り替えました。3日は持ちますが、それ以降は発電機を回す必要があります。発電機の燃料は半年はありますが、それ以降は電源を確保する必要があります」


 祥太郎の問いにAIが答えた。さて、段々気持ちが落ち着いてきた。いつまでもオロオロしてはいられない。冷静にならなければ。まずは世界の状況の確認だ。


「ネットワークはどうなってる?」


「電磁波が渦巻いていて電子機器は全て死んでいます。3日もあれば回復すると思われますがアンテナはあてになりません。都内は地下ケーブルもダメージを受けており、組織の衛星からの画像解析が主体になると思われます」


「それもその電磁波が落ち着いてからか。Y国にも組織の支部があるだろう?」


「Y国はこうなると危険です。下手に動くと狙われます。このアジトを掴まれ襲撃を受けるかもしれません。それにそこからの情報はこちらの位置を知られてしまうかもしれません」


「今までと違うのか?」


「都内で生きている回線は非常に少ないでしょう。そこから辿られてしまいます。安全が確認できるまでここに滞在する事をお勧めします」


「防護服があったろ、あれで外へ出れるか?」


「3日は無理でしょう。それでも短時間の活動に制限しないと危険です。外へ出てここに戻るには洗浄室を通っていただくことになりあまりお勧めできません」


 AIはドライだ、最適を教えてくれているのはわかるが、人間の気持ちとしては今すぐにでも外へ出てどうなっているか確認したい。例えそれが命がけであっても。


 結局一週間我慢した。その間に何があったのかは一切わかっていない。そして外の放射能がある程度下がったので防護服を着て組織のメンバーと外へ出た。新宿の高層ビルは見事に吹き飛んでいる。その中でも足場がしっかりしているビルの上に階段で登り景色を見るとかなり遠くまで見渡す事ができた。あんなに見晴らしが悪かったのに少し高いところに登っただけで360°見える展望台になっている。


 火事も起きていたようだ。あちこちで煙が上がっている。爆心地はどこだろう?新宿ではなさそうだ。生存者はどう見てもいない。佑太郎の話では日本へ落ちた核ミサイルは5発。東北や甲信越あたりは大丈夫なはずだ。生き残ってる人達はどうしているのだろう。そう思っていると上空をヘリコプターが飛んできた。地方のテレビ曲だろうか?彼らから情報を取れないか、と思っていたらヘリコプターがフラフラしだし、墜落した。どういう事だ?


 組織の人間は周囲を探索している。ポケットに入っているアラームが鳴った。活動限界を知らせるアラームだ。下がったとはいえ放射能はまだ強く残っている。祥太郎と組織のメンバーはシェルターに戻った。除染した後、情報交換が始まる。


「まず爆心地だが、西に10kmほど行ったところだと思う。あくまでも爆風の方向からの推測だ」


「目に見える範囲では生存者は残ってはいない。ものすごい威力だ。おそらく、神奈川、埼玉、千葉も相当やられている」


「ヘリコプターが上空を飛んでいたが突然墜落した。墜落位置は阿佐ヶ谷か荻窪か、そっち方面だ。爆心地方向だな。ヘリコプターは東北のテレビ局の物だ」


 AIが話し始める。


「今の情報から東北頑張れテレビに繋ぎました。墜落したヘリコプターの映像が流れています」


 その映像は凄まじい物だった。爆心地は荻窪、そこを中心に20kmは壊滅状態だ。たまたま帰省していた仙台の国会議員が地方議員を集めて仮の政府を作ろうとしているようだ。AIは続けて静岡夕日テレビにも繋いだ。静岡も無事だった。だが、東北との連絡は取れていないようだ。国会議事堂も無くなっていたし、総理とかどうなったのか?


「テレビ曲の放送状況ですが、札幌、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、名古屋、岐阜、三重、和歌山、兵庫、滋賀、福岡、佐賀、大分周辺は放送をしていません。それ以外の地域では放送をしています。ただ、徐々に放送できなくなってきているようです」


「どういう事だ?ヘリコプターの墜落と関係があるのか?」


 祥太郎はなんとなくそう思ったのだ。あの墜落の仕方はおかしい。


「核ミサイルで荒れていた空気中の粒子が落ち着いて電波が復帰したのですが、新たな何かが通信を阻害し始めています」


「何が起きている?推測でいいから教えてくれ!」


「世界中で核がほぼ同時に爆発することにより、地上が電離層のようになってきていると思われます。今後地上へ出るのは禁止します。危険です」


 「他国の情報はないのか?」


 「核が落ちてない国で暴動が始まっています。戦争に介入していないY国です」



 それから2か月、祥太郎達はシェルターで過ごした。テレビも見れずネットも繋がらず状況が一切わからない。その間に世界は再び動き出していた。





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