第48話 除染ロボット

 どんとこい東村山!真弓は息子の佑太郎と一緒に懐かしの場所へ向かっています。佑太郎はAIから両親の馴れ初めを聞き、そこで初めて北条徳子という女性の存在を知りました。とても不思議な女性です。父である祥太郎の友人だったようですが、組織の作った核ミサイル発射を阻害する装置の起動スイッチを持ったまま行方不明になった女性。しかも未来へ飛んだ?何それって感じですが、その起動スイッチの謎は解けていないそうです。


「ママ。ママは北条徳子って人に会ったことはあるの?」


「ない。その女が悪いわけではないが、結果として核ミサイルを止められなかった。北条徳子が居なければ組織は戦争を止められた」


 そうなのかな?流石に飛躍しすぎだよね。


「勝手に装置が起動したんだよね?そのスイッチが悪いんじゃないの?ただの人間に戦争を止めるだなんて無理でしょ?それにパパがスイッチ作ったけど核ミサイルは止められなかったし」


「佑太郎はAIから聞いたんだね。起動スイッチを作った開発者は設計図を残さなかった。祥太郎とAIが何年もかけたのに完全な再現ができなかった。おかしいとは思わないか?」


「AIに聞いたけど材質の不純物の可能性が高いって。パパが不純物に着目して起動スイッチ作ったら良いところまではいったんでしょ?だったらほぼ再現できたんだし、核ミサイルは結果論でしょ。それにそれとその徳子さんは関係なくない?」


「北条徳子は何をしたのか?あの装置に地面に穴を開ける力はないよ」


「ママはやけに北条徳子に絡むね。ヤキモチ?」


「バ、バカ!そうじゃない。あの事件がなければママとパパは知り合っていない。ある意味佑太郎が生まれたのも北条徳子のおかげだ。ぼちぼち着くぞ、あれがどんとこい東村山!だ」


 真弓は結構動揺していた。AIに聞いたところだと両親の馴れ初めは真弓の一目惚れだったそうだがそれを内緒にしているようだ。北条徳子に不思議な力でもあるように聞こえたけどそんなことあるのだろうか?確かにそう思わないと解決できない事が多い。結局あの北条徳子失踪事件の起点になった穴はどうやっても再現できなかったようだし、AI曰く未知のエネルギーでそれによって未来へ移動したという見解だ。


佑太郎は北条徳子への興味が一段と増した。いつか会ってみたい。


 爆風で家がほとんどなくなっている東村山で、どんとこい東村山!の建屋は残っていました。組織が強化鉄筋で建物を作り変えていたのです。それでもかなりやられていましたが。


 佑太郎は動揺する真弓を尻目に建物の中に入っていきます。AIから家の図面を聞いていたのでそのまま地下室の入り口を見つけ、中に入って行きました。その後を真弓が続きます。シェルターの中に入ると、中にはおばあさんの遺体がありました。ついこの間まで生きていたような感じでした。


「ママ。おばあさんが死んでる」


「ここの家主だ。私も世話になった人だ」


 真弓はさっきまで動揺していたのが嘘のように冷静に、おばあさんの検死みたいな事を始めました。


「普通の老衰のようだ。寿命を全うした。核で死ぬより良かったと思う」


 真弓の日本語はまだわかりにくい。それでも意味は伝わりました。組織のシェルターのおかげで寿命まで生きられたという事です。人はいつ死ぬかはわかりません。事故、突然死、それも寿命なのか運命なのかはわかりませんが、老衰というのは生物にとって一番いい死に方のような気がします。


 佑太郎は特殊な環境で育ちましたので考え方が大人びています。哲学的でもあります。今回の核でどのくらいの人が亡くなったのかは情報が入ってなくわかりませんが、相当多くの人がおばあさんの死体をそのままに目的の部屋に向かいます。そこは以前祥太郎が起動スイッチを作るのに使用していた実験部屋です。


「あった。ここには色々な設備があるね。自家発電もまだ生きてるし。えーと、これかな?」


 佑太郎はパソコンのスイッチを入れてスマホの情報を移しました。すると、


「佑太郎。ありがとう。これでここでも活動できる」


 以前祥太郎が起動スイッチ開発に使っていたAIが最新情報でアップデートされたのです。新宿の本体と同じ状態になりました。そして真弓と佑太郎に近くの家屋や建物の中に残っているパソコンやスマホ、鉄やその他何でも資源を集めるよう指示しました。AIは残っている設備を稼働してここを工場にしようとしています。


 1ヶ月後、組織の生き残りの手伝いもあり、どんとこい東村山!の地下では除染ロボットが量産されています。それは組織の人間によって各地へ運ばれていきました。そして、新宿と東村山のネットワークが復活し、世界の情報も入るようになりました。AIが開発した新環境システムによって。

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