第14話 現場へ戻る理由

 警察がおじさんの家にきて大騒ぎになっています。やっぱり殺人事件でした。祥太郎は重要参考人として東村山署にほぼ強制的に連れ込まれました。取り調べ室らしき小部屋に通されて、テーブル越しに知らない刑事さんと向かい合って座らされています。部屋の隅には調書を書いているのかもう1人の刑事さんがペンを走らせています。


「こういう時ってカツ丼かなんか出るのですかね?」


「それはドラマの見過ぎだな。それに君は犯人じゃあないだろう。カツ丼で何を教えてくれるんだい?」


 アホな事を聞いたのに至極真っ当な回答が帰ってきました。さすが刑事さん。


「佐久間さんという刑事さんに話しましたが、北条徳子さんが居なくなった日、あの謎の地面の穴ができました。死んだおじさんは穴ができるところを見ていたそうです。大きな音がして家の前に出ると東村山高校の制服を着た女生徒が大きな地震にでもあったように揺れていたそうです。地震は局所的に起きていてそのうちにその女生徒がクルクル回り始め、気付くと女生徒は消えていなくなり、地面に捻れた穴が空いていた。おじさんはそう言っていました。僕はその女生徒が北条徳子さんだと思っています」


「あの穴はどうしてできたと思う?」


「わかりません。自然現象にしてはおかしいですし、おじさんの話も正直言って眉唾です。ただ、道路に穴が空いた事は事実なので何か物理的な力が加わったとしか」


「そうだな」


「警察では何か原因を掴んでないのですか、あのアジア系外国人とかアジア系外国人とか」


「警察の仕事は道路工事ではない。君の恋人の失踪と知り合いのおじさん殺人事件だ。両方とも君の知り合いだろう、だから来てもらったんだ。参考人としてな」


 そう言われてみると僕が怪しく感じるね。もちろん僕は何にも知りません。その後、繰り返し何度も同じ事を質問されて、何度も同じ答えを返しました。そのうちに動きがありました。逃げたアジア系外国人が殺されていたのです。


 取り調べ室から出されて帰っていいよと言われました。そう言われてもただで帰れますかってーの。丁度警察署の入り口でサモジこと佐久間さんとばったり会えたので、取り調べを受けた事を言うと、


「そうか。すまなかった。あの亡くなったおっさんは本杉健太と言うのだが、ごく普通のサラリーマンで何も怪しいところはなかったよ。たまたま穴の近くに住んでいたために亡くなったようなものだ。神宮寺君には関係ない事も分かったから、この事は忘れてくれ。浪人生なんだろ?勉強頑張らないとな」


「心配していただけてありがとうございます。その本杉さんはともかく、徳子ちゃんの失踪は僕にとって一大事なんです。たった1人の気を許せる友人なんです。何かわかった事はありませんか?」


「ないよ。仮にあっても君に教える事は出来ない。事件に巻き込まれる可能性もあるからな」


「事件ってあの穴ですか?」


「捜査上の事は話せない。さあ帰った帰った」


 祥太郎は警察署を追い出されてしまいました。仕方がない、独自捜査だ。このまま引き下がれないし、勉強しろったって気になって身が入るわけがない。僕はそんなに器用じゃないんだ。




 まずはあのアジア系外国人だ。あいつがおじさんを殺した。それはなぜだ?なぜを5回繰り返すと真実が見えてくるって誰かが言ってたっけ。誰だっけ。そうだ、徳子ちゃんだ。何でそんな事を知ってるのかと聞いたら、電車の中でサラリーマンのおじさんが自慢げに話してたんだそうだ。ナゼナゼ分析とか言うらしい。それを知ったかぶりして自信ありげに話すのが徳子ちゃんだ。


 なぜを5回繰り返してみよう。まず、おじさんが死んだ。

 なぜ1回目 アジア人に殺された

 なぜ2回目 アジア人の秘密を知った、もしくは見られたと思った。

 なぜ3回目 地面に穴が空いた現場にいた。もしくは穴ができるのを見ていた。

 なぜ4回目 超局所エリアで地震があった。

 なぜ5回目 アジア人が何かして地震を起こした?


 つまりアジア人が何か地震が起きるような事をしていてその秘密を見たおじさんを殺した。うん、映画か小説みたいだね。ちょっと飛躍しすぎだね。これじゃ完全にSFだわさ。だわさって徳子ちゃんの口癖じゃん。独り言だけじゃなくて口癖までうつったか。


 翌日、穴のところへ行くと佐久間さんと佐々木さんが来ていました。現場100回だっけ、本当の話なのかな?


「こんにちは。お勤めお疲れ様です」


 佐久間さんは祥太朗を見て微笑みながら、


「犯人は現場へ戻るって聞いたことあるか?」


 えっ、そっち?

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る