第22話 どんとこい 東村山!

 徳子はこうなったら大サービスの大盤振る舞いだわさ、と太田さんの手を握ろうと思いましたが、手の大きさが徳子の3倍くらいあって握手は無理とわかり、太田さんの手を両手で包み込むように挟みました。硬い手でした。体温は同じくらいかな?徐々に太田さんの鼻の下が伸びていきます。


「結構気色悪いだわさ。でもある意味嬉しいよね」


 アイドルの握手会ってこういうのなのかな?どんな人が来ても笑顔でまた来てね!ってやってるよね。来てくれて嬉しいのとキモいのとが合体してるなんとも言えない感じです。大変な職業だわさ、ホント。徳子はそんな事を考えながらぼちぼちもういいかな、と手を離して満面の笑顔で


「それでは太田さん。行きましょう、回してもらいたいハンドルがあるのです」


 せっかく笑顔しても相手は見れないのですがここは気持ちの問題です。



 徳子はどんとこい東村山!の方に歩いていきます。すると途中まで付いてきていた太田さんが立ち止まってキョロキョロし始めました。あれ、もしかしてわからなくなってる?


「太田さーーん、こっちですわよー!」


「そ、それがそちらの方向に進むことができません。何か邪魔をされているようです。そこには一体何があるのですか?」


「えーっと、昔お店だったところなのですが」


「お店ですか?お金が流通していた頃にあったというあのお店ですね。やっぱりダメです。そちらへ行く事が出来ません」


 どういうこっちゃパンナコッタ。これじゃ触られじゃない触り損じゃないの。こっちには行けない何かがあるのかしら?それならばとその後、通る道を変えたり侵入する方向を変えたり東西南北四方八方からどんとこい東村山!を目指しましたが、どうやってもどんとこい東村山!の周辺まで行くと太田さんが進めなくなってしまいます。お店が悪いのか、お金が悪いのか?それともどんとこいだから悪いのか?意味わかんねー!って一人でふざけてると、


「北条様、すいません。やはりそこに行く事が出来ないようです」


 と、太田さんの冷静な声が。こりゃ困った。徳子の力ではあの入り口は開けられない。とりあえず今回は諦めて市役所へ戻ろうとしたら、さっきの脱走者を追いかけていった3人が戻ってきました。太田さんが声をかけます。


「加藤さん、どうなりましたか?」


「太田さん。処分完了しました。太田さんは念のため北条様を市役所へ送って行ってください。我らは配置に戻ります」


「わかりました」


 リーダーが加藤さんなのかな?処分完了って、それ以上は聞かないほうがいいよね。絶対聞かない方がいいよね。これは聞けって事?なんてまた心の中でふざけているとなんか戻ってきた3人からの視線ではない、スキャンされてる感じがさっきと感覚が違う。さっきは単純に存在を確認している感じだったけど、今はなんか、そう、おじさんのエロい視線なみたいな、


 女を初めて見たじゃない、初めて女という生き物に出会えた新人類。初めて異性を意識しはじめた中学生のごとく興味深々な感じです。多分性欲ではないとは思いますがなんかの欲を感じて背筋が寒くなります。


「ジロジロ見ないでくださいませ。エッチでございますわ!」


 それを聞いた新人類達はキョトンとしています。意味がわかっていないようです。徳子はまあいいかっと開き直ります。モテ期到来とでも思うことにしますか!ポジティブ前向き徳子ちゃんだぜ!人生初のモテ期がこれかよ~~。


 徳子は市役所まで歩きながら脱走者について質問をしました。色々な人に同じ事を聞くと意外と新しい事が分かると誰かが言ってたのを思い出したのです。誰だったかな?あっ電車で話してたサラリーマンだ!徳子は人の会話を聞いて知識を得ていました。徳子のボキャブラリーはアニメと漫画と聞き耳と雑談からできています。


「加藤さん。脱走者ってなんで脱走するのですか?」


「わかりません。ただ、初めてわかるような気がしてきました。こんな感覚は初めてです」


「どういう意味でしょうか?」


「北条様が女と聞いてから身体がおかしいのです。何か高揚しているような、身体の奥から元気が湧いてきています。これは一体なんなのでしょう。この感覚を求めて脱走するのかもしれません」


 もしかして人間本来の遺伝子が出てくるのかもね。男しかいない、寿命が決まってる、力持ち、創造主が何をしたくて作ったのかわからない新人類だけど、元は人間がベースだろうから。


 それをバグと呼んでいるのかも。




 市役所へ戻ったあと、市長との面談を行いました。聞きたい事はまだまだ尽きません。とはいえ一番聞きたいのはどんとこい東村山についてです。


「近藤さん。どんとこい東村山!って知ってますか?」


「わかりません。それは何でしょうか?」


「昔、お店だったところです」


「お店?ああ、お金で買い物をするところですね」


「そうです。さすがは市長、よくご存知で」


「東村山にお店があったのですか?記録にはないのですが」


 無いのかよ。


「お金っていつ頃まであったのですか?」


「わかりません。そういうのがあったという事は教わりましたが、それだけです」


「うーん、お店って東村山にないとすると何処ならあったとかわかります?」


「わかりません。それは伝わっておりません」


 そうかよ、ならば!


「それでは、市内に行けないところがあるのはご存知ですか?私はそこに行く事ができるのですが、管理区域A3の太田さんはどうやってもそこに行けないのです」


 近藤さんは考え込んでいます。しばらく考えてから、


「北条様。我々は創造主様によって作られたと伝わっています。そして創造主様が我らに与えたものと与えなかったものがあるのです。必要のないものは与えなかった、そう伝わっています。我らにとってそこは必要がない場所なのでしょう」


 意味わかんない!



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