第9話 マップ

 徳子と鈴木さんは冷蔵庫のある部屋にやっとたどり着きました。鈴木さんは余裕ですが徳子はヘロヘロです。徳子は学校帰りだったのでディバックを背負っていました。その中身を取り出して、代わりに冷蔵庫から食料をしまいます。教科書やノートはもう使わないでしょう。ここに置いていくことにしました。ディバックのファスナーには翔太郎から貰ったストラップが付いています。


「思い出した。最近忘れっぽいのよね、歳のせいかしら。オホホホホホってまだ17歳だわい!」


「どうかなされましたか?」


 鈴木さんの冷静なツッコミ!独り言で恥ずかしい思いをするのは慣れているのだ。はっはっは、虚しい。


「鈴木さん、いつだったか翔太郎がどうのこうの言ってませんでしたか?」


「翔太郎様の事でしょうか?」


「そっれて、じゃないそれって何の事でしょう」


 変などもり方しちまったい。焦ってる徳子ちゃんも可愛い、テヘ!なのに鈴木さんは至って冷静です。


「創造主様の事です。それもお忘れなのですね」


 そうかあ、創造主ね。てことはあの翔太郎とは無関係だ。うだつの上がらない浪人生と同じ名前とは創造主様も不幸な。でも創造主って何した人なのかね、一応聞いてみるか。


「創造主ってこの世界を作ったとかそういう事ですか?」


「詳しい事は何もわかりません。翔太郎様の教えに従って生活をしているだけです。今は争いもなく皆が平和に暮らしています」


「今は?つまり昔は?」


「わかりません。お金が流通していた頃は争いがあったと聞いております」


 徳子と鈴木さんは部屋を出て風化したビル街を歩いています。スマホのコンパスを見ると東に向かって歩いていることになります。徳子はスマホの画面を見ていてマップがある事に気が付きました。


「ホッホー!マップがあるじゃん。地図地図チーズケーキが食べたいなっと」


 また変な事を言いながらスマホを操作する徳子を鈴木さんはキョトンとしながら立ち止まって待っています。目がないので見えてはいないのですが何かをしているのはわかるようです。


「地名とか出るといいな」


 スマホのマップを開くと出てきたのはこの周辺だけでした。世界どころか都内さえ見れません。都内かどうかもわかりませんが。どうやら自分が歩いたところとその周辺しか表示されないようです。


「ゲームのダンジョン地図じゃないんだから、何だよこの設定」


 地名は東村山市と出ています。東京都とは出ていません。ただの東村山市です。


「鈴木さん、ここって東京都ですよね?」


「管理区域A3です」


「鈴木さん、ここって日本ですよね?」


「管理区域A3です」


 こりゃダメだ。どうやらそれしかわからないようです。東村山市なんてマイナーな名前だけが残ってる10022年。本当に未来なのか怪しくなってきました。もしかして夢を見てるんじゃないかと再び思ってしまいます。


 マップを見ると目的地と思われるところに赤い矢印が出ています。ここに市長がいるのでしょうか?


「鈴木さん、ここにいくのですか?」


 徳子はスマホを見せますが鈴木さんは反応しません。


「すいません。ここというのは?行き先はこのまま真っ直ぐ行って、ぶつかった所を右に曲がりその先を左に曲がった建物の中です。また地下へ下りますよ」


 スマホの地図と合致しています。目が見えないのになぜわかるのか?その波長ってやつ?


「不思議そうですね。そのお持ちの物が何かはわかりませんが行き先は合っていましたか?何か不思議な機械をお持ちのようですね」


「これはスマホと言いまして便利な道具です。この区域にはないようですね」


 徳子は話を無理して合わせています。


「そのような道具はありません。何をする為の道具なのですか?」


「電話をしたり、調べ物をしたりする時に使います」


「電話とはなんでしょうか?」


「ええーっと、遠くにいる人と話す時に使います」


「そのような道具があるのでしたらとても便利ですね。東村山市長にも電話をすればわざわざ行かなくてもいいのではないでしょうか?」


 そうなんだけど番号知らないし。


「電話ですが、相手の方もスマホか電話できる機械を持っていないと繋がらないのです。東村山市長さんの電話番号を知らないのでかけられません」


「北条様の地域でしか使えないのかもしれませんね。少なくともこの地域ではスマホというのを持っている者はいないはずです」


 電波もないから繋がるわけないし。でもなぜかネットはできるのよね。電話もできたりして。後で試して見ようっと。パトカー呼んじゃうとか!


 良い子はそういういたずらはしないでね!

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