第6話 トンデレラ城
徳子は鈴木さんと一緒に長い階段を降りていった。もう暗いの怖いなんて言ってられない。目が見えない鈴木さんは暗さを気にしないのに対し、徳子は一段一段と踏みしめるように慎重に降りていく。鈴木さんは徳子にペースを合わせてくれた。何故か階段の高さは徳子の足の長さにピッタリだった。鈴木さんは体型が違うので何段か飛ばして降りるので休みながらだが徳子は休めない。
何時間かかったのだろう。降りて降りてまた降りてもう感覚が無くなっている。もう無理〜と思った時、鈴木さんが、
「到着しました。ここが管理区域A3の入り口です」
と話しかけてきてそれを聞いたら何故か急に元気が出た。単純なものである。鈴木さんが真っ暗な部屋のようなところで扉を開けると少しだけ明るい場所に出た。考えたら地下500mなのだ。鈴木さんの目がない事から考えてもきっと灯りなんかないのだろう。もう一つ門のようなところを潜ると更に扉があって門番らしき人?がいた。少しだけだが明るいので左右にでかいのがいるのが見える!まさに神社とかにいる風神雷神。徳子は一応聞いてみました。
「鈴木さん、あの大きな方は?」
「門番です。たまに抜け出す者が居るのです。許可がないと地上へは行けません。太田さん、お客様を連れてきました。お名前持ちのお方です。区域長は?」
太田さんなんだね。すると門番の太田さんが震え始める。
「な、お名前持ち!本当か、本当に名前がある人がこの世界に存在したのか?」
「太田さん、私も最初同じ思いでした。ですがこの北条様はこのように小さなお身体で旅をされているお方です。只者ではありません」
只者ってどういう事よ!こんなか弱い女子高生をつかまえてプンプン!そんな徳子をじっと見ている門番達。目が無いのに見られてる感じがすごい。なんだろう、駅とかでおっさんが胸を見てくるのとは違う感覚だ。視線ではなくスキャンされてるから?
「北条様はもしかしてあの幻の女性なのではありませんか?」
「太田さん。流石にそれはないでしょう。失われた文明のお話ですよね」
「そうですよね。どうぞお通りください」
ありがとうございますと言ったら、門が開いた。真っ暗だと思ったら薄明かりだ。よく見ると真っ直ぐに続く道の向こうにお城のような建物がある。ネズミーランドのトンデレラ城みたいだ。そこの一部だけ明かりがあってそのせいで全体が薄明るくなっているようだ。
また門があった。そこをくぐると民家が立ち並んでいる。なんと言ったか、時代劇で見る城下町のようだった。ただ、一軒一軒がでかいからそれ自身がビルみたいだ。
「ここが大塚、その向こうが佐藤です。鈴木はその横になります」
大塚の隣は池袋って違う!そんな事は聞いていないのですよ鈴木さん。興味があるのはそこでは無いのです。
「先程、女性がどうとか言っていませんでしたか?」
「それが何か?」
「失われた文明とかも?」
「はい。それが何か?」
会話にならない。どうしましょう。この人に聞いてもダメかもしれないし、こっちの正体がバレた時の影響がわからない。しばらくは情報収集をできる範囲で行うことにしました。
どんどん歩いていくと、トンデレラ城が近づいてくる。鈴木さんはその中に入っていった。当然徳子も続いて入る。
「眩しい!」
照度は大したことないのですが、急に明るくなったので目が驚いたようです。ところが鈴木さんはキョトンとしています。
「眩しい、初めて聞く言葉です。どういう意味なのでしょう?」
「ええーーっと、鈴木さんはここが明るいとかわかりますか?」
「明るい?」
やっぱりそこからか。うまく説明できないというと納得してくれました。徳子の常識と鈴木さんの常識が異なると理解しているようです。階段を登り、そう階段なんだけど何故か人間サイズ。一段が徳子にとって普通に登れるのです、鈴木さんは四段飛ばしですが。つまり、この建物ってそういう事?ってどういう事?とにかく二階の奥の大きな部屋に通されました。そこには大きい人用と小さい人用のソファーが置いてありました。当然徳子は小さい方に座ります。
「ここでお待ちください。区域長を呼んで参ります。そうですよね、そちらに座られますよね」
「大きい方は流石にちょっと」
「使われる方を初めて感じたのですいません。少しお待ちください」
そう言って鈴木さんは出ていった。徳子は部屋の中を観察しています。トンデレラ城の中は明るく旧西洋の館のようなイメージで廊下壁に美術品のような絵が飾ってありました。ただその絵はボロボロで何を書いたものかわかりません。
そしてこの部屋にも絵は飾ってありました。どう見てもモナリザだった物です。そう表現するしか無い絵でした。窓際に大きなテーブルと椅子が置いてあります。区域長の仕事場兼応接室なのかもしれません。
「お茶の一つも出ないのかな?そういえばあれって今考えたらおかしいじゃん」
徳子はお茶で思い出しました。上の水道、冷蔵庫は人間サイズでした。紐を引っ張るとできるお弁当も徳子にとってちょうどいい大きさでした。
「どういう事だい、ところどころあたいのサイズが残ってるぞ」
そんな事を考えていると誰かが部屋に入ってきました。
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