第35話 佑太郎登場
「核戦争の阻止」
祥太郎はそう言った。老人は驚いたような顔を一瞬だけして、すぐに元の顔に戻った。秘書はピクリとも動かない。
「面白いな、君は。真弓の言った通りの男なのかもしれん」
祥太郎は予想が当たったのか違ったのかがわからない。老人はそれをわからないようにしているようにも思えた。そもそも何者なのだ、このおっさんは?
「失礼ですが、何とお呼びしたらよろしいですか?」
「私の事かね?そうだね、鈴木とでも呼んでくれたまえ」
鈴木ねえ、こっちの秘書は佐藤さんとか?そう思って秘書を見ると、
「山田です」
と無表情に名乗る秘書さん。そっちかよ!なんとか表情を崩さないように堪える祥太郎でした。その様子を見ていた鈴木は、
「わかっていると思うが偽名だよ。さて、君の言った組織の目的だが私の口から答える事は出来ない。君の予想に対して肯定も否定もしない。それで聡明な君ならわかるはずだ」
「そうですか、わかりました(多分当たってるな、そう考えないと辻褄があってこないんだよ)。組織から電磁波の研究をするように指示されたのですが、徳子ちゃんの行方と関係ありますよね?」
「君が真剣に研究に取り組んでいると聞いている。それが結果に繋がる事を期待している」
会話が成立していないような気もするが、それが精一杯の回答とも受け取れる。秘書が目を光らせているのだ。もしかしたら老人が変な事を言わないように秘書が見張っているのか?祥太郎はジャブを打ってみるかと、
「山田さんでしたね。山田さんは鈴木さんのお抱え秘書なのでしょうか?」
山田さんは無表情で、
「その質問に意味はありますか?不必要な質問にはお答えできません」
と冷たい対応です。ヤダヤダ怖い怖い。では関係ある事を聞いてみましょう。祥太郎はなんか閃いたのです。
「失礼しました。それでは本日の面会の目的を教えてください、山田さん」
「私にですか?」
「ええ、本当のボスは山田さんでしょう?」
山田さんは初めて表情を崩しました。なかなかやるな、こいつという雰囲気です。
「鈴木、お前についてきて良かった。こいつは拾い物だ」
「そうですか。ですが、結果を出して貰わないと」
「それはそうだが、まだ誰も北条徳子を見つけられないではないか。焦る事はない、まだ時間はある。祥太郎と言ったな。お前の言う通り、私が組織のボスだ。正確には元ボスの娘で組織を引き継いだんだ。お前にはもう少しだけ秘密を話してやろう。その前に、おい、入って来い!」
山田の声で女性が子供と一緒に部屋に入ってきた。真弓だった。
「真弓さん、まさかその子は?」
「あなたの子供よ、祥太郎。名前は佑太郎、そしてそこの鈴木と名乗った人は私の父よ」
えっ、お義父さんだったの?でも結婚してないし。娘を孕ませた悪い男のポジションという事でしょうか?孫の佑太郎が部屋に入ってくると、鈴木はデレデレです。孫バカのただのおじいちゃんになってしまいました。さっきまでの緊張した雰囲気はなんだったの?という感じです。
とはいえ祥太郎は突然の子供登場にオロオロしています。それをみた真弓が、
「佑太郎、パパよ」
佑太郎は祥太郎を見るがソッポを向いてしまう。ただ顔は祥太郎に似ていました。祥太郎はショックで声が出ない。真弓が佑太郎を抱きかかえ祥太郎に抱かせようとすると佑太郎は暴れて嫌がる。
「僕、嫌われてる?」
「照れてるのよ、あなた似でしょ?」
真弓はさらっと言って佑太郎を連れて部屋を出て行った。扉が閉まるとまた空気が重たくなる。山田はでは次とばかりに、
「ご対面はこれで終わり、さて、おい、どうした?」
祥太郎はまだ動揺していて心ここにあらずだった。いつかは子供と出会う日が来るとは思ってはいたが突然すぎた。しかもまだ義父が目の前にいるのだ。
「鈴木、私には時間がない。後は任せる。孫の親だからといって甘やかすなよ。祥太郎、期待しているぞ」
そう言って山田はでていってしまった。
祥太郎が落ち着いてから鈴木はあらかじめ決められていた話をしてもいいところまで説明してくれた。組織の目的は増えすぎた人口を減らしコントロールする事だった。
「僕の予想は外れたのですね。ただ、それだとあの装置の目的って?」
「組織には敵がいる。そいつらはいずれ起きる核戦争で人口を減らす事を考えている。あの装置は核戦争を防ぐのが目的だ」
「どうやってですか?」
「それは秘密だ。君の研究は関係があるとだけ言っておこう」
波、か。なんとなくわかってきたぞ。
「ではうちの組織はどうやって人口をコントロールしようとしているのですか?」
「それは秘密だ。そうそう、君と子供だがたまには会えるようにしておく。では、研究の成果を期待している」
祥太郎は、王国ホテルを出て自分の部屋に戻ってから今日起きた事を整理し始める。色々あってお腹いっぱい脳みそキャパオーバーだったがそうもいってられない。
「徳子ちゃんの持っているものが核戦争を止める?まさかね」
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