第15話 ステータス3倍とかいうチート


「まさか驚いたね。経験値屋が同行も受け付けていたなんて」


そう言ってシノは笑と彼女は俺に剣を向けてきた。


「ここで軽く手合わせ願えないかな?経験値屋。その実力が気になって気になって私は夜も眠れなくなりそう。どうかな?」


先に私のステータスを見せるよと言って彼女は自身のステータスを公開した。


名前:シノ

ランク:S

ジョブ:剣士

スキル:毘沙門天びしゃもんてんEX

スキル詳細:発動時、5秒間1部ステータス(攻撃力、素早さ、防御力)を3倍にする。


レベル:55

攻撃力:40

防御力:30

素早さ:35

魔力:40


俺のステータスなんてこんなもんだ。


レベル:80

攻撃力:79

防御力:78

素早さ:80

魔力:75


自分のステータスを見て笑う。

俺にはバフスキルが何一つない。


俺にあるのはこの平均的なステータスだけ。


「勝てるわけないよな君には」


まず、スキルからしてどうしようもない。

シノは神に祝福された人間のステータス。


毘沙門天。

戦神と呼ばれた神の加護を授けられた者。


現状最高峰と呼ばれているSランク冒険者のシノ。

そんなのに俺が勝てるわけない。


でもさ。俺これでも転生者だぜ?

何とかなるかもな。


「戦わないのかい?」


そう聞いてくるシノに答える。


「軽く、な。今持ってるのがEランクのナイフしかないし」

「そうこなくっちゃね」


シノが剣を抜いた。

勝負は恐らく一瞬で決まるだろう。


神経を研ぎ澄ませる。

彼女がスキルを使った瞬間勝敗は決まる。


ザッ!

動いた瞬間足の向きを見た。右からくる!


振りかぶってきた剣を避けてナイフを突き出す。


「!?」


驚くシノ。

一方俺のナイフはシノの鎧に届いていたがナイフが弱くて、鎧を貫けないところにシノが横から拳でナイフを叩いた。


叩かれた俺のナイフは真ん中で折れて刀身が半分になっていた。


てかいくらEランクの安物のナイフでも刀身を折るなんてどんな攻撃力してんだよほんと。


ごめん、言い訳させて武器がさすがに弱すぎ。

けど


「負けだよ俺の」


そう呟いて俺の背後まで駆け抜けたシノの顔を見たけど。

その顔に大粒の汗が浮かんでいた。


「私のスピードにまさか着いてこれるなんて思わなかったよ」


ふ、ふふふと笑う彼女。

何故か楽しそうな顔をしていた。


「面白い。流石経験値を売っているだけあるね。そのナイフがもっといいものだったなら……いや、たらればの話はやめよう。次も楽しみにしてるよ」


そう言って彼女は歩いていってしまった。


圧倒的スキル性能の差を思い知らされた。そもそも俺にはスキルなんてないけど。


チート過ぎんだろうがあのスキル。

何だよ、ステータスを3倍にするって。


あのスキルの所有者はあのスキルのせいで若干ステータスが低いらしいけどそれでもチートみたいなスキルだ。


でも、正直な感想を言うと、次はほぼほぼ勝てると思う。

そういう確信がある。見ていた感じ、シノには弱点があるから。


「はぁ……」


肩で息をして座り込んだ。

正直あのスキルはホントに羨ましいから溜息なんて幾らでも出る。


「す、すごいよ!アイル!あのシノにあそこまで言わせるなんて!」


そんな俺に声をかけに来てくれるイレーナ。


「今まで負け無しで他人のことを認めたことがない子なんだよ!あれ。私なんて名前も覚えてもらってないのに!すごいよ!」


褒めてるのかなんなのかよく分かんないことを言ってくれるイレーナ。


でも、勝てなかった。

と、同時に思う。


ぶっちゃけ目では追えてた。

ナイフがいいものなら勝てたかなとも思うけどほんとにたらればだ。


壊れたナイフを捨てて新しいのを引っ張り出す。

そうしているとエルザが話しかけてきた。


「今回シノがいるのなら初攻略報酬は無理そうだ」


と呟く。

それほどまでにやはりシノのパーティは手強いらしい。


「別にこれで終わりじゃないさ。次も挑戦できるし」


そう言って立ち上がる。

それに俺はあのシノが可哀想に思える。


あのスキルを使えば向かうところ敵なんて居なかっただろう。


スキルを使うだけで自分の速さが3倍になるのだ。

これだけでまともに相手出来るやつがいなかったと思う。


それを証明するようにあいつ俺と戦ったあと嬉しそうだったもん。


俺はエルザを促して先に進むことにしたのだが、先に進んだはずのシノと直ぐに合流してしまった。


「どうしたんだ?シノ」


俺が話しかけると


「あー。今、厄介なことになっててね」


彼女が前に目をやると落石が道を塞いでいるようだった。

どうしようかと彼女が悩んでいたところ


「私が斬ろう」


そう言って前に出るエルザ。


ザン!!!!

彼女の振った力任せの一閃は岩を断ち切った。


ゴリザだ、ゴリザ。


「おぉぉぉぉ」


俺達は一同でエルザの行いに拍手。


「さ、これで進めるようになった。行こう」


と先導するエルザ。

その後ろをついて歩きながらイレーナが俺の腕を組んで来て


「そろそろ、眠いなー」


ってなことを言い出した。

その声はみんなに聞こえたようで。


「じゃあ野営にするか。私もそろそろ疲れたところだ」


とエルザが口にしたら


「じゃ、そろそろ私達もそうしますか」


とシノも口にする。

みんなそろそろ休みたかったけど誰も言い出せなかったのかもな。


野営の準備を済ませて俺はその辺りを適当に散策していた。


すると、温泉を見つけた。

火山に出来たダンジョンだから、こういう事もあるんだろうな。


みんなに伝えたら先に入っていいと言われたのでイレーナを誘った。


「きもち〜」

「だね〜」


俺の横に寄ってくるイレーナ。


「なぁイレーナ」


俺はイレーナの肩に手を回した。


「なに?」

「好きだよ」

「な、何で今なのよ」


そう囁いて俺はイレーナを抱きしめる。

とイレーナが俺の体に触ってきた。


「あの?何処を触っておられるのですか?イレーナさん?」

「そろそろご子息のこと教育しとこうかなぁって思って」


水中でベチンと軽く叩いてくる。


「ねぇ?教育されたいよねぇ?」


そう言って跨ってくる。


「はい。教育が必要です」


よろしくお願いします。



そんな馬鹿なことをしていた時だった。


「ねぇちょっといい?」


見上げるとシノが俺たちに話しかけてきてきていた。

何の用なんだろ?

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