第30話 【アーロイ視点】おもちゃ

side アーロイ


アーロイは王城を散歩していた。


「アイルの野郎。スライムを倒したらしいな。やるじゃん」


その報せが来る前にアーロイは倒されたことを理解していた。

スキル【鳳凰ほうおうの眼】


遠く離れた場所のことが分かるスキル。

眼帯に隠された右目はここにあるが、ここでは無い場所を見ていた。


「アーロイィ」


声をかけてきたのはユシャーだった。


「た、頼む。お前だけが頼みなんだよアーロイ」

「えぇっと、何が、かな?」


ニコニコの笑顔で答えるアーロイ。

アーロイだけは未だこの王城の関係者で彼を無視していなかった。


「た、頼む助けてくれ。俺を勇者に戻してくれ」

「えーっと勇者ってエルザが決まったんじゃなかったっけ?」


アーロイは鷹の目でエルザを見た。

エルザは今も尚地震で怪我をした人たちの近くをウロチョロ走り回っている。人々を助けるために。


「こんなに立派なのと君みたいなグーダラ勇者。どっちが選ばれるかは明白だよねー」


そう呟くアーロイの腰に縋り付くユシャー。


「アーロイィ。頼むよ。このままじゃ俺達明日の飯もねぇんだよ」

「俺達?」


アーロイがそう聞くとユシャーの後ろには薄汚れた女が立っていて、それを見た彼は一瞬にして思い出した。


「あー、ビルチ、だっけ」


そう呼ばれたビルチは顔を上げた。


「アイル?」

「違う。俺は兄のアーロイ」


そう言われてその場に崩れ落ちるビルチ。

その腹がぐーっと鳴った。


「もう3日も何も食べてないんだ」

「俺のゲテモノセットでも食べる?」


そう言ってアーロイは瓶を取りだした。

そこにはムカデとかあまり食べたがる人が多くない虫が詰まっていた。


「さ、流石にちょっと……」

「そう?美味いのにね。意外とね。俺食べたことないけど」


そう言ってアーロイはユシャーの口の中に瓶の中身をぶちまける。


「ほがぁっ?!!!」

「大丈夫だよ全部死んでるよ」

「ほほほんなほほん」

「何言ってるか分かんないよ」


瓶を抜いてアイテムポーチに入れるアーロイ。

反対にユシャーは口に詰められたものを吐き出す。


「アーロイィ……てめぇ……弟の復讐かよ?」

「え?そんなもん興味無いよ。ただ物欲しそうな目で見てたから口に詰めただけさ」


そんなアーロイを止めに来るビルチ。


「アーロイ、やめて」

「あ?どうして?」

「どうしてって、苦しんでるじゃない」

「苦しんでるから何?」


本当に何がいけないのか理解してなさそうな顔で聞き返すアーロイ。


「お前らも勇者法で好き勝手やってたし、俺にも好き勝手させてくれよ」


もういいやとユシャーを蹴り飛ばすアーロイ。


「ごばぁっ!」

「あーあ、虫も可哀想に。こんな汚物に吐き出されちゃってさぁ」


ユシャーの髪の毛を掴んでまた虫をねじ込んでいくアーロイ。


「ねぇ、食べてよユシャー。俺頑張って料理したんだよ?」

「ぶはぁっ!」


また吐き出すユシャーをぶん殴るアーロイ。


「人の料理吐き出すって何様?」

「りょ、料理じゃねぇだろうが、これ……」

「え?虫の死体だから料理でしょ?」

「マトモなもん出せよ……鶏とかあんだろうが……」


それが食べたいの?と聞くアーロイに頷くユシャー。


「ねぇ、ビルチ」


急にビルチに声をかけるアーロイ。


「な、なに?」

「俺の部屋来なよ」

「な、なんで?」

「なんでって、欲しいんでしょ?ご飯」


そう言うとアーロイはユシャーの髪の毛を掴んで引きずりながら王城の中の自分の部屋まで向かっていった。



「ふぅ……すっきりー。俺ちょっと性癖が特殊らしいんだよね。なんというか汚いものに突っ込みたくなるんだよ」


アーロイはストレスを発散するようにビルチを使い終えてベッド外に捨てた。


「いだっ!」

「アーロイィ……てめぇ……」


今にもアーロイに噛みつきそうな態度のユシャーだったが縄で縛られていてそれも無理だった。


「あーあ、感じは良くないねこれ。でも薄汚れた女を使ってる背徳感というかそういうのが癖になりそう」


その後またビルチの腕を掴むとベッドに上げるアーロイ。


「あーやべ。もっかいいけそう。限界超えれそう今なら」


そのままアーロイはビルチを弄ぶ。

そして数時間後やっと解放されたが既に散々遊ばれたあと。


「あーあ、飽きたわもう。今度はローソクでも用意しとくか。可愛い声で泣いて欲しいなぁ」


そんなアーロイに這って声をかけるビルチ。


「鶏くれるんだよね?」

「うん。勿論だよ。ちょっと待っててね。よく頑張ったね」


アーロイはビルチの頭を撫でてから台所へ向かった。

それからすぐに台所から焼きたての鶏を持ってきた。


「どうぞ。ゆっくり食べてね」

「あ、ありがとう」


ジワジワ泣き始めるビルチが鶏を食べ始めた。


「水だよ」


そう言ってアーロイはコップをビルチに渡す。

受け取ったビルチがユシャーを呼ぶ。


「ユシャーも食べよ。美味しいよ」

「アーロイ、早くロープを取ってくれ、腹減って死にそうなんだ」


そんな話をしだしたビルチを訳の分からない顔で見るアーロイ。


「俺は君にあげたんだよ?どうしてあのゴミの名前が出てくるの?ビルチ?」

「え?」


水を落とすビルチ。

それに怒ったアーロイがユシャーを蹴る。


「あーあ!お前のせいだよ!お前の!」

「な、何で俺なんだよ……げほっ!」

「床を汚すな!きったねぇな!口の中のものを吐くな!」


ユシャーに罵声を浴びせながら唾を吐きかけるアーロイ。


「あ、アーロイ?」


目がグルグルの渦巻きで絶望したような顔をするビルチ。


「何かな?ビルチ」

「ユシャーには?」

「何も無いよ?何であんな能無しの猿に食わせる飯があるかな?あーごめん、猿に失礼かな。ゴミでいっか」


その後にアーロイは目を細めてビルチに問いかける。

俺に見捨てられたらもう後ないでしょって。


「俺は勇者に巻き込まれた君が不憫に思えてこうしてるんだけど?俺に愛の言葉でも囁いてあのゴミ裏切ったら?そうしたら毎日食べさせてあげるから」


「簡単なことでしょ?」そう言いながらユシャーの顔を見たアーロイ、それから。

「それともあのゴミとまだ地獄に落ちる覚悟あるの?」とビルチの耳元で囁く。


ビルチが縋るような顔をしているユシャーに目をやる。


「そ、そんなことしないよな?ビルチ」

「全部あんたのせいだ……元々あんたが勝手に決闘して負けるから……」


そう言ってからビルチはアーロイに抱きついた。


「アーロイ様あなたの事を心から愛しています!」


ユシャーの顔が絶望に染まった。

反対にアーロイに熱いキスをするビルチ。


「アーロイィィ!!!!」


吠えるユシャーだったけど言葉を投げてきたのはビルチだった。


「アーロイ様になんて口きいてるの?ゴミ」


ユシャーを見る目はもう既にかつてのものでは無くなっていた。


「ひっ……お、俺はただ……な、なぁ、ビルチ2人での」


りこえようという言葉は続かなかった。


「アーロイ様あなただけを愛しております」


そう言ってアーロイにしがみつくビルチ。

絶望の顔しかしないユシャー。


逆にビルチは寝転びながら口を開く。


「アーロイ様もっと、してくれませんか?」

「そこまで言うなら仕方ないよね。ビルチはビチビチだよねー」


その後ユシャーの目の前で繰り広げられたのは地獄のような光景だった。

やがて飽きたアーロイはユシャーの髪を掴むとズルズル引きずっていく。


スキル鳳凰の目で観察しているがビルチは既に逃走する気は無いようだ。

いいオモチャが手に入ったと内心ほくそ笑む。


もう他に行き場のないあいつなら好き放題遊べるから。


「きゃ、きゃぁぁぁぁぁ!!!!アーロイ様?!何を?!」


王城の中で裸のユシャーを引きずり回すアーロイに声をかけるメイドたち。


「駄犬が散歩に連れて行って欲しいらしくてさぁ。大変だよ俺も。ねぇ、恥ずかしい姿みんなに見てもらおうね」


そう答えながら引きずり回した彼は王城の門を出たところでユシャーを離した。

そして彼の目の前に


「一応置いとくねゲテモノセット。良かったら食べてね」


その瓶の中にはまだ生きた毒虫や不快害虫が山ほど入っていた。


「美味しいよ。俺食べたことないけど。また今度感想でも教えてよ。ほんとは蠱毒こどくって儀式に使いたかったけどあげるよ」


そう言って城内に戻っていくアーロイを見送ることしか出来ないユシャー。

この時ユシャーはもう落ちる所まで落ちて、もう誰も周りにいないことを理解する。

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