第31話 勝ち筋は見えた
翌日。
俺はスライムを倒した功績者として表彰式に呼ばれていた。
正直眠くなって欠伸してたらスイレンに小突かれたけど。
そのパーティで食事をしていたら見覚えのある人物がこちらに来た。
「いい昼だねアイル」
そう話しかけてきたのはアーロイだった。
その横にいたのは目に活力を感じさせないビルチだった。
生きてるのか?こいつ。
「それ、どうしたの?」
「えー。俺のこと愛してるって言うから拾ったんだよ」
アーロイがそう言うとアーロイに抱きつくビルチ。
無言だ。
なんかもう壊れてるようにしか見えない。
「いやぁ。いい女の子拾ったわー。何しても逃げ出さないもん」
そう言って何も言わないビルチを連れていくアーロイ。
何があったんだあの二人。
俺にはもうどうでもいいけど。
その時エルザが声をかけてきた。
「おめでとうアイル。国を守ってくれてありがとう」
そう言って腰を折って礼をしてくる彼女。
「別に気にしてないよ」
そう言えばエルザが次期勇者に決まったことを思い出して俺も祝杯しておく。
「エルザこそ次勇者なんだろ?おめでとう」
「ありがとう。アイルが育ててくれたお陰だよ」
そう言って謙遜してくる。
こいつなら勇者法をめちゃくちゃに使うこともないだろうなって思える。
前の勇者はカスみたいな奴だったからな。
そんな風に色んな連中が挨拶に来る中パーティは進行していった。
イレーナ達は店の方を何とかするよと言って地震で崩れた後片付けなんかをしてくれていた。
俺もぶっちゃけ別に来たくはなかったんだけどここ。
家でイレーナ達とイチャイチャしたかったんだけど、当事者なんだから行った方がいいよと言われてしまった。
パーティもそろそろ終わりかなーって時に、王様がアーロイに声をかけていた。
ちょっと聞こえてきた話によるとセレモニーを行うらしい。
そうして始まるセレモニーはアーロイとエルザ、カノン、スイレンの勇者パーティ組の模擬戦らしい。
アーロイの強さを見せ我が王国の強さを認識してもらうためのものだそうだ。
そう言えばアーロイの戦いを見るのは久しぶりだな。
目が死んでるビルチに待っててねと声をかけて指示された場所に立つアーロイ。
それからエルザ達も距離を開けて立った。
そこに王様が来て審判をするらしいが
「開始」
次の瞬間全員地面に寝転がされていた。
即死チートでも使ったのかと思うくらいの速さ。
何も見えない。
何が起きたのかすら見えなかった。
「ま、こんなもんでしょ」
そう言ってビルチのところに戻るアーロイ。
そのアーロイが戦績を表示していた。
6,020,535勝0敗
化物かよ。シノとは桁が違う。
「しょ、勝負あり!」
ここでやっと動きだした王様。
エルザ達も色々思うところはあるだろうけど立ち上がる。
この場にいた全員が何が起きたのかを理解していなかった。
正直俺も目でも追えてないもん。
ねぇ、神様見てますか?どうして俺はあぁじゃないんですか?
まぁ言っても仕方ないか。
そう思って帰ろうとしたらまたアーロイが声をかけてきた。
「アイル。俺はそこの庭園のベンチで待ってるから、いつでも戦いたくなったら言ってくれよ」
そんなゲームキャラみたいなことを言ってベンチを指さす。
ラスボス倒した後のやり込み要素みたいなこと言うなよ。
そもそも、やり込んで勝てるとかそういうレベルじゃないんだよなこれ。
多分1番伝わりやすい表現をするなら、チェスで遊んでたのに盤面を文字通りひっくり返して「俺の勝ち」とか言われてるようなもんかな。
「パスだよ。勝てるわけないもん。クソチーター」
もう帰っていいだろうと思って家に帰ろうと思ったのだけど。
「チーター?」と首を傾げながらも声をかけてくる。
「また、俺から逃げるのか?」
チーターからは逃げますよ。
逃げるが勝ちってね。
とっととBANしてくれよとか思うけどこの世界はゲームじゃなくて現実。
そんな物はありえない。
「俺に勝てたらさ」
そう言ってアーロイは続ける。
「お前の仲間になるよアイル。俺を存分に使えよ。お前の指示は全て従おう」
まぁ、お前が俺に勝てることはないだろうがな、と続ける。
それを聞いて俺は王城を後にした。
ふーん。なるほどねぇ。
勝てばいいんだな?
ギルドに向かって俺は考える。
攻略法。
無くはないと思う。
どんなものにだって弱点くらいあるはず。
シノにあったように。あそこまで大きなものじゃなくても小さなものがあればそこを突いてやれば後はダムのように決壊する可能性もある。
リアルのチーターにだって弱くなる瞬間があったんだ。
それがいつかと言うとゲームのバージョンアップ後のチートツールの対応時間、とか。
ゲームのアップデートに合わせてチートツールもアップデートが必要らしいのだが、どうしてもその空白時間だけは奴らは普通に戦うしかなくなる。
まぁ、そもそも遊ばない奴の方が多いんだろうけど、この世界では別だ、ログアウトなんてものもないし。
そうして俺がギルドで色々と資料を漁っていたらギルマスのルーシーがやってきた。
「まさか私に会いにきてくれたの?」
「ん?」
「やはり、そうなのか。私とアイルは見えない糸で繋がっている気がしたんだ」
あー。この人あれか。
俺の事を本気で好きだと勘違いしている残念な人らしい。
吊り橋効果って凄いんだな。
そんなことを思いながら調べ物を続ける。
パッと見で覚えていたアーロイのスキルについて調べているのだが。
全部永続バフのものではなく、時間制限のあるバフだった。
「なぁ、ルーシー。アーロイの戦闘記録残ってるか?」
「アーロイの?ギルドにはないな王様にかけ合ってみよう」
そうしてしばらく待っているとルーシーがアーロイの記録を持ってきてくれた。
「ん?ここ」
「どうしたんだ?」
覗き込んでくるルーシー。
デーモンスライムとの交戦記録が途切れてる箇所があった。
23:30~23:59 撤退
翌
0:1~0:30 戦闘再開、討伐
「ここ、何故撤退しているんだろうな?あれほどの実力を持っていながら」
ルーシーも疑問に思ったらしい。
過去の交戦記録も見てみたがこの時間に戦闘記録のある日は全部ここで撤退を挟んでいるようだった。
例えそれがEランクの雑魚相手であっても1度撤退していた。
俺は思ったことを呟いてみた。
「恐らく23:59~0:1の間のどこか、又は殆どの時間で強化スキルの効果時間が切れるんだと思う」
アーロイのあの異常な戦闘能力は全て有り得ない量の自身の強化スキルによるもの。
だからスキルの効果が切れる前に奴は撤退して、また強化し直して戦闘に飛び込む。
「分かったよ。弱点。このバフが切れたタイミングだ」
ここだけは素のステータスのアーロイと戦うことが出来る。
素とは言えそれでも高レベルだから油断なんて絶対に出来ないけど。
勝ち目があるとしたらこのタイミングしかない。
これが唯一の勝筋。
「アーロイと戦うのか?」
俺は頷く。
卑怯なんて言うなよアーロイ。
対戦相手の傾向や、戦闘方法などの情報収集。
勝てるタイミングで勝負を仕掛けるなんて当たり前の話だからな。
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