第32話 対策してきた
翌日の夕方くらい。
俺は早速シノを連れ王城に来た。
シノはアーロイと特に因縁がある。
だから一応誘ってみたのだが、即着いてきた。
アーロイに話しかける。
ゲームならこの後一気に戦闘が始まるんだろうなって思う。
「アーロイ」
「おうよ」
そう言って立ち上がるアーロイは剣を抜く。
戦いに来たと思ってるのだろう。
しかし俺は場所を変える。
黙って俺が何もせず歩いているのを見て
「場所を変えようって訳か。いいよ」
そう言ってついてくる。
この間俺は特に何も喋らない。
目指すのは近くの洞窟型のダンジョン。
そこならば辺りの景観による変化で時間経過が悟られない。
その道中色々と買い物をすることにした。
その時アーロイは特に何も必要無いのか俺達から離れて立っていた。
「見てみてお兄ちゃん。こんなのあるんだけどこれ何に使うのー?」
俺に聞いてくるシノ。
シノの手に握られているのは特殊用途のゴムだった。
そんなものまで売ってんのかよ。ここの店は。
「それは大人になったら分かるから必要になるものでシノには必要ありません」
「は〜い」
シノが必要なものを書い始める。
その時
「あ、アイル!!!」
後ろで俺を呼ぶ声がした。
そちらに目をやると、どこかで見覚えのあるボロ布をまとった男がいた。
ユシャーだった。
ついにボロ布1枚を身に着けるとこまで落ちたらしい。
そして声をかけているのは俺ではなくアーロイだった。
「た、助けてくれアイル。悪かった。全部謝る。助けてくれぇ。もう5日くらい虫しか食べてないんだ。奢ってくれぇ」
そうしてアーロイに土下座し始めるユシャー。
「俺はアーロイの方だけど?それよりゲテモノセットまさか食べたの?笑うー」
そう聞き返すアーロイに気付いたユシャーが顔を上げた。
「お、お前のせいだ。お前のせいで全部失った!返せ!ビルチを返せ!」
殴りかかろうとしたユシャーが次の瞬間地面に倒れていた。
何が起きたのかは相変わらず分からない。
「あいつが言ったろう?俺を愛してるって。俺達愛し合っちゃってるみたいだからさぁ、残念だねぇ。あれはもう俺の可愛いペットだからさぁ。壊れるまで愛してやるよ?」
「おえぇぇぇ……」
そうやって吐き始めるユシャーの顔を軽く足でつついて告げるアーロイ。
ほんと3人の間に何が起きたのかは全く分からない。
さて、買い物を終えて俺はシノの手を繋いで歩いていく。
「お兄ちゃん?私これでもSランクなんですけど?」
聞いてくるシノ。
「迷子にならないようにさ」
「ならないもん!」
そんな会話をしながら俺はアーロイを連れて洞窟までやってきた。
「俺が使えるかどうかを先に見たいって訳だろ?いいぜ」
そう言って突き進んでいくアーロイ。
アーロイはランク問わずに向かってきたモンスターを目にも見えない速さで蹴散らしていく。
やがて向かっても簡単に倒されると分かったモンスターはついにアーロイを脅えた目で見つめることしか出来なくなっていた。
「臆病だなお前ら」
そう言いながら特に手は出さずに進んでいくアーロイ。
その時スライムが出てきた。
俺たちの前を横切ろうとしているらしい。
「アーロイ待って」
シノがそんなスライムに何故か近寄って抱き抱えた。
「この子怪我してる。痛くて震えてるんだよ」
「だから?」
アーロイは剣を抜いた。
プルプルと震えるスライム。
感情なんてないはずだしスライムという生物の特性で震えてるだけだと思うけど。
「怪我してるなら楽にしてやろうよ。それを地面に置きなシノ。一瞬で殺るから苦しくはないよ」
アーロイに剣を向けられるシノ。
「や、やめて。この子が可哀想」
「モンスターに可哀想も何も無いよ」
「こ、この子だけは」
庇うようにスライムを自分の背中に隠すシノ。
正直アーロイの言う通りだし。
俺のレベリングシステム見たらシノは何を思うのかな。
まぁいいや。シノは12歳で多感な時期なのだろう。
「アーロイ、この1匹だけは見逃してやってくれないか?」
俺からも頼んでおこう。
「何故?モンスターに慈悲などいらないだろう?」
そう口にしてシノに近づいて行くアーロイ。
俺はそれとなくギルドカードで時間を確認した。
23:56。
もう少しでアーロイのバフが切れる時間だな。
念の為もう少し時間を稼ぎたいが。
「待てよ。アーロイ」
シノとアーロイの間に立つとそんな俺をアーロイは呆れたような目で見て口を開いた。
「何のつもりだ?ダンジョン攻略だろうがよ。退けよアイル。さっさとそのスライムを始末して先に進もうよ」
鬱陶しいものを見るような目で俺を見てくる。
「これは神に愛された人間の言葉だよアイル。まさかそんな俺、神のような存在の俺に歯向かうのか?」
そう言って髪をクシャッと握って笑うアーロイ。
「おいおい、お前まさか俺に勝てるとでも思ってんのかよ。触れることすら出来ないのにまさか。そんなお前がさ」
冒険者なら分かるよな?と聞いてくるアーロイ。
俺は冒険者じゃないから分からないんだけどな。
と内心思いながら続きを待つ。
あらかじめガッツを99回分重ねがけしてる。一応もう戦えるが。
「決闘で白黒付けようぜアイル。勝った奴がえらい。俺達の中にあるのはそれだけだろう?」
そう聞いてくるアーロイ。
次の瞬間。
【アイルのガッツが発動しました。体力1で持ちこたえます】
アイル
体力:1/155
マックス状態だった体力が一撃でここまで削られた。
ほんとに化け物だな。
余りの攻撃力に後ろに弾き飛ばされて、ノックバックする。
その距離が出来た間にひたすらガッツを使い続ける。
こいつの攻撃でノックバックが発生することも考えての上で戦略を組み立ててきている。
この世界では余りにも攻撃力が高いとノックバックが確実に発生する。
こいつはそれを知らないのかずっと殴り続けてくる。
攻撃なんて避けれないからひたすら壁を背にしないように動く。
ノックバック距離を無駄にできないから。
【アイルのガッツが発動しました。体力1で持ちこたえます】
体力1で耐え続ける。
見えない。
動きが速すぎて何が起きてるのか見えない。
1人だけ生きてる世界が違うんだよなこいつ。
【アイルのガッツが発動しました。体力1で持ちこたえます】
【アイルのガッツが発動しました。体力1で持ちこたえます】
100回ほどガッツを使わされた時だった。
急にアーロイの姿が目で見えるようになる。
目の前に出たウィンドウ。
【強化スキルの効果時間が終了しました。アーロイにかかっていたバフが全て消滅します】
来た。
待ち望んでいた瞬間が。
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