第24話 【勇者視点】崩壊の始まり
sideユシャー
決闘の翌日。
ユシャーがアイルに負けたことは直ぐに王国中の知ることとなった。
人から人への噂話それは国王だろうがどんな偉い人だろうと止められない。
この件に関することの話を禁じれば止められたかも知れないけれど誰もこの結末を予想していなかった。
きっと、この結末を予想出来ていたとしたらアイル達だけで。
そんな敗北者ユシャーは国の貴族達が集まる会議の場に呼び出されていた。
始まった瞬間ダン!と机を叩いて叫び出すのは髭を蓄えた男だった。
「どうなっておられるのですか!国王!ユシャーが!我らが誇るユシャーがただの民間人に負けたなど!本当の話なのですか!!!」
「本当だ。もう誤魔化しが効かない」
答えるのは王というには若すぎると思われる男だった。
その返答を受け更に続ける男。
「それに最近は勇者パーティ候補が王城での練習を放棄していると聞きます!これでは国民に示しが!」
「ユシャーから勇者の称号を剥奪することを決定した」
王様がただ静かにユシャーの顔を見てそう答える。
反応したのはユシャー。
「お、お待ちください!王!僕はまだまだ!」
「まだまだ、なんだ?」
静かに言い放たれた一言。
それは音量の小ささの割にユシャーの行動を制限するのに十分なものだった。
「まさか、あのような失態を晒してまだ自分にチャンスがあるとでも思っているのか?」
そう告げると王は騎士団団長に指示を出すとユシャーの胸から勇者の証を取り外す。
こうすることで勇者にかかっていた、勇者の加護バフもなくなる。
崩れ落ちるユシャー。
「おい、誰かあの汚物を叩き出せ。目障りだ。神聖なる王城の床を踏ませるな」
「はっ!お任せを!」
反応したのは騎士団団長。
彼はユシャーの横まで行くと駄々をこねるユシャーの髪を掴み扉の外へ向かう。
「ユシャー。貴様には候補生からやり直してもらうが、もう二度と勇者パーティには入れぬと思うことだな」
叩き出される直前ユシャーを見ていた王の目は何よりも冷たいものだった。
そうして会議室を叩き出されたユシャーはいつもの癖で訓練場に顔を出しに行ったのだが、そこには今日は珍しくいつものように候補生が集まっていた。
「お、おいお前ら、珍しいな今日はサボりじゃないのか」
ユシャーがそう声をかけても誰も返事をしない。
声は小さくなかった。十分に聞こえるはずだった声。
でもユシャーは聞こえていないんだと思い込む。
「ねぇ、聞いた?街に美味しいクレープ屋さんが出来たんだって」
「えー、そうなんだー」
そんな会話をする女の子たちに更に声をかけるユシャー。
「な、なぁお前ら今日はここで訓練するの?」
やっとユシャーの顔を見る候補生だったけどその顔は厳しいものだった。
「だとしたらどうなの?」
「いやー。真面目になったなぁと思ってさ」
「俺も練習するぞー」と腕を回し始めたユシャーをクスクス笑う候補生達。
「練習してどうするんだろー」
「そうだよねー。もう一般人に負けた人に次のチャンスなんて回ってくるわけないのに」
「しかもあの勝ったアイルさんって人Eランク冒険者らしいよ」
「えー?!本当に?!Eランクに負けるなんて弱すぎじゃない?!うちの勇者」
「ははっ。言えてるー」
クスクス明らかにユシャーを馬鹿にしたトーンで話していく候補生達。
「それと、他の子から聞いたんだけどあのアイルって人経験値屋さんやってるんだって!なんか寝てるだけで強くなれるらしいよ!」
「えー?!ほんとにー?すごいね!それ。私も行ってみよっかなー」
「もう予約制になっちゃったらしいよ。しかもすごい自由な人らしくていつお店空いてるかも分かんないんだって」
「えー、憧れちゃうなー客商売なのにそんなにフリーダムな人。すてきー♡」
「ね。自分の扱ってるものに相当な自信が無いと出来ないよねー。私も予約して行ってみよっかなー」
そんな会話を初めてもう誰もユシャーの事を見ていなかった。
この場にいないように扱っていた。
「お、おい」
声をかけてみたユシャーだけど最早誰も反応しなくなっていた。
「ねぇ、さっきからなんか男の幽霊がいるのかなぁ?変な声聞こえるなー。しかも、おいってなに?」
「ね。気持ち悪いよね。おい、だなんて口悪すぎよねー。後で城の人に相談してみようかなー。幽霊がいまーすって」
そんな事を言われるまでになっていた。
そして話題は変わって
「そういえばあそこにいるエルザさんっているよね?候補生の」
「候補生テストに受かった人だよね?実力で候補生になった人だから尊敬しちゃうな〜」
「あの人アイルって人に育てられたらしいよ!すごいよね!アイルさんって人。勇者候補を育てちゃうなんて!」
「もう次の勇者はエルザさんで決まりって程頭抜けてるよねーあの人」
「うんうん。私も今のうちにエルザさんと仲良くなっとこーかなー。もしかしたら
そんな会話を聞いてユシャーは1人剣を振っているエルザに近づいて行く。
「な、なぁエルザ」
「何だ?」
エルザがユシャーに目を向けた。
「良かったら俺も練習に混ぜてくれないか?」
「悪いが私は1人でやる方が捗るのでな」
そう言って剣を収めてエルザは鬱陶しそうな目でユシャーを見ると場所を変えてしまった。
「な、何なんだよ……」
その場に崩れ落ちるユシャー。
いつか、アイルがやったように地面を拳で叩く。
「なんなんだよ!なんなんだよ!俺は元勇者だぞ!それでこんな扱いってなんだよ!」
その後もユシャーは他の候補生に話しかけてみたがこの場所には誰もユシャーの相手をしてくれる人は残っていなかった。
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