第25話 勇者パーティの他のメンバー?俺の店にいるけど

決闘の翌日はだるかっ……いや、疲れたので休みにした。

2日後から営業を再開したわけだけど俺が店の前で掃除をしていると街の人達が声をかけてくる。


「よう!経験値屋の兄ちゃん!俺は信じてたぜ!今度うちの娘も鍛えてくれや!」


そういう風に声をかけて俺に挨拶していく人が増えた。

始めはとっとと田舎に帰れと言われていたのにこの変わりようである。


まぁ中にはまだいるけどさ。


「経験値の売り買いなど信じられんな。経験値など自分で稼ぐのが当たり前だろう」


と頭カチカチな人もいるけど。

まぁもう、気にしない。


俺はこれでもお金払って「はい最強です」みたいなゲームそんなに好きじゃなかったし。

気持ちは分かる。


でもさ、こうやって自分の命削って戦うような世界だと自分だけ強いのも気持ちいいんだよね。


まぁ、俺は別に強くないんだけど。

そんな事を考えながら掃除してると声をかけられた。


「よーっす経験値屋さん」

「やめなさいな、そういう言葉遣いは」


そっちに目をやると元気そうな女の子と上品そうなという言葉が似合いそうな女の人が立っていた。


服装はあれだ。着物だった。上品っぽい。

この世界で着物着てる人初めて見た。

しかも日傘まで完備。


「りょーかいっす!姉御」

「姉御という言葉もやめなさい」


また2人で会話をしている。

そんな様子を見ていたら元気そうな方が自己紹介を始めた。


「勇者パーティのカノンでーっす」

「何の用?この前の件?」


俺がユシャーに勝利した件でビルチのように文句でも言いに来たのかな?


「違うよー。あの何だっけ?名前忘れたけど、あの勇者はパーティ外されたから。関係ないよー」

「ユシャーですよ。あの愚か者の名前くらいは覚えてなさい」


注意した方の女の人が俺に目を向けて自己紹介をしてきた。


「私はスイレンと申します。以後よろしくお願いします」


そう頭を下げてくる女の人。


「以後?」

「うん。私達今日からここで弟子入りしようかなーってきたの」


そう答えてくれるカノン。

弟子なんて取ってないんだけど経験値を買いに来るということだろうか?


「そうです。アイル殿の下で我々は訓練をしようかと思いまして、ね」

「ユシャーはほんと意味無い練習ばっかやらせるもんねー。あんなの効率悪すぎるよー。あいつ馬鹿だよねー。練習中もきもい目で見てくるしキモイよあれ」


そう口にするカノンはどんどん不満を零していく。


やはりユシャーの奴の訓練はあまり効率のいいものではなかったらしい。

まぁ、たしかに効率面で言うなら俺から経験値を買う以上に効率いいものないと思うけど。


「まぁ、経験値が欲しいなら上がんなよ。手続きするよ」



そうして俺は2人に望んでいただけの経験値を突っ込む。


「うわー、すごい!なにこれー!何もしてないのにレベルが上がったー!わーい」


喜ぶカノン。

初めの印象通り健気な子らしい。


ジョブは盗賊らしいけど。

盗賊と言うともっとクールなイメージなんどけど真反対の性格だ。

それからスイレンに目をやると


「ほんとにすごいですわね。これ、私達が今までやってきたものは何なのかと問いたくなるほどの効率ですわね」


と、こっちも静かに驚いていた。

実際驚くだろうなぁ。


経験値と言えば実際に戦ってもぎ取るのが一般的だから。

その過程を無視して何もしてないで経験値が手に入るのなんて普通はおかしいからね。


「スイレン、お金持ってる?」

「あなたまさか持ってきてないの?」


聞かれて「うん!奢ってもらおうと思って!」と答えてスイレンに頭を叩かれるカノン。


スイレンが2人分の代金を支払ってきた。


「これで足りますか?アイル殿」

「うん。足りるよ」


そう答えると立ち上がる2人。


店を出ようとしていたので俺は扉を押し開けてやる。

その時カノンは音符でも頭に浮かべそうな軽やかさで出ていくが。


スイレンは俺を見て口を開いた。


「アイル殿は同行も受け付けていると聞きましたが」

「あ、うん。受け付けるけど」

「近々依頼をするかもしれません」


どんな依頼なのだろうか。あんま難しい依頼だと俺は役に立たないよと伝えたけど。


「まぁ可能性の話です。それからアイル殿がユシャーを倒した件は既に王都中に知れ渡っています。そんな実力者のアイル殿の下にこれからどんどん客が集まるかと。この大きさではどうなのでしょう」


これはあれかな?

店をもっとでかくした方がいいとかそういう事が言いたいのかな?


「ご希望でしたら私がもっと立派は店舗をご用意しましょうか?」

「うーん。用意されてもなぁ。そんなにいっぱい対応出来ないしな現状」


経験値を売るためにはまず俺のパーティに一時的に入ってもらう必要があるし、俺の経験値シェアも一応人数制限があるから大きくしても対応出来ないんだよな。


そんな事を思っていたら勘違いしていた。


「先の言葉はお忘れを、アイル殿。一人一人に丁寧な接客を心がけておられるのですね。このお店が人気が出るのも分かりました。あなたのその素晴らしい人柄に皆さん惹かれるのでしょうね」


盛大な勘違いをしている。

別にそんなつもりじゃなくて俺のスキルの関係上なんだけど。


「では、また来ますよ」


そう言ってスイレンは上品な態度を崩さずに店を出ていく。

凄い人だなぁ、そんなことを思っていたら


「ちょっとスイレン、カノン!何であんた達こんなところに来てるのよ!」


と、聞き覚えのあるビルチの声が聞こえてきた。


もう知らない人だけど殴りこまれても困るので様子だけ見るために外に出たらカノン達が対応してくれていた。


「ユシャーが勇者の称号剥奪されたのに!何でこんなところに来てるの!今大変なんだけど?」


そう口にするビルチに普通に答えるカノン。


「何でって言われても私は勇者の事なんてどうでもいいし。別に私は勇者パーティ下ろされてないし」


カノンは興味無さそうにそう答える。


「な、何言ってるのよ!スイレンあなたも何か言いなさいよ!仲間でしょ?!」

「仲間?勝手に仲間にしないで欲しいのですけどね。そう言えばあなたはよく幼なじみの婚約者が故郷にいるって言ってましたわよね?」


共同で訓練を始めた頃は毎日のようにその事で話しかけてきて一緒に手紙の内容も考えていたのに、いつからか勇者の事しか見なくなったことを不思議に思っていたことを話すスイレン。


「その幼なじみの事アイルって言ってましたけどこのアイル殿の事、ですか?そうならば私はもう知りませんよ」


あっさりと仲間だった二人に切り捨てられるビルチ、


「直ぐに裏切るあなたの仲間にしないで欲しいんですが。それと、もう話しかけないで貰えますか?あなた方もう終わりですよ?分かってますか?」


スイレンがビルチを見下ろす。

威圧的な目をしていた。


「そうだよねー。私ももうあなた達のことどうでもいいからしーらない」


そう言ってばいばーいとカノンはスイレンの手を引いて去っていく。

それを見てビルチも


「ま、待ちなさいよ!」


二人を追いかけて行った。

勇者とビルチがつまみ出されるのももう時間の問題だな。


あの様子じゃもう味方なんていないんだろうな。

そう思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る