第28話 多分違うと思うんですけど


「以上が私からの報告ですわ、王様」


そう言って1歩下がってお辞儀するスイレン。

雇い主の言葉もあって俺は王城まで同行していた。


まさかこんなところに来るなんて思ってもいなかったな。

にしても王様もどうしてこんな俺が城に入るのを許したのかというところだが。


「君がアイルか?」


そんなことを考えていたら俺に目を向けてくる王様。


「うん」


答えるとシノとカノンの表情が凍った。

何言ってんだこいつ、みたいな顔で見られていた。


ちなみにカノンの奴はスイレンにお前は口を開くなとこの部屋に入る前に言われていた。


「アイル殿。うん、ではありません」


隣のスイレンに小突かれたけど


「すまない王様。話し方が分かんないんだ。ほら俺田舎者だから」


とりあえず悪意はないということと謝罪はしておいた。

そうしたら豪快に笑う王様。


「はーはっはっは。いや、構わん構わん。こちらこそすまなかったな。うちの勇者が迷惑をかけたようだ」


そう言って王様は立ち上がると、俺に土下座してきた。


「勇者の件は本当にすまなかったと思ってる。お前の大事な婚約者を奪ったことも後から聞いたよ」

「いや、もう別にいいよあんなの」


もう気にしてないことだ。

イレーナが居てくれたからもうどうだっていい。


「それよりあんたが土下座するってヤバいんじゃないのか?俺ただの一般人だし顔を上げてくれよ」


そう言ってみると床に着けていた顔を上げる王様。

そうして玉座に座り直した。


「ただいまこの国に迫っているデーモンスライムの件だが、スイレンの報告では3日後、との話だったな?あのモンスターがどこから現れたのかは分からんが」

「はい。そうでございます」


直立不動でそう答えるスイレン。

着物ではあるがいつも持ち歩いている日傘はどこかへしまったようだ。


デーモンスライム。

俺が生み出して無視していた悲しきモンスターだがそれは俺とイレーナしか知らない。


俺に目を向けてくる王様。


「倒せる算段はあるのか?聞くところによると君の村ではあれが出てから君が撃退していたようだが」


今回、アーロイは使わないと言う話は既に聞いてある。


「撃退するだけなら大砲とかで奴をノックバックさせればいいけど。討伐となると大魔術を使うしかないだろうね」


俺が奴を数年に渡り撃退出来たのは大砲で奴の位置を強制的に後ろに下げていたから。

でもそれも最後の方には効き目があまりよく無くなっていた。


それを討伐するとなると魔法使いを何人も集めて全員で巨大な魔法を使うしかなくなる。


あれはもう経験値どうこうで何とかなるモンスターじゃい。

弱いやつは弱い奴なりに力を集めて倒す必要がある。


「大魔術だと?!そんなもの今から練習出来るものではないだろう?!」

「そうだ。大魔術は古の技術。現代では失われている!」


今まで黙っていた貴族達が口を開き始めた。


「黙りなよ。じゃあ何か代案でもあるの?文句を言うなら代案出してみなよ」


その全てをそれで黙らせた。

分かってて言った。代案なんて出てこない。


無理だろうが何だろうが強力な魔法を使うしかない。

王様に目を向ける。


「何か別の案が出たらギルマスにでも伝えておいてくれ。俺は俺でギルマスと色々相談してみる」




そうして俺はギルドに戻ってルーシーと相談する。


「……というものを奴の通り道に作りたいんだが出来るだろうか?」


俺はルーシーに凹←こんな感じの砦をデーモンスライムの通り道に作れないかと提案した。


「人を集めるが出来るだろうけど、こんなもの作ってどうするつもり?」

「ちょっとでもあれの体力を削りたいなと思ってさ」


仮に大魔術が成功しなかった時の保険も兼ねてある。

詳しい機能も付けられるように補足説明。


「下と両側の壁から火が出るようにするんだ。そうすれば奴はこの迫り来る火の中を勝手に歩いて体力が削れるし、兵士をこの上に立たせれば一方的に攻撃することもできる」


そう説明する。


「そうか。上に冒険者を立たせれば奴の攻撃は届かず一方的に安全に攻撃できるというわけか!」


そういうことだ。

俺が頷くと早速ルーシーは各場所に連絡を取り俺の説明したものを作り上げるように指示を出していく。


魔法を使えばこんなものの作成も別に難しくない。


「だがどうやって奴を誘導するのだ?」


そう聞いてくるので答える。


「誘導の必要も無い。俺はずっとあいつを見てきたけど真っ直ぐ目的地に向かうだけだから本当に進行方向上に設置すればいい」


俺はその辺の紙に簡単な地図を書いて、前回現れた奴の位置と王都まで一直線に線を引く。


更に前回奴の現れた場所をマークしてそこも結ぶ。

見事な一直線。


「このラインだ。ここに作ってくれたらいい」

「な!一直線が出来た!すごい分かりやすい説明だ!ま、まさかここに来る前は軍師でもやっていたのか?名のある軍師だったの?」


そんな訳ないじゃん。

そう思いながらルーシーに説明してく。


「この地図の通りにこのラインで作ってくれたらいい」

「地図?」


首を傾げるルーシー。

その様子を見て思い出す。


そうか。この世界地図がなかったなたしか。


「こうやって上から見た時とか何処に何があるかを示したものを地図と言うんだ」


すごいざっくりした説明をするけど理解してくれたらしい。


「なるほど!これが地図なのか!後で王様に知らせておこう!これは素晴らしい発見だぞ!アイル!」


そんなことを言ってるルーシー。


「すごいな。アイルの作戦は!今度宮廷軍師になれるよう王様に推薦しておこう」


その時。

グラグラっと。地面が揺れた。


デーモンスライムの奴が地面でも殴ったのだろうか?

そう思いながらもどんどんガタガタ揺れているのが酷くなる。


「なっ!何だこれ!地面が揺れてるぞ!」

「きゃー!!!なんなのこれぇぇ!!!」

「揺れてるぞ!!!!た、立ってられない!ひぃぃぃ!!!」


ギルド内にいた人たちはみんなどうしていいのか分からないらしい。


俺はそんなギルド内全員に聞こえるように机に身を隠すように指示を出す。

みんな入ったのを見てルーシーの手を掴んで俺も机の下に避難した。


あの店も揺れてるだろうけどイレーナが対処法を知ってるしみんなを守ってくれてるはずだ。


数分後。地震が止んだ。ギルド内は物が沢山落ちていたがそれで怪我した人はいなかったようだ。


「ふぅ……」


ルーシーの手を引いて机から出てきた。


「な、何なのだ?今のは」


聞いてくるルーシーに答える。


「地震だよ」

「地震?」


また不思議な顔をされた。そうか。前の世界でも外国じゃ地震なんて起きなかったらしいしこの世界でも同じような感じなのかもしれないな。

俺は地震についてルーシーに説明。


「アイルは物知りなのだな」


そう言って顔を赤くする彼女。

そのルーシーは俺の右手を取って自分の胸に押し付けた。


「さっきアイルに手を握られてからドキドキが止まらない。これの正体も知っているのか?私は分かるよ。恋なんだこれは。知ってたかな?」


トロンとした目で見てくるルーシー。

それは多分、地震で緊張しているのを俺への恋だと思い込む吊り橋効果だと思います。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る