第3話 俺なら大丈夫だから王都でも頑張って


神託の儀式が行われたあの日から7年が経過した。


俺はあれから1人でずっとスライムを狩り尽くしていた。


レベルが上がると攻撃力も上がりやがてワンパンで倒せるようになり、効率がかなり上がった。


その討伐数はなんと14万を超えた。

一般的な冒険者は100匹いくかいかないかくらいだ。

なんとその差は1400倍だ。


俺のレベルは30を超えた。


小耳に挟んだけどディーザ達のレベルは未だ20とからしい。この世界ではレベルが上がれば上がるほどモンスターが強くなりレベル上げの効率が下がるらしい。


大変だな他の人は。俺はスライムを倒せばコツコツ上がるから苦労が分からない。

その一方


「おめでとう!ビルチーー!!」

「おめでとう!!俺達も鼻が高いよ!!!」


ビルチは王都に招かれていた。

勇者パーティ候補として。


そんなビルチを村の人達が祝っていた。

彼女は今日王都に向かって出発する。


ビルチが俺のところに走ってきた。


「じゃあ私行くねアイル」

「うん。行ってきなよ」

「ね、ねぇ、アイル。私約束忘れてないよ。結婚しようね」


笑顔を向けてくるビルチに答えようとしたら


「おいおいおい!何をいい気になってやがる!」


ディーザが声をかけてきた。

俺に目を向けてくるディーザ。


「ハズレスキルのゴミ野郎が。ビルチに相応しいのは俺だ」


そう言ってきて更に続ける。

どうやら喧嘩を吹っかけたいらしい。


「決闘しろアイル。俺もビルチが好きなんだよ」


ディーザの言葉に両手で口を抑えるビルチ。

そんなビルチをディーザが見つめる。


決闘か。

俺のレベルは30を超える、対してディーザのレベルは20ちょいくらい。基本的にレベルが10開いてれば低レベルが高レベルに勝てる道理はない。


もっとも強化スキルなどがない前提だが。

今回は俺もディーザもスキルはない。


「俺が勝てば俺とデートして欲しい」


そんな言葉には何も答えないビルチ。

そのままディーザは剣を構えた。


「ほら!やるぞ!アイル!」


俺はナイフを構えた。


「お前、そんな小さいナイフでどうするつもりだよ?俺は剣持ってんだぞ?」

「これで十分と言ってるのが分からないのか?」


そうやって挑発してやると思った通りディーザが挑発に乗ってくる。


ちなみにナイフを選んだ本当の理由は剣は重いし結局ナイフが1番使いやすいなってなっただけだから。


軽い武器の方がいいじゃん?


「てめぇ、殺すぞ」


いきなりしかけてきたディーザ。

大振りの剣だ。


俺は元々ガチガチに戦うつもりは無い。


ディーザが剣を振り下ろした際に生じた隙。それを見逃さず一気に距離を詰める。

まずは攻撃を誘う。


空振らせてからの反撃。戦いのセオリーだと思う。


「な、なに?!」


カァン!!!!!!!

俺はディーザの手を蹴りつけて握っていた剣を離させるとそのまま


「どうするよ?こっから」


握っていたナイフをディーザの首筋に突きつける。


「まだ勝ち目がある、とでも思ってるのか?」


そう言ってやると


「お、俺の負けだ」


そう言って倒れ込むディーザ。

かつての俺のように地面を叩きつける。


「な、何で俺がこんなハズレスキル持ちのゴミに負けるんだよぉぉぉぉ!!!!!俺はずっとステップアップしてきた!スライムの次はゴブリンを倒した!!!」


そう叫んで俺を見てくるディーザ。

歯をギリギリと噛んで俺を見てくる。


「それが何でこんなスライムしか倒してないゴミに負けるんだよ!!!!」


そんな言葉に答えたのは俺でなくビルチだった。


「そうやって下に見てるから足元掬われたんじゃないの?私は知ってるよ。見てたもん、アイルが誰よりも努力してるところ。例え弱いスキル持ってても」


そう言って彼女はもうディーザなんて目に入らないというように俺を見てきた。


「もう、私が居なくても大丈夫そうだね。約束。絶対結婚しようね」


ビルチは俺に手を出してきた。小指を立てて。


「うん。将来は結婚しよう」


俺とビルチは小指を絡ませて約束する。


「約束だからね。私頑張るから」


そう言ってビルチは王都からの迎えの馬車に乗り込んだ。

それと入れ替わるように


「ご苦労だったな聖女イレーナ」


そう呼ばれた少女が場所から降りてきた。

誰だ?あの子。


全く知らない子だ。

そう思っていたら王都から馬車を走らせてきた男が説明する。


「彼女は聖女イレーナです」


そう紹介してから、王都の訓練について行けず心身を壊してしまいここで療養することになった、と説明する男。


そう説明すると男は馬車を走らせていく。


とぼとぼと歩いていくイレーナという少女。

やっぱりキツイんだろうなぁ、王都の訓練は。


こんなふうについていけなくなる人も出るくらい大変なんだな。王都での修行って、そう思いながら俺はイレーナに近寄る。


ビルチが俺にやってきてくれたように


「大丈夫?」


そう声をかけたら


「だ、れ?」

「俺はアイル。住む場所は決まってるの?」


首を横に振る少女。

どうやらこれから探すらしいけど。


「俺が探してあげようか?」

「い、いいの?」

「勿論。困ってる人がいたら助けるよ」

「じゃ、じゃあお願いしようかな」


そう答えてくれたイレーナの手を握って俺はビルチの両親にお願いにいった。

この子を住ませてあげられないかなって。


流石ビルチの親とも言うべきかな。

二つ返事でいいよと答えてくれた。


そんな彼女を連れて少し村を案内することにしたのだが


「ね、ねぇ。どうして私に優しくしてくれるの?」

「誰かに優しくするのに理由なんているかな?」


そう答えてあげるとイレーナは顔を背けた。

一瞬見えた表情は照れてるような寂しそうなようなそんな複雑な顔だった。


そんな彼女を連れて歩いてると


「い、イレーナさんだよね?」


村の子供達が声をかけてきた。

子供と言っても俺と同じくらいだけど。


「スキルって何?やっぱ強いの?王都から来たもんね」


そうやって声をかけられて彼女はつぶやくように答えた。


「私のスキルは【エンカウント倍加】だよ。だから要らないって言われて追放されてきたの」


エンカウント倍加。敵とのエンカウントを増やすスキルだろうか?

その言葉を聞いた子供たちは


「あ、そうなんだ。この村の生活楽しんでね、あははー」


そう言って直ぐに離れていった。

残されたのは俺とイレーナだけだった。


そのまま座り込むイレーナ。


「あはは、もう故郷にも帰れないよ。私が王都に行ったら家族皆消えちゃってさ。帰る場所なんてなくなっちゃったんだ」


そう呟くイレーナの横に座り込んだ。


「あなたも早く離れたら?優しくしないで欲しいんだ。胸が痛いの。分かるよね私のスキルゴミだよ」

「いや、いいスキルじゃないか」


そう言うと


「皮肉?」


と返してくるイレーナ。


「いや、多分俺のスキルと相性バッチリなんだよね」


そう答えて俺は顔を上げたイリーナの顔を見た。


「だからさ。俯いてないで一緒に使い道探そうよ」


そう言ってイリーナの手を握ると彼女は顔を赤くした。


「どうしたの?」

「そ、その手繋いでるから……」

「それがどうしたの?」


ビルチはずっとこうやって俺の横に寄り添っててくれた。

だから真似をしてるんだけど。


「う、うん。あなたの役に立てるかもなら、私を試してみて欲しい。でもきっと、ゴミスキルって言うと思う」


そう口にするイレーナを連れて俺はいつもの草原に向かうことにする。

あの草原は俺しか使わない。


ここは俺の庭になっていた。

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