第21話 勇者が喧嘩売りに来ました


「ふぁーあ」


イレーナがまだ眠っている中、欠伸しながら寝室を出て今日もオープンしようと思って扉を開けたら、目の前にとんでもない光景があった。


「っ?!」

「アイルさん!会いに来ました!」

「アイル様今日もお願いします!」


昨日の勇者パーティの候補を含めて10人くらいの女の子が押し寄せてきていた。

まだ開店前だぞ?


開店前から並んでたのか?

と思ったらそうらしい。


じゃないとこんな出合い頭で挨拶なんて無理だろうし。


「経験値くださーい」

「私もー」


そんなことを言ってくる女の子たちだけど一斉には無理だな。


「レベル60まででいいかな?それと全員一斉に、は無理だなぁ」


俺がそう聞くと頷く女の子たち。

5人ずつ対応することにした。


「そうだ。うち、温泉あるんだけどどう?待ってる間暇だけどどう?」


そう説明してみたけど温泉?という反応だったので案内することにする。

そうか。この王都じゃたしか一般的なものじゃなかったよなー。


イレーナも初めは分かってなかったっぽいし。


「なにこれー?すごーい」


女の子の質問に答える。


「これが温泉だよ」


俺の前世で暮らしてた時に住んでた場所にあったものだ。


「これなにー?飲むのー?」

「違うんだよ。浸かるんだよ」


そう言って俺は浸かり方を説明した。

そうするとワラワラ女の子たちが脱衣所に向かった。


俺が店の中に戻って大丈夫そうか聞き耳を立てていると


「温泉ってきもちー」

「すごいねーこれ」

「アイルさんが考えたのかなー?!あの人ほんとすごい!発明の天才だよ!」


そんな声が聞こえてきた。

ちゃんと入れてるようで良かった。


経験値が全部溜まればレベリングメンバーを変えるから出てきてくれとは頼んであるので俺はそのまま店の中で待つことにした。


表の看板は現在対応中!みたいな事を書いて放置してあるので客が入ってくることは無いだろう。

まぁ、それでも入ってくるような客は予約くらいしてやるけど。


しかし王城での訓練はどうなってるんだろうな?

勇者パーティの訓練ってのは王家からの指示みたいなのがあるって聞いたけど。


俺のところに来て勝手にレベル上げてって良いのだろうか?


「まぁいいや。俺は金貰えてるしな」


そう思いながら俺は待つことにした。



やがて今日ここに来た全員のレベリングも終わり彼女たちはホクホクの笑顔で温泉から出てきた。

偉く長く居座られたけどまぁその分だけ金は貰ってるし良しとしよう。


「さて、そろろそ閉めるからみんな出てねー」

「えーー。もっとアイルさんとお話したいー」


そんなことを言っている女の子たちを「はいはい」と外に出るのを促す。

その時


「おいおい、練習サボってどっかいってるんじゃねぇよ」


何処かで聞き覚えのある声が聞こえた。

そちらに目をやると勇者パーティの勇者であるユシャーが立っていた。


立っているとはいえ杖を付いてだけど。


恐らくあの化け物スライムにやられたのだろう。全身が残念なことになっている。

そんな勇者が俺に目を向けてきた。


「あれ、誰かと思えば雑魚君じゃん」


女の子達は勇者には逆らえないの渋々ユシャーの近くによっていく。

そう言われて俺は聞き返す。


「あの夜はゆっくり眠れたかな?」

「なっ……てめ……知ってて黙ってたよな?あれ!」


さぁ?俺は何も知らないよ、と肩を竦めて答える。


「あれから大変だったんだぞ、こっちは!」

「知らないよ」


半笑いでそう答えてやる。

俺にとってはユシャーがどうなろうとどうだっていいし。


「見ろよ!これ!宮廷のヒーラーとかに回復させたからまだマシだが。俺ら2人は全身の骨折れてたんだぞ?!内蔵もいくつか潰れてたんだよ」

「へー。そうなんだー、おめでとうございます」


そう返しておく。

俺には一切関係ないしやったの俺じゃないし。


そもそも話なんて半分くらいしか聞いてない。


「んな事よりお前のせいでこの女共が練習サボるようになったんだよ!どうしてくれんだよ!」


言いがかりを付けてくるユシャー。

俺になんて答えて欲しいんだろう。


「俺知らないよ?俺からは別に何もしてないし。俺のせいって言われても」


身に覚えがないとしか答えようなくない?

それよりも俺は思うことがあるので言ってみる。


「そのサボりたくなる練習より俺のとこに来た方が強くなれるって思うからサボるんじゃないの?その練習内容見直したら?」


どうせ意味の無い無駄な練習ばかりしてるんだろうと付け加えてやるとユシャーは顔を真っ赤にした。


「お、おまえいい加減にしろよ」


ギリギリと歯を食いしばるユシャー。

それから杖を捨てて俺に掴みかかってくる。


「俺たちの練習を馬鹿にする気か?!」


そこで女の子たちがユシャーを止めに来てくれた。

だがユシャーの怒りは収まらないようで


「俺はお前に決闘を申し込むぞ。クズのゴミスキル持ちが!」


そう言ってどこからか紙を取りだしてペンで何か書き始めた。

そうして


「ほらよ!果たし状だ!」


そうやって女の子に紙を持たせたユシャー。

女の子が俺まで紙を届けてくれた。


その紙には果たし状と書いてあった。


「明日、王城へ来い。勇者法知ってるよな?!勇者の言うことには従えよゴミスキル」


俺のステータスだ、と言って自分のステータスを表示するユシャー。


「震えて眠れよゴミスキル。明日からお前の居場所はない。来なかったら勇者権限で貴様の店を潰す。お前が負けても貴様の店を潰すからな」


そう言って去っていくユシャー。

女の子達もついて行ってしまった。


名前:ユシャー

ジョブ:勇者

スキル:勇者の加護

スキル詳細:常時ステータス1.5倍


レベル:70

攻撃力:65

防御力:60

素早さ:60

魔力:60



名前:アイル

レベル:81

攻撃力:80

防御力:79

素早さ:82

魔力:76


「勝てるか?これ」


うーん。普通にやれば勝てるビジョンが見えないなこれ。


助けてイレーナ。

大変なことになっちゃったよー。

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