第8話 【勇者視点】こんなもの聞いてない

sideビルチ


ビルチ達はダダンナに話しかけていた。


「お父さーん?私この人と結婚するー」

「ダダンナ。僕ユシャーはこの人を幸せにするよ。あなた達のような貧乏人の庶民には出来なかったような生活を送らせてあげるよ」

「きゃー、ユシャーーーすてきーーーー!!!!」


そう名乗ったユシャーとビルチの会話をダダンナは聞いていなかった。

力が出ず体を震わせてその場に四つん這いになってしまった。


「ビルチ。お前何をしているんだ……なんて事を……してくれてるんだ」


ダダンナが訊ねる。


「え?結婚の報告ですけどー?」

「ど、どうしてくれてるんだ?!この村は終わりだ!お前のせいでだ!」


ダダンナは立ち上がってビルチにつかみかかった。

しかし


「いくら親父さんと言えどその態度は許せないね?僕の婚約者に何をしてる?」


その手をユシャーが掴んでいた。


「知らないわけないよね?勇者法。勇者パーティに手を出すのは許されないことなんだ」


そう語るユシャーの事なんて無視してダダンナは距離をとると村人全員に声をかけにいった。


「すまない!みんなアイルが出ていってしまった!この村は終わりだー!!!!もう!あの化け物を止められる人間はいない!!」


そうやってダダンナが駆け回りながら叫ぶと家の中から次第に人がでてきた。

その中にはかつてアイルを馬鹿にしていた者もいた。


「ほ、ほんとかよ!出て行っちまったのかよあいつ!どうすんだよこの村!!!」

「まじで終わりじゃねぇか!王都に避難しないと!!!」


そんな会話をして皆して王都に逃げようとしているのをポカーンと見つめるしか出来ないユシャー達。


そしてその中にはかつてビルチをアイルと奪い合ったディーザの姿もあった。

ディーザはビルチに気付くと近寄ってきて


「お前ほんとにアイルの奴裏切ったのかよ」

「当然でしょ?あんな経験値1なんてバカみたいなスキル持ったやつよりユシャーの方がいいもん」


そう言ってユシャーの腕に抱きつくビルチを見て恐ろしいものを見たような顔をするディーザ。


「も、もう終わりだこの村は……お前たちのせいだ。お前たちのせいで今日村が一つ消える」

「先程から化け物と言ってるがこの村に出るのはスライムとゴブリンくらいだろう?君たちはそんなものにすら勝てないのかね」


鼻で笑うユシャーだったがディーザはそんな言葉聞いていないかのような返事をする。


「も、もう終わりなんだよ。あんたらはあの化け物の恐ろしさを何も理解しちゃいない」


ひぃぃぃぃぃ!!!!!


そう叫んであのディーザすらも王都へ逃げようとし始める。


それをやはり黙って見ることしかできないユシャー達。


「どけ!俺が先に出るんだよ!」

「ばかやろーこっちには子供がいるんだよ!先に行かせてくれ!」

「ぱぱぁぁぁぁぁ!!!!!こわいよぉぉぉぉ!!!!食べられちゃうよォぉぉぉぉ!!!!!」


ひとつしかない門を全員で奪い合っている。


「まぁいいか!もうこんな村終わりだ!」

「そうだな!柵ももう要らねぇよな!」


その時何人かの村人が村を囲っていた柵を壊した。

もうここに戻ってくる気が0だからできる事だった。


「みんなこれで通れるぞ!もうこんなやべぇ村とはお別れだー!!!」


そう言って出ていってしまい、この村に残ったのは勇者パーティのユシャーとビルチだけになった。


「み、みんな行っちゃったね」

「あ、あぁ。みんな頭がどうかしてるんだろう」


ほんとにポツーンと残された2人。

ユシャーが口を開く。


「王様には今晩はとりあえず泊まると言ってるしとりあえず泊まっていくことにしようか」

「うん。そうだね。食材とかも全部残していったっぽいし。今日は振舞っちゃうよ!」

「ははは、これは美味しいそうだなー」


そんな会話をしながら2人はダダンナの家に入っていく。



そうして時間が流れて夜。


「そろそろ寝ようよユシャー」

「今日も可愛がってやるからなー」


そんな会話をする2人だったがその時、


ズシーン。ズシーン。

何か巨大なものが歩いているような音がした。


「な、何?今の音」

「た、ただの風だろ?」


そう言った2人だったがその足音はどんどんこっちに向かってきているようだった。

ズシーン!ズシーン!ズシーン!


近くなる足音にユシャーは外に出た。


「な、何者だ!姿を現……せ」


ズシーン!ズシーン!ズシーン!

そいつはユシャーの目の前にいた。


ユシャーは地面を見ているのではなく空を見ていた。


「な、何だこの化け物は……」


そう呟いた時、ビルチも家から出てきた。


「な、何なのよこれ……」


そこにいたのはムニョムニョした巨人だった。


「す、ステータスオープン!!!!」


ユシャーは正体を確認するために目前の敵のステータスを見た。


名前:怨念に支配されしデーモンスライム

レベル:235

全長:20メートル

タイプ:無属性


詳細:

これは1匹の野生のスライムから始まった。自動レベリングシステムにより無限に倒され続ける仲間を見てスライムは悲しくなり仲間を取り込み始めた。


人間への復讐心が芽生えた。


「ぼくたちはただ、はねているだけなのに、なんでこんなことするの」

スライム達は長い年月をかけて融合を果たした。

その一撃は山を砕き。

ワイバーンを虫のように叩き落とし、ハエのようにドラゴンを叩き潰す。

1匹のスライムは復讐を誓う悲しき化け物になっていた。



そのスライムの巨人が腕を振りかぶる。


「お、おい!どうすんだよこれ!!!何だよ!レベル235って!」

「ユシャー!!何とかしてよ!!!!」

「む、無理だろこれ!!!!ば、バリア!!!!」


前方に貼ったバリアも虚しく、パリパリパリン!!!!

無慈悲にも一瞬で粉々に砕け散ったバリア。


「ごはっ!」

「ぐえっ!!!」


その巨大な拳は2人をまとめてぶん殴るとユシャー達は全身の骨を砕かれながら、内臓を潰されながら何処かへと吹き飛ばされた。

ズシーン。ズシーン。ズシーン。


「フクシュウ」


そう呟いてスライムはその姿を森へと消していった。

その後勇者達は行方不明になり死んだものとして扱われることになった。

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