第7話 信じて5年待ったのにあんまりだ


更に5年が経過した俺の年齢は17になっていた。

イレーナも共に17。


この日勇者パーティが俺達の村に来ると言う話を聞いた。

そこでビルチのことを思い出した。


彼女は過酷な王都での練習を耐え抜いて無事に勇者パーティに選ばれていたらしい。


でもここ数年で手紙が全然届かなくなったんだよな。多分勇者パーティでの練習がキツくて書けなくて、とかだとは思うんだけど。

俺からはたまに手紙を出していたけど一向に返事が来なかった。


この世界では16になれば結婚出来る年齢だ。

つまり俺はもう結婚出来るんだけど。


ビルチ覚えててくれてるかなぁ?とか思いながら待っていたら


「アイル!来たよビルチが!帰ってきたよ!ビルチが!」


そう言って呼んでくれるダダンナさん。

俺はイレーナを連れて外に出た。


玄関を少し歩いたところにビルチは立っていた。


「ただいま父さん」


なんか子供っぽさが抜けて大人な感じになっていた。

そして俺に目を向けるビルチ。


「えーっと、誰?」


5年もあれば顔も変わるかな?って思って名乗る。


「アイルだよ。結構雰囲気変わったね」


そう言ってやるとビルチは興味なさそうな顔でとんでもないことを口に出した。


「あー?経験値1固定の雑魚だっけ?」


俺は言葉に詰まる。

それはダダンナさんも一緒だった。


「な、お前!何を言ってるんだ!」


ビルチを叱り付けるダダンナさん。

それに対して笑いながら口を開くビルチ。


「え?本当のことじゃん。今どき経験値1固定って笑っちゃうよね。なに?1固定って笑わせにきてる?」


クスクス笑うビルチ。

それに対して怒るのはイレーナだった。


「な、何言ってんのよあんた!アイルに謝ってよ!」

「謝る?何を?」

「み、見てわかんないの?明らかに傷ついてるじゃない!」


そう言ってくれるイレーナを見てふふふと笑うビルチ。


「あははは。本当のこと言ってるだけなのに、私が悪いみたいだね?」


俺はイレーナの手を掴んでもうやめさせる。


「もういいよイレーナ」

「で、でも」


そう言ってるイレーナを見てからビルチに目を戻した。

アイテムポーチから紙を取り出してきていた。


俺の送った手紙だった。

それを朗読してからびりびりと笑いながらバラバラに千切っていた。


「だいたい分かんないかなぁ?1年経つ頃くらいに手紙返さなくなったの見て察せないのかなぁ?もうどうでもいいんだよね、あんたのこと」


そう言ってきて俺はその場に膝を着いてしまった。


吐きそうだ。

それでも何とか返事をする。


「どうでもいい?」

「そう。どうでも良かったよ。気持ち悪いんだよね。キモイ手紙ばっか寄こしてきて。もう気がないの分からないのかなぁ?」


悔しさに奥歯を噛み締める。

その時足音が聞こえて見上げると


「ビルチ。まだ挨拶してるのか?」


金髪の勇者が立っていた。


「ダーリン。見てー、この男が経験値1の雑魚だよー」


そう言って俺を見下ろしてくる勇者。

名前は確かユシャー。


「はっ。君がビルチの言う経験値1固定の悲しい男かな?僕の彼女にキモイ手紙を送り付けるのはやめてくれるかな?」


はっ。そういうことだったのか。

どうやら俺の気持ちは一方通行だったらしい。


「それと、ここで一旦痛い目を見てもらおうかな。二度と僕のビルチに手を出さないようにね!」


俺を殴ってくる勇者。


勇者法というものがあって俺は勇者には手を出せない。

手を出しても勝てるかは分からないけど。


「おらぁ!おらぁ!しねぇ!」


勇者に殴って蹴られた。

やがて飽きたのか俺から離れていったのを見て立ち上がる。

俺はイレーナの手を取った。


「アイル?」

「もういい」


それから先にダダンナさんに頭を下げる。


「お世話になったね。もう行くよ」

「あ、アイル?」


俺を呼び止めたいのか知らないけど俺はイレーナの手を引っ張って歩いていく。

もういいよこんな村。

後ろからは


「きゃはっ!見てダーリン雑魚が逃げちゃったー。ダーリンのパンチが効いてるー」

「やめないかビルチ。泣いてしまうだろう彼が。あれでもエンカウント倍加とかいうごみスキル女の前で見栄を貼りたいんだろう」

「きゃー。ダーリン優しい」


そんなロクでもない会話が後ろから聞こえる中俺は村を後にした。



村を出た俺はとりあえず王都に向かった。


イレーナとはそろそろ王都に行ってみようという話をしていた。

だから丁度いいと言えば丁度いいんだけど。


「イレーナ。言いたいことがある」


王都に入って俺はイレーナの顔を見て両肩に手を置いた。

彼女の顔を真正面から見る。


「ど、どうしたの?アイル」

「あんな事があった後じゃ、乗り換えって思われるかもしれないけどさ」


俺は彼女の顔を前から見て言う。


「君のことが好きなんだ。イレーナ」

「え?」


俺はイレーナに自分の気持ちを伝えた。

本当は気付いてたんだ。


ビルチあれを思う気持ちのどこかに毎日毎日イレーナが少しずつ入り込んでくることに。


「俺はイレーナとこれからも一緒にいたいと思ってるよ」


彼女は俯いた。

あれ、怒った?


まぁそりゃそうだよ。

状況だけ見たら乗り換えだもん。


忘れてくれって言おうとしたけど


「う、嬉しい!私も好きだったもんアイルのこと!」


ギューっ。

そう言って俺の首に手を回して抱きついてくるイレーナ。


「イ、イレーナ?」

「私はずっとアイルの事が好きだったもん。アイルには悪いけどあんな事言われてたの、見て私にもチャンス来たかもって思っちゃった」


そう言って俺から抱きつくのをやめて


「ねぇ、忘れられない日にしていいかな?」


そう言われたと思ったらイレーナの顔が迫ってきた。


そうしてその短く小さな交わりが終わったあと、イレーナは話題を変えるように俺達の村の方に目をやった。


「私たちいなくて大丈夫かな?あの人たち。結局最後まで撃退しか出来なかったよね、あれ」

「知らないよ。もうどうでもいいし。臭い物には蓋しとこうよ。俺はもう忘れることにするよ、あの化け物のこと」


俺はあいつらに伝えていないことがある。

あの村には夜の数時間とんでもない化け物が出ることを。


まぁいいか。


あんな奴らもう知らない人達だし。


願うことがあるとすればダダンナさん達があの村を無事に脱出してることだけだ。


俺はあんなのが出てもビルチのためと思って命を貼った。でも、もういいや。


あの村はもう終わりだ。


今日あの村は地図から消える。

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