第9話 初日のお客さんは?
翌日。
俺はボロい家を買い取った。
そしてとりあえずの表札を設置した。
「よし、こんなものでいいかな」
「わー、すごーい!私たちお店開いちゃったね!」
俺はイレーナと共に店を開いた。
何を売ってるかってこの世界じゃ他の誰も扱っていない商品。
それは……
───経験値だ。
この店の奥にスライム自動討伐装置を小型化して置いてある。
スライムの化け物が生まれる対策もキッチリしてある。
同じスライムを残らせ続けない。
定期的に見に行ってスライムを全部討伐するようにしている。
「俺たちだから売れる物だって思わない?」
「だよねー。こんなもの他の誰も売ってないもんね」
次にイレーナと看板を作り始める。
小さな表札だけじゃ最低限だしなぁ。
どんな店か分かりやすいように看板を作る。
「やっぱりー、かっこいいアイルが看板にいた方がいいと思うなー」
そう言って看板に俺の顔を書き始めるイレーナ。
「それは論外だろ。俺は分かるんだよ。イレーナの顔の方がいいよ。女の子目当てに男が寄ってくるかもしれない」
女の子の多い店には男が寄ってきて金を落としてくれる。
それは何処の世界でも共通の法則だ。
男の性とでも言うべきか。
「えー?やだよー。私はアイルのものなのに」
そう反対してくるイレーナ。
仕方ない。
しばらく考えたがやっぱりシンプルが1番だよね、ということで。
「どりゃっ!」
適当に完成させた看板をヤケクソ気味に表に立てておく。
書いた内容はこんなものだ。
あなたもお金を払って強くなろう!
時代は、|P2W(ペイトゥウィン)。
努力なんてものは過去のものになりました。
賢い人達はお金を払って強くなりましょう!
オープン価格。経験値2000で銅貨10!
お金払ったら後自由にしてて下さい。
安い!
ちなみに銅貨10は3食分食えるか食えないかくらいだ。
経験値2000は並の冒険者なら2日モンスターを狩って集めれるかな?くらいだから安いけど。
「えー、アイルの顔描きたかったー」
俺の横に来てそんなことを言い出すイレーナ。
しばらく外に立って声をかけてみるけど
「なぁ?あれなに?」
「経験値?同行しますよってことかね?」
「あんな弱そうな奴らに誰が頼むんだよ、な」
俺たちのことを見る街の人々の目は厳しかった。
まぁそれもそうか。
俺たちはここに来て日が浅いし顔も知られてない。
何より
「くすくす、見てよあのみすぼらしい姿」
「田舎から出てきたばっかって感じ」
俺たちのことを見る目は厳しかった。
これが都会らしい。
「もう帰る!」
バタン。
泣きそうな顔をしたイレーナが店の中に入ってしまった。
とは言え俺も流石にちょっと来るものがあるので中に入ることにした。
「チェスやろうよチェス」
「うん」
遊んでる場合なの?とか言われると思ったけどチェスをやるらしい。
ちなみに遊び方なんて知らない。
「アイルの駒を撃破!」
イレーナが手に持った駒で俺の駒を弾き飛ばす。
やっぱり絶対遊び方違うと思うんだよなぁ。
そうして遊んでいると日が暮れた。
結局誰も来なかった。
「そう言えば営業時間って何時から何時なの?」
「俺かイレーナが起きて寝るまで」
「自由すぎない?!」
「朝っぱらから来るやついないだろうしこんなもんでいいよ」
そんなことを言ってイレーナを食事に誘う。
「ご飯食べに行こうよ」
「う、うん」
結局初日は0人だったな。
適当に酒場で食事を済ませてから店に戻って表札をクローズに変えて寝室に向かう。
「ふぁ〜ねむねむ〜」
横でイレーナが眠そうな顔をしていた。
「先に寝てるね」
彼女はそのまま先に寝室に入って寝に行った。
それから最後の店じまいをしようとした時
バキャッ!
背後で扉が壊れた。
「え?な、何で扉が?」
振り向くと少女が中に吹っ飛ばされたような感じで尻もちを着いていた。
その先、通路に男達がいた。
「お前を追放するルゼル。お前のスキル【強制激怒】が弱すぎるからだ。お前のスキル敵を怒らせて仲間をピンチにすることしか、できねぇもんな?流石に俺らEランクパーティでもいらねぇよ」
「ま、マサトシ!ま、待ってくださ……」
少女が声をはりあげたけどそれも虚しくマサトシと呼ばれた奴らは口を開く。
「あ、このボロッチィ変な店の扉壊したのお前だからな?弁償しとけよ?ギャハハハ。迷惑しかかけれねぇよなぁ?お前」
マサトシ達は笑いながら歩いていってしまった。
少女はお腹を抑えて蹲る。
「う、うぐ……ど、どうして……私がこんなことに……蹴るなんて酷いです……」
俺もどうして早速自分の店の扉が破られてるのか気になるし理不尽に感じるよ。
これでも別に安くなかったんだよ?この店。
それでも
「だ、大丈夫?」
ルゼルと呼ばれた少女に声をかける。
「ひっく……ご、ごめんなさい、扉弁償しますから……」
そう言って彼女はアイテムポーチに手を伸ばしたけど、偶然見えた金銭事情。
所持アイテム
金貨:-20
銀貨:0
銅貨:0
あ、あのマイナスってなんですか?
「ご、ごめんなさい。は、働いて返しますから」
「働くところあるの?」
「な、ないですから探します」
「ステータス見せてくれる?」
名前:ルゼル
レベル:5
スキル:強制激怒
スキル詳細:敵を任意のタイミングで激怒させる。
ちなみに激怒状態のモンスターの火力は1.2倍になる
これ、ほんとにどこか貰ってくれるところあるのか?
その時
「ね、ねぇ。何か音がしたけど大丈……なんか扉壊れてるんだけど」
イレーナがこの惨状を見に来た。
丁度いい。
どうせ俺達の商品は在庫無限だし。
宣伝料だと思おう。
「ルゼル?俺が今から君を戦えるようにするよ。それで依頼受けて来てくれない?」
「た、戦えるようにするって、どうするんですか?」
「なに、ちょっと寝てもらうだけさ。とりあえず今パーティ勧誘したから受けてくれない?」
俺はルゼルにパーティ勧誘を送った。
直ぐに受理される。
【ルゼルがパーティに加入しました】
その後顔を赤くするルゼル。
「ね、寝るだけって、か、体で払えってことですか?」
恥ずかしそうな顔をするルゼル。
何を勘違いしてるんだろう。
「で、でも仕方ないですよね。私扉壊しちゃいましたしそんなことでいいなら」
そう言って俺の目を見てくるルゼル。
「や、優しくしてくださいませんか?私初めてで」
「何を言ってるの?」
そう言ってしゃがみこむと俺は配布用のチラシを見せつけた。
「経験値を君に突っ込むって言ってんの」
「あ、あっちの経験値ですよね?わ、分かりますよ?」
経験値にあっちもそっちもないだろ。と思いながら俺はルゼルの手を引いてイレーナにも同行してもらう。
どうやら初日から投資になりそうだ。
回収出来るといいけどなぁ。
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