第13話 ほら、俺の言うこと聞かないから


そんな日々が続いて今日無事にユイ達はDランク昇格試験を受けてきたらしい。


「受かったよ!アイルさん!アイルさんのお陰だよ!」

「ん、私も受かった」


キラキラした目でそう報告してくる2人に俺は頷く。


「俺のおかげじゃないよ。2人とも頑張ってたからその成果だよ」


そう言ってみるが俺は未だに冒険者ランクEの男だ。


何だか娘の成長を見守る親みたいだが俺は最低ランクのEランクだ。


そう、Eランクなのだ。


でもそんなEランクの俺に2人はキャーキャー言って集まってくるし嬉しさを報告してくるのをやめない。


「私たち絶対この後Sランクまで行ってみせるから!」

「ん、私も。アイル先生の名前広げる」


と、意気込みを語ってくれる2人。てかアサの言う先生って何だよ。

俺はいつ先生になったんだよ。


そんなことを思っていたら2人は今思い出したようにトボトボと歩いてきたトシゾウに目を向けた。


「トシゾウはどうだっ……」


ユイの開きかけた口を遮るように口を開いたトシゾウ。


「落ちたよ!!」


怒鳴るトシゾウ。

そりゃそうだ。


こいつは結局1人で素振りして変な癖を付けたまま試験に挑んだんだもん。

ゴブリンすら満足に倒せないまま試験に挑んだ。


そして、落ちた。

残念ながら当然の結果だ。


上に向かって唾吐いても自分に帰ってくるだけ。


「お前のせいだ!」


そのトシゾウが俺に掴みかかってくる。


「お前が俺たちの間に入ってきたからだ!お前が入らなかったら俺も合格できてたんだ!」


よく分からん理屈をまくし立ててくる。

そんなトシゾウを止めたのはユイだった。


「みっともない真似はやめてくれますか?トシゾウ」


冷たい目でトシゾウを見つめるユイ。

そのまま彼女は言葉を続けていく。


「トシゾウにもアイルさんは優しくしようとしてたよね?それを全部断ったのトシゾウだよね?」

「う、うぐぅ……」


全部本当の話で何も言えないらしいトシゾウ。


「剣の握り方。あれじゃダメだってずっと言ってたよアイルさん。なのに直そうとせずにずっと勝手に変な癖付けてそのまま試験に挑んだもんね」

「な、何だよ俺たち幼なじみだろ?その言い方はないだろ?」


ユイはとうとうウンザリしたような顔をトシゾウに向けた。


「あのね。アサとは相談してた事なんだけど、これを機にパーティ抜けてくれない?トシゾウ」

「な、何でなんだよ!」

「1人だけ言うこと聞かないし協調性がないからだよ」


そう言われていたトシゾウ。


「私たちこれからDランクのクエストどんどん受けていくつもりだしトシゾウじゃきっとついてこれないんじゃないかな?」

「お、俺だって」


何?と聞き返すユイの言葉に何も返せないトシゾウ。

無理もないだろう。


ユイが言ってるのは全部正論なんだから。


1人だけ全く言うことを聞かずにめちゃくちゃな事をしていたからこうなるのも仕方ない話だ。


まぁ俺は変に揉め事起こしたくないし何も言わないけど。


「な、なぁ。ユイ」


トシゾウがユイに声をかけた。


「俺はお前のことが好きだったんだよ。なのにお前はずっとそいつにベッタリで。だからムカついたんだよ」

「だから?」


無慈悲に返すユイの目にもう慈悲とかっていう概念は無くなっていた。


「そんな事でアイルさんのアドバイス無視してたの?信じらんないよ。ただの嫉妬だよね?バイバイ、トシゾウ」


そう言って俺に目を向けてくるユイ。

トシゾウに向けてた無慈悲な顔とは打って変わっていた。


「今日はどんなこと教えてくれるんですか?アイルさん」


俺に向ける笑顔はいつものものになっていた。

さらばトシゾウ。


元気でな。

そう思いながら俺はユイに答える。


「俺から教えられることはこれで全部だよ。俺もしょせんEランクさ。後はもうクエストを進めながら覚えていく、とか考えていくとかになるんじゃない?」


真面目な話でそう返してみたがユイは違うよと口にしてからモジモジと言ってきた。


「そ、そのアイルさんのこと教えてもらいたいなんてなぁ、ってこと考えてたんですけど」


顔を赤くして俺を覗いてくる。

それに続いてアサも反対側から俺の顔を見てきて


「ん、私も教えて欲しいかも」


なんてことを言い出す。

その時だった。


「うぉぉぉぉぉぉ!!!!!死ねぇぇぇぇぇ!!!!!」


背後からトシゾウの声が聞こえ振り向く。

剣を上に掲げて俺に迫ってきていたが。


「だから言ったんだよ。その握り方じゃダメだって」


そうぼそりっと呟いて俺はトシゾウの剣を避けて、トン。

と、首筋に手刀を入れる。


「あがっ」


バタリと倒れるトシゾウ。

俺はユイに目を向けた。


まさか武器を持って襲ってくると思わなかった。


「こいつもうギルドに突き出していい?」


そろそろ放置しておくのも本格的に不味くなってきたな。

別に実害がないなら、と放置しておいたけどさ。


「いいよ」

「ん、いいよ」


ユイとアサに許可を貰ったので適当な部位を掴んで俺は引きずってトシゾウをギルドに連れていくことにした。


ギルドはこういう奴らの対応なんかもやってくれる。


そうしてギルドにトシゾウをギルドに預けた俺は何故かユイ達とデートすることになった。


はぁ……イレーナがいるんだけどな。俺には。

そんなことを思いながらデートに勤しむのであった。


【ユイのレベルが上がりました。レベル20】

【アサのレベルが上がりました。レベル20】

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