第14話 Aランクが来るようになった
ユイ達がDランクに昇格してから俺たちの事を見る街の人の目は変わった。
外に出て掃除をしていると
「お、やってるじゃないか経験値屋」
「朝から店の前を掃除するなんて偉いな経験値屋!」
「経験値屋!差し入れ持ってきたぞ!頑張れよ!」
なんて声をかけられるようになった。
「掃除してたら誰か入ってきてくれるかもなーなんて思ったりするからさ」
そんな感じに答えておく。
実際これで人が来るのかどうかは知らないけどホコリだらけよりはマシだろうって思う。
街の人達は俺たちを経験値屋と呼ぶようになっていた。
俺の渡す経験値は確かに本物だったからだろう。
客足もそこそこ来るようにはなってくれた。
ちなみにユイ達でオープン価格は終わった。
ちょっと高くしてあるけどそれでもダラダラと人が来る。
そしてユイ達は
「また来たよー。アイルさーん」
ほぼ毎日来てくれる常連になっていた。
「アイルさん経験値くださーい」
「いいけど、そんなに買ってお金無くならないの?」
「うん。無くならないよ、それ以上に報酬貰えますから」
えっへんと胸を張るユイ。
話を聞くともうCランクまで上がれたらしい。
「ていうかバトル行くのがめんどくさいんだもーん」
まぁ気持ちはわかるよ正直。
俺はユイに適当に経験値をあげて報酬を貰って見送る。
「またねー。アイルさん。今度はデートしてね」
「あの子アイルとデートするために来てるよね」
俺に話しかけてくるのはイレーナ。
「有り金全部ホストに使っちゃうタイプの子なのかなぁ?」
そんなことを聞いてくるイレーナ。
知らないよ、そんなの。だいたい俺ホストじゃないし。
「あー、次きた時の為にホストみたいな見た目にしとく?そしたらあの子自分のやってる事分かるかもね」
ふふふって笑うイレーナ。
そんな馬鹿な話をしていた時だった。
ガチャりとまた扉が開いた。
中に入ってきたのは赤髪の女性だった。
20ちょいくらいの年齢だろうか?
多分俺よりいってる。
「経験値屋というのはここでいいのだろうか?噂で聞いたのだが」
そう聞いてくる赤髪の大人っぽいお姉さん。
「そうだけど」
そう答えると彼女はギルドカードを見せてきて自己紹介を始める。
「Aランク冒険者のエルザ。経験値を買いに来たのだが。クエストの同行なども受け付けているだろうか?」
そう聞いてくる彼女。
「悪いけど同行は別料金だよ」
ギルマスのルーシーに一応同行の許可はとってあるので同行も受けられるようになった。
「経験値25万とAランクのクエスト同行で金貨5で足りるかな?」
破格の値段を出てきた彼女。
金貨5もあれば1ヶ月贅沢して食える額だ。
それを数日俺を使うだけでくれると言う。
「それなら経験値50万でもいいけど」
「そうか。なら50万で頼む」
俺はいつも通りエルザと名乗った人に経験値を送る。
レベル51から54までレベルアップしたようだ。
「すごいな。ほんとにレベルアップしている。このレベル帯だと数年かかりそうな上がり幅だけど」
そう口にする彼女。
「じゃ、クエスト同行するよ。とは言え俺もレベル80くらいで何のスキルもないから期待しないで欲しいんだけどさ」
そう言いながらエルザの横に立つと
「80も?!そんなにレベルが高いのか?」
と聞かれるけど
「多分エルザと戦ったら負けるよ」
と返しておく。
俺はジョブを設定していない。
ジョブを設定すると基礎バフがかかったりするんだけど俺は無い。
だからバフの差で負けるはずだ。
低レベルの内はレベル差や戦術で何とかなったりするけど数字がデカくなればなるほどバフの差は覆せないものになっていく。
設定してない理由はこんなふうに同行を求められた時に頼まれたジョブを少しでもやりやすくする為。
「ちなみにそこにいるイレーナはエンカウントを増やせるんだけどレア素材集めたりは?レベルは80だよ」
エンカウントスキルは基本的には敵を増やすだけで足を引っ張るだけなんだけど、レアモンスターとのエンカウントを増やしたい時にはぶっ壊れスキルとなる。
「一応同行してもらおうか。何か必要なものが出るかもしれないし」
そう答えるエルザ。
俺はイレーナを呼び付けて3人で出かけることにする。
ルゼルは留守番だ。
そうしてやってきたAランクダンジョン。
火山に出来たダンジョンらしい。
「最近新しく出来たダンジョンなんだ。未攻略のダンジョン」
と説明してくるエルザに頷いてとりあえず近場の壁に石で傷を付けておく。
するとエルザが不思議そうな顔で聞いてくる。
「何をしてるんだ?」
「え?俺なんか変なことやった?」
無意識にやったけどやったらダメなのかな?
もしかして引っ掻いたら爆発する岩とかなのか?
俺ダンジョン初めてだからわかんない。
「変だな。誰もそんなことやらないけど何故?」
「こうして傷を入れておくと自分達が通ったかどうかの確認ができるし帰り道もこれ辿れば帰れるだろ?」
そう説明すると、納得したようにポンと右手で左の手の平を叩くエルザ。
「なるほど。頭いいなアイルは。素晴らしい行動だな。今度から私もしよう」
この世界の冒険者はそんなことすらしないのかよ?!
そりゃ冒険に出た俺の両親も行方不明になるよなぁ?!
少しの頭の痛さを覚えながら俺達はエルザを先頭にダンジョンを進んでいく、するとちょっと進んだところで冒険者パーティに出会った。
そこにいたのは
「あれ、君はAランク冒険者のエルザ、だったよね?残り2人は最近話題の経験値屋かな?」
そう声をかけてくる女の子。
流れるような金髪を肩で切り揃えた女の子だった。
「私はシノ、12歳。Sランクパーティの冒険者なんだけど。こんなところで出会えるなんてね。経験値屋には会ってみたかったんだよね」
そう言って微笑んでいた。
Sランクパーティ【彼岸花】と自身のパーティについても紹介していた。
それから俺を見てくる。
「他人に経験値を与えられる君。本人はどれだけレベルが高いんだろうね?」
まるで試してみたいと言いたいようなそんな目をしていた。
それにしてもSランクも俺のこと知ってるんだな。
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