第34話
アーロイは王城へ帰っていった。
俺はと言うと久々に思える自宅に戻ろうとしていたのだがその道中
「だ、誰かお恵みを……だ、だれかぁ……」
いつか見たボロ布だけを身につけた、元勇者のユシャーが道で物乞いをしていた。
めちゃくちゃやせ細っていて髪の毛も沢山抜けたようで、頭は大変なことになっていた。
変な因縁つけられても面倒だしその道を避けて通る。
誰も恵んでないしもうそろそろ死ぬだろうなあれ。
死んだら野犬か何かが適当に片付けるはずだ。
まぁあいつの自業自得だよね。
好き勝手やってたらしいし。
俺はしーらね。
クローズ表示の店に入った。
「ただいまー」
イレーナのおかえりなさーいを期待していたのに聞こえた声は全く知らないものだった。
そこにいたのは白いドレスに身を包んだ綺麗な女の人だった。
その女の人が口を開いた。
「お邪魔しておりますわアイル様」
「誰?あんた」
そう聞くととんでもない顔をするイレーナとルゼル。
ニナだけは首を傾げていたけど。
「申し遅れましたわね。隣国、エルガルド王国の勇者パーティの聖女を担当しております。王女のアリシアと申します」
そう言って頭を下げる彼女。
出たよ。また王だの、王女だのか。
「で?何の用?俺今から人には言えない生活を再開しようと思って帰ってきたんだけど」
「そうでしたのね。アーロイ様をお倒しになられて流石にお疲れですか?」
そう言われて分かった。
この前の視線はこの人の偵察か何かなんだろうな。
「こちらをご覧下さい」
そう言ってアリシアは手紙を渡してきた。
中を開けてみると、俺の活躍は隣国まで届いており是非助力願えないかということだった。
ちなみにこっちの国では国宝級の扱いをされているらしいが、王様には既にお金を渡す約束をしていて連れていく許可は取ってあるとのこと。
というより国家間のバランスが崩れると不満を抱かれるから王様的には行ってこいとの話らしい。
俺いつの間に国宝級の存在になっちゃったわけよ。
ただここで女の子とイチャイチャしてるだけで国宝級になったのかよ。
経験値1固定のゴミスキルのくせにすげぇなこれ。
それより気になったのが
「本当にそれだけなのか?国家間のバランス。それだけの理由で俺を呼び出すのか?違うよね?」
なんか変だ。
別にバランス程度がどうのこうのと言うくらいならちょっと人を送れば済みそうなもんだが。
俺がそう聞いてみたら驚いたような顔をするアリシア。
「流石ですね。鋭い洞察力です」
そう言ってくる。
「ではアイル様にだけは少しお話しましょうか」
そう言って彼女はとんでもないことを口にする。
「エルフとの戦争が起きそうなのです。その時のために力を付けておきたい、というのが人間側の考えなのです。これはこちらの国の王様とも話し合って決めたことなのです」
俺たち人間とエルフの仲は正直良くない。
何故かと言うと俺たち人間がエルフを奴隷としていたりするからだ。
別に奴隷じゃないエルフもいたり、人間の奴隷もいたりするが。
そういう訳であまり関係は良くない。
正直いつ戦争が起きてもおかしくない、というのが現状だったりする。
「条件がある。俺は戦争には参加しない。それでいいなら向かうよそっちの国に」
命のやり取りとか面倒だからね。
そう言って答えるとアリシアが頷いた。
「分かりました。ではとりあえず王城に挨拶に向かいましょうか。アイル様のような要人は王様に許可を取らないといけないみたいで」
そう言ってアリシアは俺を連れて王城に向かう。
俺が庭園に入った瞬間ありえない物が目に入った。
それは
「アーロイ。しょせん、貴様はその程度なのだな」
「……」
顔から大量の汗を流して四つん這いになっているアーロイの姿だった。
そしてそんなアーロイに槍を向ける短髪の男。
この状況から読み取れることはあのアーロイが短髪に負けた、ということ。
「久しぶりに会ったが大した事の無い奴だなアーロイ。対策1つでここまで弱体化するとは」
「てめぇ……」
ゆらりと立ち上がって手を伸ばすアーロイだがその速度は遅かった。
「貴様の圧倒的戦闘能力は大量の自己強化スキルによるもの。それを封じてしまえばこんなにも弱いとはな」
ガッカリだ。
そう言って男はアーロイの手を掴んでいた。
「離せよ」
「離させ方も知らないのか?力で解決してきたから分からないんだな」
「!!」
アーロイが力を入れた瞬間男に離されたのか後ろに転倒していた。
「そんな大量の加護を貰って生まれてきたのなら努力などしたことがないのだろう?我々の血を吐くほどの努力も知らんと見える。貴様のような狂犬に私は負けぬよ、もう」
そう言って俺達の方に向かってくる短髪。
俺に目を向けてきた。
「あなたがアイル殿か。初めまして。私はエルガルド王国騎士団団長のガルド」
そう名乗ってくるガルドと名乗る男。
「これよりあなたとアリシア王女様の盾となります」
そう言って俺達を先導して王城に向かうガルド。
その道中アーロイの横を通ることになったのだが
「待てよ。俺も同行させろ」
アーロイが声を出した。
「アイルに続いて2度も負けたままじゃ俺のプライドが黙っちゃいねぇんだよ」
そう言って今までに見せたことの無い表情でガルドを睨む。
「お前はこの国の暗部だろう?」
「はっ。数秒で王国間を移動できる俺にとっちゃどこの国にいても一緒よ。王様には許可を取らせる」
そんなことを言っている。
確かにこいつの速度を考えれば、それは可能だろうが。
問題は王が許可を出すかどうか、だな。
「てめぇのすまし顔崩してやんなきゃ気がすまねぇよ団長様よ。今まで俺が勝ってた。だからこれからも俺が勝つ。今日はたまたま調子が悪かっただけだ。相性だと?次は捻り潰してやるよ」
「好きにしろ」
俺たちはガルドに先導されて王の部屋に行きそこで出国の許可を貰った。
アーロイも条件付きだが許可を貰ったようだ。
「先行ってるぞ俺は、お前らは馬でも何でも乗ってこいよ」
そう言ってアーロイは先に消えた。
目で終える速度ではない。
「あんた、どうやってアーロイに勝ったんだ?」
俺はガルドと名乗った男に聞いた。
「簡単なことですよアイル殿」
そう言ってガルドは魔法を使った。
「アンチフィールド」
そんな魔法を使っていた。
ガルドを中心に5メートルくらいの距離をそのフィールドが覆う。
「この中に入ればあらゆるスキルや魔法は効果を失います」
ファイアを投げてこようが超スピードで迫り来ようがこの円に触れた瞬間、ファイアは消え速度は元のスピードに戻ると話すガルド。
「試合開始前に展開しておけば模擬戦において私はアーロイには負けませぬよ。勿論これがある限り他のバフ主体で戦う者にも負けません」
なるほど。
大量のバフを剥がしたのか。
それなら確かにアーロイに勝てる。
あいつはしょせん強化スキルに頼らないと勝てない奴だからな。
まぁその強化スキルの量がとんでもなくチートなんだけど。
話は理解した。
俺はガルドに目を向けて出国を促す。
これより俺たちは隣国のエルガルドへ向かうことになった。
エルフとの関係は劣悪にならないことをただ、ただ祈るだけだ。
俺がそうしているとガルドが話しかけてきた。
「この門出であなたも新しいものを見ることになるでしょう。エルガルドの鍛冶師が作る武器には他の国にはない、成長要素がありますから」
成長要素だって?
それは楽しみだな。
【あとがき】
この話で一部完です。
ここまでどうでしたか?
少しでも面白い、続きが気になるなど思って貰えましたらブックマークや評価など頂けると嬉しいです。
なお続きの書き溜めほとんどありませんので、ここで終わりとしてこの作品は完結とするかもしれません。
異世界転生したら【経験値1固定】という最底辺ゴミスキルを持ってましたが、俺だけ経験値を売れるっぽいので売ることにしました。街では俺とデートすると簡単に誰でも強くなれると広まってるらしいです。 にこん @nicon
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