第16話 チーターに喧嘩売られました


シノが何か言うのを待っていたら


「ねぇ、アイル私のパーティに来ない?」


そんな勧誘だった。


「通り俺はパーティには入らないよ」


毘沙門天の攻略の目処が大体付いている。

それが知られたらシノのパーティは終わりだろう。


正直現状未来のあるパーティだとも思わない。


だというのにシノは勧誘を続ける。


「いいじゃん。私と冒険しようよ」

「悪いな。俺は経験値屋だから」


そう言って無視していると何を思ったのかシノはイレーナに目を向けた。


「そのアイルの横にいる子見覚えあると思ったら私が倒した子だよね?名前覚えてないけど。変なスキルだったから覚えてるよ」

「イレーナ」


そう名乗るイレーナだけど、シノはイレーナじゃなくて俺に話しかけてくる。

明らかにイレーナを馬鹿にしたような口調で。


「ねぇ、知ってるアイル。その子さ。私に負けて年下の私に泣きついてきたんだよ。マジ泣きして。もうやめてって。笑えるよねー。恥ずかしくないのかなー?」

「や、やめてよ!そんな話するの!」


2人の間に険悪な空気が流れるけど俺は答えてやる。


「それが?」

「それが?ってそんなに弱い子なんだよって言ってるんだけど?私の方がいいよね?」


ニコニコの笑顔で話しかけてくるシノ。

俺は思う。イレーナは元聖女候補だったとは言え、毘沙門天なんていうチートスキル持った奴に勝てるわけない。


ステータス3倍?こんなスキル使って負ける方が難しい。


使ってきたのが年下だとしても負けるに決まってる。それだけの性能を持ってるスキルなんだから。


「毘沙門天なんてスキル持ってるなら勝って当然。イレーナが負けるのも当然」


俺はそう口にする。


これがゲームなら速攻弱体化食らうよこのスキル。


他のスキルは回復量2倍とか攻撃力1.2倍とかの中こいつだけステータス3倍だもん。

ゲームにならない。


ゲームでこんなスキル持った奴が出てきて1人で無双しても白けるだけだろ。


「アイル……しゅき」


そんな俺を見つめてくるイレーナ。

やがていつものように腕を組んできた。


「絶対勝てる相手に毘沙門天使って戦って勝ち誇るのはさぞ気持ち良さそうだね?お嬢ちゃん。どんな気分?すごいねー」


俺はシノに聞いてみたら彼女の顔は怒りで赤くなっていた。

挑発されることにはやはり慣れてないらしい。


それも当たり前か。

こんな常に勝っているような人間に誰が舐めた様なこと言えるんだって話。

俺だって相手がシノじゃなければ、別に何も言わないヘタレだ。


「な、何でそんなゴミスキルのゴミの味方してるのよ。私の方が強いし私の方が価値があるよ」


ゴミと来たか。

よっぽどイレーナを格下だと思ってるらしい。


「それで?俺は別に強いとか弱いとかじゃなくてイレーナの横にいるわけじゃない」


そう言ってやると拳を握りしめるシノ。


「今の言葉忘れないでよね?アイルお兄ちゃん?ここを出たらギルドに審判をして貰って模擬戦しましょ。どっちが上か教えてあげる」


そう言ってシノ12歳は去っていった。


12歳だから多めに見るつもりだよ俺は。

12歳だもん。ちょっと生意気なくらいがいいよ。


ここ大事だよね。




翌日。


夜営を済ました俺はシノ12歳がぷりぷり怒って進む後ろをついて歩いていた。


「なぁ、シノの奴なんか怒ってないか?」


エルザが聞いてきた。


「さぁ?シノは12歳だから魚の骨が喉に引っかかってイライラしてるんじゃない?」


昨日の晩飯が魚だったので適当に言っておく。


俺たちがそんな会話をしていると聞こえたのかシノがすごい顔でこっちを見てきていた。


その顔にシノのパーティメンバー達も困惑していた。


「ごちゃごちゃ言ってないで進む!」


怒ってどんどん直進するシノ。

まるで止まることを知らない猪のようだった。


「なぁ、アイル。今回私はシノに報酬を譲ろうと考えている」


と、そう自分の意思を表明するエルザ。


「なら、いんじゃない?」


俺は別に報酬なんてどうでもいいし。既に同行の報酬は貰ってるからどうでもいい。


そのまま進んでいくと勝手にモンスターを1人で蹴散らしてズンズン進んでいくシノ。


どれだけスキルの毘沙門天がぶっ壊れなのかが分かる。

あいつ1人でいいんだもん。


まぁ俺は楽できていいけど。

仕事なんてサボってナンボじゃん。


サボって稼ぐこれが最適解。


そうして雑魚を蹴散らしながらボスフロアまでたどり着いたシノだったけど


「毘沙門天!」


スキルを発動させたら倒れるボス。

Aランクモンスターだったがスキル1発で倒れる。


ゲームならもういいよってなる展開だけどこれ現実だからなぁ。

俺は楽できてよかった。


シノを適度に挑発してれば勝手に倒してくれて勝手に攻略できるから楽な依頼だったな。

エルザさん、金貨5枚ごちです。


これで美味いもんでも食いに行きます。

そんなことを思っていたらクリアした者だけが進めるクリアルームに直行するシノ。


俺達もそこから帰還するために向かうのだが入ったらシノがクリア報酬を手にしながら声をかけてくる。


「ねぇ、このクリア報酬をさ。模擬戦の報酬にしない?私が勝てば私に。アイルが勝てばアイルに、ってさ」


そう言ってにっこり笑うシノ。


「シノがそれでいいならいいんじゃない?」


俺はそう返す。


「皆の目の前で負かしてあげるから覚悟しててよね経験値屋さん?♡」


俺はそんなシノに一応3日くれと伝える。


「いいよ、結果なんて変わらないからね。無様に泣いてね。後で泣いて許してって謝っても許さないからね。記念すべき1万勝目はアイルお兄ちゃんだから♡」


9999勝0敗 勝率100%


これが最後にシノが見せてきた戦績だった。

すげぇなぁ。チートスキルは。

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