第17話 読み合いにすらならないので余裕です
ダンジョンから帰宅して3日。
俺は銅貨1枚にもならないのに3日かけてシノの攻略法をイレーナ達と練習していた。
確認のためにギルドに残っていたシノの戦闘記録も見させてもらった。
全ての戦いを毘沙門天で決めているあいつは。
それだけ強力なスキルなのだ、やはり。
そして模擬戦当日。
舞台となる場所に俺は来ていた。
シノが集めたらしく観客まで入っている始末だ。
中には賭けている奴もいたし、俺たちを紹介する奴らもいた。
「シノは公式記録9999勝0敗という異次元の記録を叩き出す冒険者!そして対するは最近噂の街の経験値屋さん!果たして勝つのはどっちだ!!」
なんて風に紹介されていた。
殆どの奴がシノに掛けていて俺に賭けているのなんてユイ達やイレーナ達くらいだった。
「逃げずに来たことは褒めてあげる。この毘沙門天を持つ私に勝てると本気で思ったから来たのよね?笑えるよ」
そう言って剣を構えるシノ12歳。
負けるビジョンが見えなかった。
「クリア報酬、ご馳走様」
そう言って挑発しておく。
「ほ、本気で勝てると思ってるの?無スキルがこの毘沙門天の私に」
「思ってるさ。だってシノは弱いから。スキルが強すぎるだけ」
シノの顔に血管が浮かぶ。
本気でイライラしているのだろう。
扱いやすいやつだ。
「減らず口ここで消し飛ばしてあげる」
そうして準備を終わらせる俺たち。
試合は開始の一手で決まる。
審判であるギルドマスターのルーシーの動きをしっかり見る。
「始め!」
スタートと同時にシノがスキルを使って走ってくる。
それを確認して次の一手を確認する前にしゃがんでシノの通り道に先に足を置いておく。
置き技。
本来なら牽制以上の役割でしかないけどこいつの場合馬鹿だから有効打になる。
「なっ!」
それだけで俺の足に躓いて転けるシノ。
その隙を見逃さない。
ずさぁ!と前のめりに顔面から転けたシノの首筋にナイフを押し当てる。
一瞬の出来事。
基本的に無防備な状態で首や顔に武器を押し付けられたらその時点で模擬戦では勝ちとなる。
「しょ、勝者アイル!!!!」
判定を下すルーシー。
それを確認して俺は押し当てていたナイフを離すとシノからも離れた。
「な、何でどうして……毘沙門天の私が……」
その時シノの記録を表示していたモニターの数字が切り替わった。
9999勝0敗
から
9999勝1敗
これは初めてシノが敗北を知った瞬間。
「う、ううううう、う、嘘だ!私が負けるはずが!取り消せ!私の戦績を汚すな!」
再度迫り来るシノ。
足の運び方も敵との距離感もめちゃくちゃだ。
目だけで確認しているけど剣の持ち方すらもめちゃくちゃ。
ただ、まっすぐ敵に走ってくるだけ。
「や、やめろ!シノ!もう勝負は!」
止めるルーシーだけど俺も動いていた。
同じようにしてまたナイフを押し当てる。
9999勝1敗
から
9999勝2敗
に変化。
「まだ敗北数増やすつもりか?お嬢ちゃん。やめとけよ。今の君じゃ俺には勝てない。一生ね。1万回やっても俺が勝つよ」
俺はそう言いながらナイフを離す。
「な、何で私が……こんなのに……!何で私がスキルなしに負けるのよ!」
「言ったろう?シノを攻略したって。君は弱いって言ったじゃん」
俺はそう言うとイレーナを呼んだ。
彼女もきっちりこの日のために俺と一緒に訓練していた。シノ対策のためだけに。
さぁ、現実を教えてあげよう。
「シノ、私とも勝負して」
「な、舐めるなぁぁぁ!!!!私は毘沙門天に愛された!!冒険者なんだぁぁぁ!!!!」
ルーシーの合図も無視してシノはイレーナに襲いかかる。
でも
「な……なんで……」
イレーナによって倒されていた。
9999勝2敗
から
9999勝3敗
に変化。
「な、何で勝てないのよ!私は毘沙門天に選ばれた。神に祝福された人間なのに!何でこんなゴミスキルを持った奴らに!」
本音がダダ漏れになっている。
俺は彼女にはなにをしたかは言わない。
それは自分で気付くべきだと思うから。
「ほ、本当に勝てちゃった」
逆にイレーナは俺の顔を見て駆け寄ってきた。
「か、勝てたよ!毘沙門天に勝てたよ!アイル!」
そう言って抱きついてくる。
こんな番狂わせが起きた会場は沸き立つ。
「び、毘沙門天のシノが負けるだと?」
「あ、あの経験値屋は何者なんだ?!」
「常勝無敗。Sランク到達最年少の天才と呼ばれたシノだぞ?」
そんな声が上がる中俺はシノに目をやった。
あいつは可哀想な奴だ。
毘沙門天なんていうとんでもないスキルを渡されて、スキルを押せば勝てる環境で育ってきた。
そんなチートスキル渡されて訓練なんてマトモにやるわけが無い。
ゲームでチート使う奴もそう、攻撃したらその瞬間勝てるせいで、敵の行動パターンなんて知らないから動かれた時にどうしたら避けれるか、とか知らない。
それと同じで
あいつの攻め方は1パターンしかなかった。
前に出て剣を横に振る。
避けられたらもう一度振り直す。
それだけ。
でもそれだけの動作がチートスキルのせいで異常に速いし重い。
普通の人では剣を振られてからじゃ絶対に反応できないし、何が起きてるのか目で追えない。
俺はゲームで鍛えたお陰で追えたけどイレーナ達は何が起きているのか分からないと言っていた。
だから俺が教えたのは一つだけ。この1パターンが来るのを信じて、シノが動き出す瞬間に予め足を出して転けさせる。速いだけでそのスピードを扱えきれてないから絶対にシノはコケる。
シノはこれ以外の攻撃パターンを持ってないからこれだけ対処するだけで勝てる。
1度シノのペースを崩せればシノはその後何をすればいいか分からなくなるから簡単に勝てる。
俺にとっては来るのが分かってる攻撃なんてカモだ。
ゲーム上位層と長時間睨み合ってた俺には朝飯前。
それがシノ攻略法。
「わ、私が、神に愛された私が、どうして……」
シノは泣き始めた。
「な、何で神に愛された私がこんな神に見捨てられたEランクのゴミみたいな奴らに!!!!負けるの?!!!!ははっ……夢……夢に決まってるよこんなの……」
俺はイレーナを連れてこの場所を後にすることにした。
今更俺たちがシノにかける言葉もないだろうし。
でもあの子立ち直れるかな?
シノは12歳なんだから心が折れてないかちょっと心配だな。
俺手加減しなかったし。
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