異世界転生したら【経験値1固定】という最底辺ゴミスキルを持ってましたが、俺だけ経験値を売れるっぽいので売ることにしました。街では俺とデートすると簡単に誰でも強くなれると広まってるらしいです。
にこん
第1話 それは、追放ごっこされるような
俺はこの日一大イベントの前に前世を思い出していた。
俺の前世はいわゆるゲーマーだった。
ハマったのはマイナーなチーム戦の対人ゲーム。
公式大会に出場した時のことを思い出す。
俺の横に座るのは眼鏡をかけたおっさん2人。
数年の付き合いだ。ちなみに俺も眼鏡をかけたおっさんだ。
他のチームにいた女の子達とか羨ましかったよ正直。
でもチームの見た目を犠牲に掴み取った結果は大会優勝。圧倒的連携力で頂点に輝いた。
公式大会決勝戦、モニターにでかでかと表示される【WIN】
「しゃ!おらぁ!」俺はチームのおっさん2人と抱き合った。それ程までにやはり大会優勝というのは嬉しい事だった。
その後に行われた表彰式で俺は、嫉妬した相手チームのリーダーに刺殺された。
結果だけ見ればおっさんがおっさんに殺されただけなんだけど。
それが俺の悲しき悲惨な人生だった。
───────はい。回想終わり!
そんな悲しい人生を送った俺だからきっとチートスキル貰ってるのは確定してると思うんだ。
そんなこんなで5歳の誕生日を迎えた俺アイルを今日はイベントが待っていた。
神託の儀式と呼ばれるもの。
その人間がどんな才能を持っているかを告げられるイベントだ。
周りは剣術スキルを貰った!とか弓術スキルを貰った!とか騒いでる。
まぁ余裕じゃないっすか?
俺転生者だし。
悲惨な過去持ちだもんね。
東の小さな国でこんな世界より技術が進歩した世界から、わざわざそこんな所まで転生して呼び出すような人間なんだぜ?俺は。
まぁ余裕っしょ。
スペシャル中のスペシャルに決まっている。
特別なんだぜ?俺は。
絶対、そうに決まってる。
その時
「お、おぉぉぉぉぉぉ!!!!!!これはぁぁぁぁぁ!!!!!!」
声が上がる。
声を出しているのは神託を受け取っている神父だった。
そして今その神託を受けようとしているのは俺の幼なじみだった。
名前はビルチ。
神父がそのお告げをビルチに教える。
「ビルチのスキルは回復量2倍!強スキルだ!!!!!君は聖女になれるぞ!!!!勇者パーティ候補にもなれるだろう!!!!」
喜んでいるビルチ。
やがて俺の近くにやってきた。
「やったー!私強スキルだって!」
そう言って俺の両手を掴んで喜んでくる。
「やったじゃないか」
「うん!一緒に王都に行こうね!」
王都。俺たち子供の憧れだ。
強スキルを持っていれば栄光の勇者パーティの候補として呼ばれることもある。
そんな王都に行って勇者パーティを目指す。
ずっとビルチと約束していた。
「次、アイルの番だよ」
ビルチに言われて俺も神父の前に歩いていく。
さて、どんなスキルが貰えるかな?
何たって俺は特別なんだよね。
転生者。
特別中の特別に決まっているさ。
どんなスキルが貰えるか予想する。
スキルヒット数5倍とか?いや、そんなんじゃないよな。俺だからヒット数99倍かもしれない。
いやぁそれじゃバランス壊れちゃうなぁ。
中間の50くらいでいいよ。
俺はその辺のバランスは大事にするつもりだよ。元ゲーマーとしてね。
「アイル、君のスキルは【獲得経験値1固定】だ」
「え?剣術スキルヒット数500倍?」
俺が聞き返すと神父は困惑したような顔をしてからまた口を開いた。
「君のスキルは【獲得経験値1固定】だ。ユニークスキルだが……」
言い淀む神父。
俺は一瞬で全てを理解した。
ゴミスキルだ、これ。
握りしめる拳がワナワナと震える。
周りからは
「おいおい、聞いたかよ?!あいつとんでもねぇ、ゴミスキル持ってるぞ」
「はははは!!!!笑っちまうよなぁ!経験値1固定って!ギャグセンス高すぎ!!!流石アイル!期待を裏切らないなあいつ!」
爆笑されている。
全員俺を嘲笑っていた。
馬鹿にしていた。
それでもビルチだけは笑っていなかった。
「ア、アイル?」
「ご、ごめん。そっとしておいて欲しい」
その場にいられなくなった俺はビルチの声も無視して家に帰ってしまった。
部屋に閉じこもった俺の頭の中はずっととある文字がグルグルと駆け回っていた。
それは
【獲得経験値1固定】
この文字が頭から離れてくれない。
あの神父の声と、可哀想なものを見る顔が忘れられない。
「ははっ、なんだよ。冗談だろ?獲得経験値1固定?」
普通最弱のスライムを倒しても獲得経験値は2をもらえると言われている。
俺のそれは更にその最弱を超えた1に固定してしまうスキルだと推測される。
「な、何で、俺は転生者で特別じゃないのかよ」
信じられなかった。
俺がこんなにハズレスキルを引いてしまったことが。
バッ!
いても立ってもいられなくて俺は部屋の扉を開けて近くの草原に向かった。
そこにはスライムがぷよぷよと跳ねていた。
「有り得ない!有り得ない!俺のスキルが獲得経験値1固定?!」
ズバッ!ザン!
スライムを倒す。
【アイルがスライムを撃破。経験値を1獲得しました】
無慈悲にそんなウィンドウが出てきた。
「くそおぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!!何なんだよこのスキル!!!!!!」
俺は剣を握ったまま地面を殴った。
「何なんだよこれ!何なんだよこのスキル!!!!!」
俺がそうやって吠えていると
「だ、大丈夫?アイル」
ビルチが駆け寄ってきて俺に声をかけてくれた。
でも
「やめてくれ。そっとしておいて欲しい」
そう言ってみたら
「ヒャハハハ。ばっかみてー!」
また違う声が聞こえた。
そちらに目を向けるといつも俺をいじめてくる男のディーザが立っていた。
「獲得経験値1だぁ?!ゴミすぎだろお前!ぶーひゃっひゃっひゃ!!!!」
そのディーザが剣を握ってスライムを倒す。
【ディーザがスライムを撃破。経験値を2獲得しました】
やがて新たなウィンドウが浮かぶ。
【ディーザの確率スキルが発動。経験値が+1され。合計獲得経験値3】
そう言えばうっすらと聞こえていた。
こいつのスキルは獲得経験値+1。
ランダム発動みたいだけど。
【ディーザのレベルが上がりました。現在レベル2】
「可愛そうになぁアイル?こんなゴミみたいなスキル貰っちゃって。俺の経験値分けてやりてぇくらいだよ。あげねぇけどさ」
ギャーハッハと下品に笑うディーザ。
それからビルチに目をやった。
「なぁ、ビルチ。将来俺と結婚しようぜ」
「いや!私はアイルと結婚するの」
そのビルチの優しさが痛かった。
俺は本当に無能力なのに。
「ごめん、ビルチ。俺は無様だ」
「ひゃーはっはっは!よく分かってるなぁ?!お前」
その後ディーザは思い出したように口を開いた。
その顔は歪んでいた。悪魔のように見えた、
「アイル!お前を追放する!なぜならお前は経験値1固定というゴミみたいなスキルを持っているからだ!俺たちの足を引っ張ることしかできないのか!」
ぶひゃひゃと下品に笑いながらそんなことを言ってくるディーザ。
別にパーティなんて組んでないから、ごっこ遊びだろうけど、やられる側の俺は本当に辛かった。
「これ、王都で流行ってるらしいぜ追放ってやつ。要らねぇ奴をパーティから追放するんだってさ!お前はもう要らねぇよアイル!追放だ!」
「ふひゃひゃひゃひゃひゃ」と笑ってディーザは去っていく。
その間際にディーザは俺たちに振り返って
「ビルチもどうせそんなゴミ見限って俺の靴舐めるようになるしなぁ?」
そう言って村の方に戻って行った。
俺はビルチに肩を貸してもらって立ち上がる。
「もう、帰ろ?お父さんたち心配してるよ」
俺はビルチに引きずられるようにして家に帰っていった。
ちなみに俺の両親は冒険者で、優秀な兄を連れて旅に出かけてから帰ってこない。
みんな多分死んだんだ。
それから俺はビルチの家にお世話になっている。
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