Scene13

 胸のドキドキが収まらないまま、葵はショッピングモールを出た。

『じゃあ、明日の朝九時に駅前で』

 あれから本当にデートのような誘われ方をされた葵は、しばらく放心状態だったが、気付けばもう夜の十時に迫ろうとしていた。基本的に真面目(で陰キャ)なJKである葵にとっては、友達とどれだけ盛り上がっても到達することのない時刻だ。

「どうしよう……」

 スマホを見ても両親からの心配の連絡が一切入ってきていなかったことに、多少の物悲しさを覚えつつも、葵は帰ってからの言い訳に頭を悩ませた。

 それにしても今日は長い一日だった。朝早くから散々恭一を喫茶店で待ち伏せしたところから始まり、目当てのイケメンと遊園地デートをして、別のイケメンにデートに誘われた。他にも何かあったような気もするが、葵はあまり覚えていなかった。

 行き慣れた道を、いつものように歩く。数分も経たない内に家が見えてきた。あれ? おかしいな。こんな時間なのに灯りがついていない。両親も姉も、みんな家を空けているということがあるのだろうか?

 鍵はかかっていた。やっぱり揃ってどこかに行ったのだろうか? おそるおそるドアを開けてみる。

「ただいまー。お母さーん、お姉ちゃーん、いるのー?」

 悲しいことに、葵の頭の中には父親の存在は端からなかった。

 

 葵が呼びかけても家の中から返事はなく、静まり返っていた。葵はしばらく訝しんでいたが、ふと、あっ! とあることに気が付いた。

 そうだ。今日は火曜日だ。家族みんな(父親は除く)、火一〇のドラマは絶対リアタイしているではないか。それも今日は注目していた新クールの初回だ。そうだ、今日家族(父親は除く)が家にいないのはおかしい。

 葵は取り急ぎドラマの録画設定をしてから、怒涛の勢いで家を飛び出した。

「南波ーーー!!! ウチの家族どこやったァーーー!!!!」


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