Scene22

「負のエネルギーが地上に戻るのを嫌がってるって、そんなことありえるの?」

 葵は、恭一とは対照的に、その怪物達をとてもじゃないが直視できなかった。

「わからん。しかし負のエネルギーなんて元々得体の知れないもんだ。俺達みたいな能力者は今までよくわからないまま代々実験を繰り返し、出来ることを確認してきただけだ」

 葵は、唇をかみしめて恭一のその言葉を聞いていたが、少ししてあっと顔を上げた。

「あ、そうだ! 南波くんたち、大丈夫かな? あの人たちみんなここにいるんでしょ?」

「ああ、俺も気になってた。会えたやつから地上に降ろせとあいつには言っといたが……」

「助けに行こう!」

「そうだな、一旦合流した方がよさそうだ。俺達のためにもな」

 そうして二人が目を向けた先には、やっぱり変わらず怪物の群れだ。

「で、どうやって行くの?」

 葵が、それまでの意気込みから一転して、気の抜けた声で恭一に尋ねる。

「はいはい…… 分かりましたよ……」

 恭一は苦笑いで右手を天高くに掲げた。そして煌々と光り出す。しかし、数秒と経たない内に光がしぼみだした。

「あれ?」

 そのあとも必死に力むが、ぼんやりした光しか発されない。

「えーと、恭一くん?」

 葵が冷や汗をたらしながら恭一を見る。

「やっぱり負のエネルギー自体が反乱を起こしてる。操るのが超きつい」

「ちょっと! どうすんのよ! そんなことじゃ、助けにいくどころか私達が大ピンチじゃない!」

 葵が再びギャオギャオと吼える。

「うるせえ!」

 恭一はそう言って、葵の手をばっと掴んだ。不意のことに葵の胸が再びキュン、と鳴る。

 すると、恭一の手から放たれる光の量が明らかに増加した。

「おお、さすが、すごい能力だ。この能力があれば、この反抗的な負のエネルギーも乗りこなせそうだ」

 そう言った恭一は、さっき南波にけしかけたのと同じような東洋風のドラゴンを生み出した。

「怪物には怪物ってな」

 その龍は一旦、周囲を一回りし、一番近くにいる怪物達を蹴散らしてから、恭一と葵の方へ一直線に飛んできた。

「ぎゃーーー!」

 葵は恭一の手を振り払い、両手で顔を覆った。しかし恭一は再び葵の手を無理矢理掴む。そしてそのまま、自分の身体にぴったりと抱き寄せ、抱え上げた。〝お姫様抱っこ〟だ。

「え……」

 葵の思考が停止する。頬が勝手にどんどんと赤くなっていく。しかしそれとは対照的に、恭一の顔は真剣なままだ。

「跳ぶぞ!」

 恭一は足元に小さなトランポリンを具現化させ、龍が二人に喰らいつこうかとする瞬間、ちょうど龍の頭上にくるように跳躍した。そしてそのまま、龍のふさふさのたてがみの上に着地する。そこは葵が想像するよりもはるかにふわふわだった。

「すごーーーい!」

 さっきまでの緊迫した状況が嘘のように、葵は龍の首の上でゴロゴロする。

「これ、私が今まで寝てきたどんなベッドより気持ちいいよ!」

「こだわってみました」

 隣で寝転びながら、恭一が胸を張る。恭一は葵の手をぎゅっと握ったまま、指をパチンと鳴らした。

「何してるの?」

 葵も恭一の手をぎゅっと握り返したまま、無邪気に尋ねる。

「んー、ちょっとね」

 恭一は不敵に微笑んだ。

 そのとき、龍に乗っている葵からはよく見えなかったが、その真下では、恭一が大量のミサイルを発生させ、怪物達を空爆していた。弱々しそうな怪物から、どんどん消滅していく。

 龍は南波一派を助けるため、一直線に飛んでいった。


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