Scene4

 地面が揺れるのは怖かったが、恭一に触れてもらえたのが嬉しくて、葵はじっと恭一の顔を見上げていた。一方で、そんな葵が見つめる恭一の目が、どんどん驚きで見開かれていく。

「いや、そんな。まさか……な」

 揺れはどんどん大きくなってきていた。地震はこんな後から強くなるものだっけ?

 そんな違和感を覚えつつも葵は、周りのビルが崩れてこないか心配になった。だが、目の前にいる恭一は、まるで揺れを感じていないかのように微動だにしていない。

「恭一くん、私、怖い」

 動揺と恐怖の狭間で葵の頭の中に巣食っていたのは、この揺れを利用して何とか恭一とお近づきになれないかという思いだった。

「一体、どうしたんだ? 気分でも悪くなったのか?」

 恭一は少しかがみ、葵の瞳を覗きこむ。葵も、もっとずっと目を合わせていたかったが、揺れがさらに強くなりそうも言ってられなくなった。恭一の袖をつかみ、転ばないように精一杯踏ん張る。

 そんな様子を見ていた恭一が観念したように天を仰いだ。

「おい、まじかよ。今まで我慢してたのが馬鹿みたいだ」

 そう呟いた恭一は、それまでの安定感が嘘のようによろつき始めた。恭一に掴まっていた葵も転びそうになる。

「ええい。めんどくさいな」

 恭一はそう言ってズボンのポケットからスマホを取り出し、電話口の相手に向かって口早にこう叫んだ。

「おい。誰か早く止めてくれ」

 約十分後、唐突に揺れが止まった。さらに少し経って、余裕を取り戻した葵の頭の中は疑問符でいっぱいだった。まず、地震にしては長すぎる。それにこんな後からどんどん強くなっていく揺れがあるだろうか。それに……不可解な恭一の電話。

 葵は急いでスマートフォンを取り出し、この地震の被害状況を確認しようとした。これだけの長く強い揺れだ。世の中は未曾有の大被害に遭っていることだろう。

 しかし、インストールしているニュースアプリは速報のポップアップを何も出していなかった。SNSで検索しても何もヒットしない。

 何より、家族友達の誰もそれについての連絡をしてきていなかった。それどころか、たった今来た母からのメッセージで、今日の夕飯の献立についてのものだった。

 葵の視線は、手元のスマホからスライドし、そのまま恭一の顔にそそがれた。

「うーん……」

 恭一は頭をかきながら、葵をどう対処しようか考えあぐねている様子だった。


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