Scene20

 そこから約十分、葵による叱咤激励、罵詈雑言の末、恭一は何とか立ち上がった。

「全く、人遣いの荒いやつだ」

 恭一は明らかに機嫌が悪くなっている。

「これができるのあんたしかいないでしょ」

 葵が恭一の背中をバンバンと叩く。

「いや、やっぱり君にも手伝ってもらう」

 恭一がさらっととんでもないことを言った。

「え!? 何?」

「手を貸せ」

 恭一はそう言って、葵の左の掌と自分の右の掌を合わせた。そのままぎゅっと握る。

 きゃーーー。きゃーーー。

 葵は内心パニックに陥っていた。父親以外の男の人と、こんな第三種接近遭遇をしたことなど、今まで一度もない。

 しばらくツッコミ役に回りすぎていて忘れていたが、そうだった、恭一って相当のイケメンだった……

「さ、やるぞ」

 煙が出そうなほど顔が真っ赤っかになっている葵を尻目に、恭一は繋いでいない方の左手を前に突き出した。

「さ、君も」

 そう促され、葵も右手を同じように突き出した。


 恭一は深く深呼吸した。

「はあーーーーー!!!!」

 前に突き出した二人の手がわずかに発光する。次の瞬間、さっき恭一がやったときよりもはるかにすごい勢いで、負のエネルギーが地上に流れ出し始めた。

「すごーーーーい!!!」

 それこそ豪雨の後の濁流のよう、さっきまではびくともしなかった天国の大地が、どんどんと削られていく。

「私ってこんな力があったんだーーーー!!!」

 光の滝が流れゆく反動で、周りの光景もキラキラと輝き、二人の髪の毛が浮き立つ。葵は感動のあまり、開いた口が塞がらない。

「いや、実際に動かしてんのは俺だから!」

 恭一も憎まれ口をたたくが、顔は嬉しそうだ。

「俺が媒介になって操って、君の能力を引き出してる。でもすげーぞ、これ! 操れるエネルギー量がケタ違いだ!」

 その口調からも、恭一があきらかに興奮しているのが分かる。

「じゃあ、やっぱり私のおかげじゃない」

 葵が胸を張る。

「いや、俺の技術だな」

 恭一は何としてもそこはゆずろうとしない。

「これだけの量のエネルギーを氾濫させずに一方向に流すだけでも相当難しいんだぞ」

「でも、さっきは全然動かせてなかったじゃない。能力が足りてないんじゃないの?」

「俺は技巧派なんだ。カ〇シ先生タイプの能力者なんだよ」

「ちょっと、これ終わったら寝込むんじゃないでしょうね」

 そういった軽口を叩きながらも順調に天国を解体していっていた二人は、直前まで二人を狙う殺気に気付かなかった。


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